青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
170 / 938

8-14

しおりを挟む
 18時。

 今、ステージのサイドに立っている。18時半開演のコンサートだから、ちょうど今から開場になったところだ。ホールの中の観客席には、さっそく入ってきたお客さん達の姿が見えた。2階席に行く人や、アリーナ席で歓声を上げる人などがいて、嬉しくなった。

 俺の隣にいるのは悠人だ。ヘアメイクを済ませてある。午前と夕方のリハーサルはトラブルがなく終了し、予定通りに進行した。俺達はさらに増えてきた観客席のお客さん達を見て、胸の鼓動を高鳴らせた。

「わーーー。続々入ってくるよ~。嬉しいなあ。1万人って、すごいよね。遠くのお客さんの顔が見えないよ~」
「なつきーー。そういう時は、トリャーーって、気合いを入れるだろ?届くよ!」
「そうだね。2階席、トリャーー!だね!」

 すると、聡太郎から肩を叩かれた。控え室に黒崎が着いたのだという。今日の黒崎製菓ではある騒ぎが起こってしまったため、開演中に来られないかと思っていた。それは、千尋製菓と黒崎製菓に対して攻撃を仕掛けるというメールだった。一通は秘書室に届いており、もう一通は社長宛だったそうだ。もちろん警察に通報し、社内で対応していた。最近、よく届くのだという。どうして千尋製菓にも届いたのが分かったかというと、メールの本文に触れてあったからだ。

 コンサートは予定通りに開催される運びになった。TDDのことには触れていなかったことと、犯人に目星がついているということもある。千尋製菓を定年退職した人だ。去年もそのメールを送ってきて逮捕されている人で、出世争いに負けたという理由だった。なぜか黒崎製菓にも同様のメールを送ってきたことから、他のお菓子メーカーにも送られているのではないかと思った。

 警備体制は厳重だ。見回りを何周もしており、警察官もいる。事務所のスタッフが対応したが、俺達にもメールが届いていないか聴きたいということだった。俺達はすぐに対応した。個人アドレスにも、大学の方にも送られていないことを確認して、報告した。

(黒崎家の方だったりして……)

 ふと、浮かんだことだ。犯人と思われている人には警察官が向かい、事情を聴かれているという。しかし、今回は違うような気がしている。あくまでも勘だから、警察に任せるしか出来ない。

「ああーー、なんだなあ……」
「なつきーー、控え室に戻ろうよ。黒崎さんに顔を見せてあげないと……」
「うん……」

 そっと観客席を見た後、サイドから廊下に出て、控え室に向かった。そこには沢山のスタッフがいて、俺達に励ましの言葉をかけてくれた。みんな、成功させたいという思いは同じだ。その中には遠藤さんの姿があり、スーツ姿で、どこかに電話をかけていた。今日はスポンサー企業からの招待客が来ていて、遠藤さんが対応してくれる。

 すると、廊下に黒崎の姿があった。お義父さんや一貴さんはいない。控え室で待っているのだろうか。遠目から見ても、黒崎の姿がくっきりと浮かんで見えた。俺はホッとして、肩の力が抜けた。

「黒崎さーーん。会社の方はどうだった?」
「ああ、何でも無いことだ。もう認めたらしい」
「逮捕されたの?」
「ああ」
「なんで、黒崎製菓にも届いたの?メール……」
「キシヤマさんにも届いている。最初は悠人君が狙いかと思ったそうだが……、そうではないぞ。犯人は自暴自棄になったそうだ。繋がりのある企業に送っている。そういう見方をされている」
「そうなんだね……。ゆうとーー、もう大丈夫だよ」
「はあ……」

 悠人が肩を落とした。キシヤマ味噌にもメールが届いていることは、遠藤さんから聞いたばかりだそうだ。すると、悠人の控え室から早瀬さんが出てきて、悠人のことを見て微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...