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あの黒崎が泣くだなんてと、社員さん達は驚いたそうだ。とても尊大で偉そうな若者だという印象だったそうだ。業務縮小ということで工場が小さくなった。会社を潰されるかも知れないと覚悟していたら、犠牲になったのはいくつかの商品と、生産コストがかかりすぎるパイのお菓子と、アントン君だった。
アントン君はいつでもいると分かっているが、黒崎としてはもう存在しなくなるも同然だという思いだったから、その決定会議の後で涙を堪えらえずに泣いてしまったところを、会議に参加していた人者達が慰めたそうだ。こんなに若い子が泣いているだなんてと。
「圭一はアントンが好きだなあ。パイの売れ行きはとても良いそうだ。懐かしいと言ってもらえていると聞いた」
「良かったよね。ずっと心の傷になっていたんだよ。黒崎さんってば、ウサギが好きでさ~。でも、飼うのはとても難しい動物だって聞いていたから、諦めたそうだよ」
「はははは。圭一はウサギを見て、何か思うだろうか……」
「あの話だろ?俺、背中が冷たくなったよ。さすがに俺、万理に話したもん。あるあるとは言わないけど、執念を感じるんだって……」
「もうウサギの柄の着物は着ないだろう……。女性物だし……」
「綺麗な着物だったよね。二葉の成人式の着物……」
友達の逮捕の後、俺達は二葉に心に重しかかっている物を分け合いたくて、過去のことをいろいろ聞かせてもらった。そこで、何でも二葉の真似をしたいのだとラインに書いていた、倉林ななせさんの話を聞いた。
二葉は成人式の着物で、ウサギの柄がついている、白と紫色が混ざった色のものを選んだそうだ。そして、ななせさんは白と朱色の着物だったそうだ。その時は、お互いによく似合っているという話題は出ず、普段と変わらない話題を話したそうだ。
その一年後、ななせさんの結婚が決まり、利香さんと二葉とで夏祭りに行こうと誘われた。他の子は予定があり、3人で行くことになった。ななせさんが着てきたのは、ウサギの柄の浴衣だったそうだ。色はえんじ色だったそうだ。その時は真似をしたのだということには全く気づかず、旦那さんの親が仕立ててくれた浴衣であり、生地を選んで作ったのだという話に、いいなあという返事を返したそうだ。
そして、夏祭りは2日間行われている中、初日だけ行ったのだが、その帰りにななせさんの浴衣の足下が崩れていたそうだ。足を開いて座るからだった。祭りの帰りにななせさんのお母さんが迎えに来て、利香さんには言わずに、二葉にこう言ったそうだ。“しっかり見ていてちょうだい。明日が本番なんだから”だ、と。旦那さんとの夏祭りデートということだった。気に入られないといけないから、友達が団結しろという話だった。
二葉はそれを聞いて、すごく嫌な感じを受けたそうだ。このお母さんは、自分にだけ当たってくると思ったそうだ。全く、利香さんには言わなかったからだそうだ。その後、ななせさんが旦那さんと建てた家の写真と、何でも真似をしたいのだという言葉に、着物の柄まで真似したのだと気づいたそうだ。
俺は万理に電話して報告するように、そのことを話した。女同士としては、あるあるとは言わないけどと言いながら、執念を感じるが、着物ではないという点には本人が苛ついているんじゃないかという話だった。不完全燃焼というものだ。
二葉が着た着物はレンタルの品だという。地元にある店で借りた物だ。同じ柄はない。色だって、着ている人は少ない色だと思う言っていた。だから、ななせさんとしては、同じウサギ柄の着物を用意したかったのではないかと思うということと、それはさすがにやりすぎだと思ったか、それとも次の正月に同じ柄の着物は用意できなかったか、そういうわけで、家の間取りをそっくりにしたのではないかという考察だった。
「黒崎さんってば、二葉と自分がウサギが好きだっていう共通点が分かって、嬉しそうにしていたよねえ……。“そうか、そうなのか。俺もウサギが好きだ”って……。“知っているよ、お兄ちゃん。俺もウサギが好きなんだ”って、二葉が答えてさ……。うひゃひゃひゃ」
「ああ、だからああして、アントンをリビングに飾ってある。圭一が二葉に持ってきて、お前が持っていろって……。二葉は、もったいないからリビングに飾ろうって……」
「ここが居場所なんだ。もう元には帰らない。そう思うんだ……」
黒崎がテレビを観ている。お昼前のニュースが流れているのだろう。そして、友達が脅迫したというボーカルグループは4組もあり、その一つが、地元で立ち上げられたグループであり、地元でコンサートイベントを開くことが多かったのだと知った。彼女達のそのグループのSNSに脅迫のメッセージを送ったことが分かったそうだ。それは一年前からなのだという。
