青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 今朝は早く起きたから、時間がゆっくり流れているように感じる。まだ夜明け前だ。畑の水やりは明るくなってからにしろと黒崎が言った。そして、俺がすると言い出した。

「え?」
「俺がする」
「今日は洗濯物を乾燥機で乾かすよ。帰ってくる頃には大雨だよ」
「なんだと?」
「あ、さすがに唇を引っ張らないんだね。たまには具合が悪いのも良いね~」

 すると、黒崎が手を伸ばしてきた。俺は椅子を後ろに下げて、自分のことを庇った。黒崎がホッとした顔をしている。心配を掛け通しだ。椅子を元に戻して、彼の顔を見た。威圧感の塊のような人なのに、今は優しい顔をしている。

「黒崎さん。ごめんね。心配をかけて」
「気にするな。今日は休みを取っておいて良かった。顔が赤いぞ?」
「そう?ん?けほっ。喉が痛いよ。もう一回スプレーするよ」
「心臓の検診は来週にしよう。御園クリニックに行って、寝ておけ」
「そうしようかなあ。んん。痛い」
「長谷部さんにラインを入れろ。後は俺が手配する」
「ありがとう」

 また喉が腫れてきているかも知れない。右側がつっかえている感覚もある。俺は喉が強い方だと思っていた。熱を出したときは、少しだけ腫れていると言われるぐらいだった。リビングの加湿器を見た。ちゃんと付けている。

 さっそく長谷部さんにラインを送った。どの時間でも良いと言われている。折り返しの電話が入るだろう。スケジュールの調整が必要だろうか。治り具合によるだろう。熱がそんなに高くなくて、こんなに喉が痛いのは滅多になくて、不安になった。

「夏樹。不安なのか?」
「うん。まだ5時になっていないね。黒崎さん、眠くない?」
「お前の方こそだ。寝ておけ。水はやっておく」
「リビングから見ているよ。あんたの近くにいたいもん」

 黒崎に抱きついた。彼はもう寝ないだろう。一緒に寝たいとは言えない。色んな用事があると思うからだ。しかし、言ってみようかと思った。

「一緒に寝てくれない?」
「いいぞ。一時間ぐらいは寝られる」
「マジで?冗談だよ。え?怒ったの?水やりをするのか~」

 黒崎が俺から離れた。お前は家の中にいろといい、玄関から外に出た。そして、リビングから見えている庭の畑に立った。本当に水やりをしてくれそうだ。

「黒崎さん、似合わないなあ。あ、聞こえた?」
「聞こえた。さっと掛けるぐらいか?」
「けっこうビシャビシャにして。今日は天気が良さそうだし」
「分かった」

 黒崎がホースを手に取った。そして、蛇口をひねり、柔らかいシャワーが出てきた。それをトマトとネギとナスにかけていく。その様子を見守った。窓を開けていても、今着ているカーディガンが温かいから寒くない。黒崎が選んだものだ。俺に似合いそうだと言って、買ってきてくれた。

 今日は服のショップに行く予定もあったが、また今度になる。黒崎の楽しみの一つだ。俺にあれこれ試着させて買うことが好きな人だ。愛されていると思う。昔は息が詰まりそうだったが、もう慣れてしまった。

 水やりが終わった。すると、夜が明けてきた。空が白くなり、光が生まれた。俺が好きな景色だ。庭には黒崎が居て、ホースを片付けてくれている。アンは俺のことが心配なようで、そばにいてくれている。寒いからだとは思わないことにした。いつもなら黒崎についていくのに。

「アン、ありがとう」
「……」

 アンが尻尾を振った。モコモコの毛を撫でると、鼻先をくっつけてきた。やっぱり心配してくれているようだ。アンも定期検診の時期が来る。一緒にがんばろうねと声をかけた。
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