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お互いにバタバタして、全然話していない日が出てきた。朝ご飯の時に、その日のお互いの予定を伝え合う時が一番話していなかった。夜になると、黒崎は書斎にこもって仕事をしていたし、俺は歌詞を書いていた。
(寂しいなあ。こういう日が増えるんだろうなあ。大喧嘩になったりして……)
そういう日が来ないことを祈っている。さっきイチャついたばかりなのに、こんなことを考えている。黒崎からのツッコミみは入らない。俺の表情の細かいところまで見ていて、何か考えていることがあるだろうと聞いてくるのが今までだった。最近はそうでもなくて、よく言えば、俺のことを尊重してくれている。遠慮かも知れない。
「ねえ。黒崎さん」
「どうした?」
「最近、あんたからの束縛がなくなったよね。何考えているんだ?って、ツッコんできていたじゃん。今俺は悩んでいるんだ。話す時間が無くて、すれ違いになるかも知れないって思っていて……。さっきと同じ事を言っているんだけど。モヤモヤするんだ」
「夏樹。疲れているんだろう。おいで」
「黒崎さん……」
黒崎が俺のことを軽く抱きしめた。さっきまで一番近くに感じていた体温だ。離れることなんてないのに。黒崎が言うとおり、疲れているのだろうか。
「コンサート前だから、ナーバスになっているんだろう。一ヶ月前は、違うことを言っていたぞ。のびのび出来る。そう言っていたはずだ」
「俺、そんなこと言っていたっけ?忘れたよ」
「泣くな。いや、泣いても良い」
「泣かないよ。あんたが心配するから」
ぎゅっとしがみついた。黒崎の方こそ、何かあったのかも知れない。言えないことなのだろう。そういうことは多いと思う。俺の方がペラペラと喋り、黒崎は寡黙な方だ。この家のことで必要なことは、タイミングを見て話してくれる。
「夏樹。食べよう。腹が鳴っているぞ」
「そう?あ、ほんとだ」
お互いに笑い声が立った。ダイニングテーブルに向かい合い、いただきますと言った。黒崎がトンカツを食べて、美味しいと言ってくれた。作りがいがあると思った。デザートは柿だ。もう剥いてある。黒崎が好きだから良かった。
「黒崎さん。デザートに柿があるよ。二葉が取引先から受け取ったんだって。秘書室のみんなで分けたけど、食べきれないからって、持って来てくれたよ」
「あの箱か?」
「うん。けっこうあるだろ。佳代子さんに食べてもらおうか?」
「そうだな。俺が行く。お前は家にいろ」
「あんたは疲れているだろ。……いいの?明日なら、俺も行くよ。お向かいさんだし」
やっぱり黒崎が俺に気を遣っていると思った。普段通りの偉そうな態度でいてもらいたい。黒崎らしくないと思った。
「黒崎さん。偉そうになってよ~」
「どういうことだ?」
「何でも家事は俺に押しつけて、偉そうな物の言い方をするってやつだよ」
「俺はそういう酷い男なのか?」
「酷くはないけどさ。いかにもあんたらしさがあるよ。副社長になって、仕事で変わったことがあった?社員に気を遣って、胃が痛くなったとか……」
「いつも痛い」
「まさか浮気をしているのかよ?急に優しくなったら危険なんだってさ」
「まだ言っているのか」
「そう、その言い方だよ。気持ちが良いよ」
「一貴に似てきたんじゃないか。同じ事を言っているぞ」
「8歳年下の弟に偉そうにされても大丈夫だなんて、度量が大きい人だよね。俺だったら、怒るよ」
「お前の方こそ、俺のことを叱らないじゃないか。同じだ。気を遣いすぎだ」
「だめだね。うん。コンサート前のナーバスさから来るものだよ」
これ以上何か言うと、喧嘩になりそうだ。黙った俺のことを見て、黒崎が笑った。ご飯のおかわりは?と聞くと、欲しいと言った。これは俺がしている。彼のお茶碗を持って、炊飯器のところまで行った。普通ぐらいに入れてくれということだ。そして、お茶碗にご飯をよそって、ダイニングテーブルに戻った。お腹が空いていたらしく、おかずがほとんど残っていない。
「まだ作り置きのおかずがあるよ。出そうか?」
「頼む」
「うん。オッケー」