もう二葉は二度と地元には帰らないだろう。居場所なんてなくて、友達の中では、志乃さんだけが昔の二葉を知っているという状況に、心強いと思いながらも、胸が痛くなった。
アントン君はいつでもいると分かっているが、黒崎としてはもう存在しなくなるも同然だという思いだったから、その決定会議の後で涙を堪えらえずに泣いてしまったところを、会議に参加していた人者達が慰めたそうだ。こんなに若い子が泣いているだなんてと。
「圭一はアントンが好きだなあ。パイの売れ行きはとても良いそうだ。懐かしいと言ってもらえていると聞いた」
「良かったよね。ずっと心の傷になっていたんだよ。黒崎さんってば、ウサギが好きでさ~。でも、飼うのはとても難しい動物だって聞いていたから、諦めたそうだよ」
「はははは。圭一はウサギを見て、何か思うだろうか……」
「あの話だろ?俺、背中が冷たくなったよ。さすがに俺、万理に話したもん。あるあるとは言わないけど、執念を感じるんだって……」
「もうウサギの柄の着物は着ないだろう……。女性物だし……」
「綺麗な着物だったよね。二葉の成人式の着物……」
友達の逮捕の後、俺達は二葉に心に重しかかっている物を分け合いたくて、過去のことをいろいろ聞かせてもらった。そこで、何でも二葉の真似をしたいのだとラインに書いていた、倉林ななせさんの話を聞いた。
二葉は成人式の着物で、ウサギの柄がついている、白と紫色が混ざった色のものを選んだそうだ。そして、ななせさんは白と朱色の着物だったそうだ。その時は、お互いによく似合っているという話題は出ず、普段と変わらない話題を話したそうだ。
その一年後、ななせさんの結婚が決まり、利香さんと二葉とで夏祭りに行こうと誘われた。他の子は予定があり、3人で行くことになった。ななせさんが着てきたのは、ウサギの柄の浴衣だったそうだ。色はえんじ色だったそうだ。その時は真似をしたのだということには全く気づかず、旦那さんの親が仕立ててくれた浴衣であり、生地を選んで作ったのだという話に、いいなあという返事を返したそうだ。
そして、夏祭りは2日間行われている中、初日だけ行ったのだが、その帰りにななせさんの浴衣の足下が崩れていたそうだ。足を開いて座るからだった。祭りの帰りにななせさんのお母さんが迎えに来て、利香さんには言わずに、二葉にこう言ったそうだ。“しっかり見ていてちょうだい。明日が本番なんだから”だ、と。旦那さんとの夏祭りデートということだった。気に入られないといけないから、友達が団結しろという話だった。
二葉はそれを聞いて、すごく嫌な感じを受けたそうだ。このお母さんは、自分にだけ当たってくると思ったそうだ。全く、利香さんには言わなかったからだそうだ。その後、ななせさんが旦那さんと建てた家の写真と、何でも真似をしたいのだという言葉に、着物の柄まで真似したのだと気づいたそうだ。
俺は万理に電話して報告するように、そのことを話した。女同士としては、あるあるとは言わないけどと言いながら、執念を感じるが、着物ではないという点には本人が苛ついているんじゃないかという話だった。不完全燃焼というものだ。
二葉が着た着物はレンタルの品だという。地元にある店で借りた物だ。同じ柄はない。色だって、着ている人は少ない色だと思う言っていた。だから、ななせさんとしては、同じウサギ柄の着物を用意したかったのではないかと思うということと、それはさすがにやりすぎだと思ったか、それとも次の正月に同じ柄の着物は用意できなかったか、そういうわけで、家の間取りをそっくりにしたのではないかという考察だった。
「黒崎さんってば、二葉と自分がウサギが好きだっていう共通点が分かって、嬉しそうにしていたよねえ……。“そうか、そうなのか。俺もウサギが好きだ”って……。“知っているよ、お兄ちゃん。俺もウサギが好きなんだ”って、二葉が答えてさ……。うひゃひゃひゃ」
「ああ、だからああして、アントンをリビングに飾ってある。圭一が二葉に持ってきて、お前が持っていろって……。二葉は、もったいないからリビングに飾ろうって……」
「ここが居場所なんだ。もう元には帰らない。そう思うんだ……」
黒崎がテレビを観ている。お昼前のニュースが流れているのだろう。そして、友達が脅迫したというボーカルグループは4組もあり、その一つが、地元で立ち上げられたグループであり、地元でコンサートイベントを開くことが多かったのだと知った。彼女達のそのグループのSNSに脅迫のメッセージを送ったことが分かったそうだ。それは一年前からなのだという。
もう二葉は二度と地元には帰らないだろう。居場所なんてなくて、友達の中では、志乃さんだけが昔の二葉を知っているという状況に、心強いと思いながらも、胸が痛くなった。
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