青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 23時。

 寝室のベッドの上で寝返りを打った。明日は大学があるから早く寝ないといけないのに、目が冴えている。黒崎は書斎にいる。あと一時間ぐらいは籠もっているだろう。さっき、お茶を差し入れしてきた。何か資料を読んでいたから、長居せずに、寝室に戻った。

 ゆっくり伸びをすると、窓の外のセキュリティーライトの明かりに気づいた。今までカーテンを付けていなかったが、付けようかという話になっている。ここからは月が見えるからちょうど良かったのに、仕方がない。ライトを増やしたからだ。危険なことが無いようにだ。お義父さんの家にも増やしてある。

 それはうちだけではなくて、近所中だ。不審者が出ているらしい。我が家の門の辺りにたまに居る人だろうか。そう思ったが、違うらしい。黒崎が警戒している。

「カーテンの色は何色がいいかな?クリーム色にしようかな。これは黒崎さんに任せようっと」

 きっとその色になると思う。窓を見て、そう思った。すると、ドアが開き、黒崎が入ってきた。

「お疲れ様。今日は早いんだね。また書斎に戻るの?」
「いや、もう寝る。もう一回どうだ?」
「すけべじじい。明日は大学だよ」
「冗談だ」

 黒崎がベッドに寝転がった。そして、軽く目を閉じて、俺の名前を呼んだ。

「どうしたの?」
「ユーリーから連絡が入った。親父さんが入院したらしい」
「そうなんだね……」

 ユーリーとは、ユリウス・バーテルスさんのことだ。ドイツの人で、出版社で勤務している。お父さんはフェリックスさんといい、黒崎製菓グループのバーテルスビスケット会社の会長だ。バーテルス家と黒崎家は昔から交流があると聞いている。お母さんのエミリアさんは、お義父さんと交流があり、お兄さんのように思っていると言ってくれている。

 フェリックスさんは早瀬さんの実父だ。早瀬さんの実母に自分は独身だと偽って付き合い、早瀬さんがお腹に出来た後、実は妻子がいることを打ち明けたという人だ。黒崎がドイツに出張に行ったとき、バーテルスさんがそのことでフェリックスさんに殴りかかっていたそうだ。許すことは無いと言っていたと聞いている。

 倒れたことを、ノア経由で聞いたのだろうか。バーテルスさんはフェリックスさんとは交流を絶っていると聞いている。それともエミリアさんだろうか。フェリックスさんは恋人の家に住み、エミリアさんのいる家には帰ってきていないそうだ。

「ノアから聞いたのかな?」
「エミリアの方だ」
「お母さんからか。うちで出来ることはあるかな?」
「さっき、見舞いの言葉を伝えた。ユーリーにメールを送ってやってくれ。お前の作品が読みたいそうだ」
「絵本のストーリーはまだ出来ていないから、歌詞を送るよ。ノアに会ったとき、お見舞いを言うよ」

 黒崎とバーテルスさんは仲がいい。もちろん早瀬さんとも。早瀬さんの実母は早瀬さんが4歳の時に亡くなっていて、お姉さん夫婦の養子になっている。今年、実父の名前と住んでいる国を教えてもらったそうだ。そこで、フェリックスさんから早瀬さんに会いたいと連絡が入ったが、早瀬さんが拒んだ。

「エミリアが離婚を切り出した後、フェリックス氏が倒れたそうだ」
「そうだったんだね……」
「フェリックス氏には新しい恋人がいるそうだ。その人に彼のことを任せようと思っていると、うちの親父に相談したそうだ。ユーリーと兄貴は、病室のそばまで行ったそうだ。部屋にはエミリアが入った。寝ていたから話せなかったそうだ。その後、新しい恋人に連絡を取って、来てもらうことにしたそうだ。フェリックス氏はエミリアに居てもらいたかっただろうが……」

 会いたいと思った人に会えない。自分がやったことが返ってくる。病室で寝ていて心細くても、手を握ってくれる人は居ないということか。バーテルスさんにはお兄さんがいるが、同じく、フェリックスさんとは交流を絶っているそうだ。
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