ひんやりしたおかずだ。保存容器から出して、小皿に盛り付けた。俺も食べようかと思った。あじの南蛮漬けだ。美味しそうだ。しかし、厚焼き玉子が残っている。食べきれなさそうだ。すると、黒崎が食べてくれると言った。以心伝心に戻った。なんだか気持ちがほっこりして、ダイニングテーブルに戻った。
(寂しいなあ。こういう日が増えるんだろうなあ。大喧嘩になったりして……)
そういう日が来ないことを祈っている。さっきイチャついたばかりなのに、こんなことを考えている。黒崎からのツッコミみは入らない。俺の表情の細かいところまで見ていて、何か考えていることがあるだろうと聞いてくるのが今までだった。最近はそうでもなくて、よく言えば、俺のことを尊重してくれている。遠慮かも知れない。
「ねえ。黒崎さん」
「どうした?」
「最近、あんたからの束縛がなくなったよね。何考えているんだ?って、ツッコんできていたじゃん。今俺は悩んでいるんだ。話す時間が無くて、すれ違いになるかも知れないって思っていて……。さっきと同じ事を言っているんだけど。モヤモヤするんだ」
「夏樹。疲れているんだろう。おいで」
「黒崎さん……」
黒崎が俺のことを軽く抱きしめた。さっきまで一番近くに感じていた体温だ。離れることなんてないのに。黒崎が言うとおり、疲れているのだろうか。
「コンサート前だから、ナーバスになっているんだろう。一ヶ月前は、違うことを言っていたぞ。のびのび出来る。そう言っていたはずだ」
「俺、そんなこと言っていたっけ?忘れたよ」
「泣くな。いや、泣いても良い」
「泣かないよ。あんたが心配するから」
ぎゅっとしがみついた。黒崎の方こそ、何かあったのかも知れない。言えないことなのだろう。そういうことは多いと思う。俺の方がペラペラと喋り、黒崎は寡黙な方だ。この家のことで必要なことは、タイミングを見て話してくれる。
「夏樹。食べよう。腹が鳴っているぞ」
「そう?あ、ほんとだ」
お互いに笑い声が立った。ダイニングテーブルに向かい合い、いただきますと言った。黒崎がトンカツを食べて、美味しいと言ってくれた。作りがいがあると思った。デザートは柿だ。もう剥いてある。黒崎が好きだから良かった。
「黒崎さん。デザートに柿があるよ。二葉が取引先から受け取ったんだって。秘書室のみんなで分けたけど、食べきれないからって、持って来てくれたよ」
「あの箱か?」
「うん。けっこうあるだろ。佳代子さんに食べてもらおうか?」
「そうだな。俺が行く。お前は家にいろ」
「あんたは疲れているだろ。……いいの?明日なら、俺も行くよ。お向かいさんだし」
やっぱり黒崎が俺に気を遣っていると思った。普段通りの偉そうな態度でいてもらいたい。黒崎らしくないと思った。
「黒崎さん。偉そうになってよ~」
「どういうことだ?」
「何でも家事は俺に押しつけて、偉そうな物の言い方をするってやつだよ」
「俺はそういう酷い男なのか?」
「酷くはないけどさ。いかにもあんたらしさがあるよ。副社長になって、仕事で変わったことがあった?社員に気を遣って、胃が痛くなったとか……」
「いつも痛い」
「まさか浮気をしているのかよ?急に優しくなったら危険なんだってさ」
「まだ言っているのか」
「そう、その言い方だよ。気持ちが良いよ」
「一貴に似てきたんじゃないか。同じ事を言っているぞ」
「8歳年下の弟に偉そうにされても大丈夫だなんて、度量が大きい人だよね。俺だったら、怒るよ」
「お前の方こそ、俺のことを叱らないじゃないか。同じだ。気を遣いすぎだ」
「だめだね。うん。コンサート前のナーバスさから来るものだよ」
これ以上何か言うと、喧嘩になりそうだ。黙った俺のことを見て、黒崎が笑った。ご飯のおかわりは?と聞くと、欲しいと言った。これは俺がしている。彼のお茶碗を持って、炊飯器のところまで行った。普通ぐらいに入れてくれということだ。そして、お茶碗にご飯をよそって、ダイニングテーブルに戻った。お腹が空いていたらしく、おかずがほとんど残っていない。
「まだ作り置きのおかずがあるよ。出そうか?」
「頼む」
「うん。オッケー」
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