青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 すると、黒崎も大広間に入ってきた。笑っている。ユーリーの失敗を聞いて気持ちがほぐれたようで、剣呑な空気はない。俺は沙耶さんと連絡を取り、今日の15時に、黒崎に電話をかけてくれることになっている。倉口さんからの脅し文句は、警察に届け出ることにしている。念のためだ。この家に乗り込んでくる気があるそうだ。俺の予想では、倉口さんは来ないと思っている。黒崎も同じだ。ただし、自分を傷つけるかも知れないとは思っている。

「夏樹。ユーリー。座っていろ」
「うん。そうだよね。さあ、ユーリー。中華炒めだよ。あんたの好きなイカがたくさん入っているんだ。柔らかいそうだよ」
「ああ、美味しそうな匂いがしている。こんな時なのに、お腹は空いている」
「それはそうだよ。生きているんだもん。もうすぐで二葉が帰ってくるから、話すと良いよ。向こうも何かあったみたいだし……」
「ああ、そうだな……」
「そうだぞ……」

 黒崎が笑った。そして、ユーリーも少しだけ笑った。二葉も失敗をしたそうだ。社長室に持って行くお菓子とお茶をこぼしてしまい、南波さんが手伝ってくれて、一緒に片付けたそうだ。しかし、片付けているときにまたトレイをひっくり返してしまい、慌てふためいたということだった。怪我はなかった。

 俺達はユーリーを挟むようにして椅子に座り、中華スープの匂いを嗅いだ。卵がふんわりしている。

「ああ、早く食べたいなあ。そうだ!カズ兄さんも何か失敗しているかも知れないよ。こういう時は揃うものだよ」
「そうだろうか……」
「そうだよ!きっと何かあるってば……。カメラを落としたとか、機材を倒したとか、モデルさんにフラれたとか……」

 一貴さんの失敗を数えると、キリがない。その一方で、ユーリーは失敗することがない。食事はきちんと食べるし、飲み物をこぼさないし、朝だって決まった時間に起きている。一貴さんなんか、その反対のことをしている。寝坊しそうなときは前の晩から起きているし、飲み物はこぼすし、偏食気味だ。考え込んでいて、柱にぶつかりそうになる時も見かけたことがある。ユーリーは慎重にしているから、歩き回って考え込まない。だから、安心できる。

「おまたせ。さあ、食べよう」
「うん!」

 お義父さんが部屋に入ってきた。俺達の前には温かい烏龍茶の入ったカップが置かれた。これがまた美味しくて、食欲をそそる。まず最初に烏龍茶から飲み、一息ついた。お義父さんもそうしている。

「はあ。疲れた。お腹が空いているよ」
「そうだよね。さあ、食べようっと……。わーーー、美味しい!」

 俺が真っ先に食べたのは、中華炒めだ。野菜がシャキシャキしていて歯ごたえがある。しかし、よく火が通っているから柔らかくて食べやすい。そして、イカを食べて、ため息をついた。とても美味しいからだ。

「ふうーー。ここでご飯を食べたら、黒崎さんが俺が作る料理に文句を言うようになるんだ……」
「カボチャの煮物の時だったか……」
「そうだよ~。あんたがさ~、味が濃いって言うんだもん。いつもと同じ味付けなのに。あんたがそうしてくれって言うからそうしているのに、ここで食べたカボチャの方が美味しかったから、コロッと変わったんだ。ね?薄味の味付けの方が美味しいだろーー?」
「ああ。そうだった。俺が悪かった」

 黒崎があっさりと謝ったから、何も言えなくなった。さすがに今は喧嘩をしなくないからでもあると思う。
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