381 / 938
12-33
しおりを挟む
今日は家の中に上がっていかずに、玄関で話をして帰る予定だ。ママの方で荷物を作ってくれてあり、俺は黒豆の甘煮が入った紙袋を渡された。マンションを出た後、近くにある大型書店の駐車場で黒崎と待ち合わせをして帰ることになる。一貴さんも乗っている車だ。
そういうわけで、時間には余裕があるとママに伝えた。しかし、そうゆっくりする時間も無くて、やっぱり玄関で挨拶することになった。そして、ユーリーは笑顔こそ浮かべているが、黙ったままでいる。機嫌が悪いわけではない。余計な事を言わないようにしているのだと分かった。彼の方がここに来るのを決めたのに。
「ママ、あけましておめでとう」
「おめでとう。テレビを観たわよ。もう次のバンドのレコーディングが始まっているそうね。裕理君の作詞だって、テレビ番組で紹介されていたわよ」
「そうなんだよ。ねえ、ユーリー。何か話したら?ママ、ユーリーが緊張しているんだよ。ほら、あけましておめでとうございますって言えよ~」
「あけましておめでとうございます」
「おめでとう。それはそうよね。私と会ったのは、ユリウス君が小さかった頃だもの。私、全然笑っていなかったから、怖い人だっていう記憶なんでしょう?ごめんなさい。でも、あなたの方からここに来るって言ってもらえて嬉しかったのよ。すっかりおばさんになったでしょう?でも、事務所の中は若いスタッフが多いから、刺激を貰うことで若くいられていると思っているのよ」
「いえ、いつまでも若いと思います」
「ユーリー……」
ユーリーがニコッと笑った。それは“よそ行きの笑顔だと分かった。お義父さんの前ではゲラゲラと大声で笑っているのに。言い出したら聞かずに怒り出すこともあるし、駄々をこねるときもある。お義父さんとママ。ユーリーにとっては、どっちも子供時代には怖い相手だったとして、どうしてこんなに違いがあるのだろう。
ママは黒崎のように誤解されがちなのだろうか。一度も腕に抱いて貰っていないとは思えない。だから、記憶違いではないだろうか。しかし、黒崎と二葉のママに対する記憶はよく似ている。だから、お母さんの腕という記憶が無いと言われると頷くしかないのに、なぜかママを前にすると、そう思えない自分がいる。
「ユリウス君。二葉から何か聞いているんでしょう……。言ってくれていいのよ。あんたの顔なんて見たくないっていう伝言を貰ったって……」
「ママ、二葉はそんなこと、言っていないよ。今日も見送りをしてくれたんだ。俺達が見えなくなるまで手を振ってくれたんだよ」
「夏樹君。ありがとう。私ね、二葉と朝陽には悪いことをしたの。二葉には、こういう生き方をしなさいって、自分流の生き方を押しつけたのよ。人間は産まれてきた以上、何かをして生きていかないといけないから、小学生のうちにモデルにならないかって声を掛けられた二葉には、チャンスを掴んで貰いたかったの。引っ込み思案なところがあるから、一度、人前に出て貰いたかったのよ。だって、あの子、ホストにはまるタイプだと思ったからなの。真面目だもの。そうなるに決まっていると思ったから、早いうちに大人の世界を見させておいて、機嫌を取ってくる人には何か裏があると理解して生きていって貰いたかった。それにはモデルの仕事はちょうど良かったのよ。一度だけやってみて、すぐ辞めても良かったのよ。次がないかもしれないって思って、親に言われた通りに、家で練習してきたとおりに受け答えをする11歳ぐらいからモデル経験を積んでいる子を見てきた経験から言うと、そういう子のことも見て欲しかった。なんとかしてチャンスを掴みたい一心ならいいんだけど、親からの愛情が欲しくてそうする子がいるっていうのを知って欲しかったの。これから生きていく世界には露骨に嫌なことがあって、その中で愛情を求めても裏切られて、でも、愛情が貰えることもあって、そうやって友達を作っていくんだってことをね」
「ママ……」
黒崎がかつて俺に、ママに対してこう思っているのだと教えてくれた。勝手に産んでおいて、自立して生きなさいだなんて、それこそ勝手な話なんじゃないかと。それを聞いたとき、俺は強く共感した。黒崎は産まれてきたかったわけじゃないと言っていた。気がついたら産まれてきていたのだと言っていた。
勝手に産まれたのでは無く、自分のことを作った人がいるから産まれたのだと。自分の子孫を残したいという本能という欲求から来たのか、何を思って自分のことを作ったのかと、親のことを呪いたいと言っていた。それにも俺は共感できた。
そういうわけで、時間には余裕があるとママに伝えた。しかし、そうゆっくりする時間も無くて、やっぱり玄関で挨拶することになった。そして、ユーリーは笑顔こそ浮かべているが、黙ったままでいる。機嫌が悪いわけではない。余計な事を言わないようにしているのだと分かった。彼の方がここに来るのを決めたのに。
「ママ、あけましておめでとう」
「おめでとう。テレビを観たわよ。もう次のバンドのレコーディングが始まっているそうね。裕理君の作詞だって、テレビ番組で紹介されていたわよ」
「そうなんだよ。ねえ、ユーリー。何か話したら?ママ、ユーリーが緊張しているんだよ。ほら、あけましておめでとうございますって言えよ~」
「あけましておめでとうございます」
「おめでとう。それはそうよね。私と会ったのは、ユリウス君が小さかった頃だもの。私、全然笑っていなかったから、怖い人だっていう記憶なんでしょう?ごめんなさい。でも、あなたの方からここに来るって言ってもらえて嬉しかったのよ。すっかりおばさんになったでしょう?でも、事務所の中は若いスタッフが多いから、刺激を貰うことで若くいられていると思っているのよ」
「いえ、いつまでも若いと思います」
「ユーリー……」
ユーリーがニコッと笑った。それは“よそ行きの笑顔だと分かった。お義父さんの前ではゲラゲラと大声で笑っているのに。言い出したら聞かずに怒り出すこともあるし、駄々をこねるときもある。お義父さんとママ。ユーリーにとっては、どっちも子供時代には怖い相手だったとして、どうしてこんなに違いがあるのだろう。
ママは黒崎のように誤解されがちなのだろうか。一度も腕に抱いて貰っていないとは思えない。だから、記憶違いではないだろうか。しかし、黒崎と二葉のママに対する記憶はよく似ている。だから、お母さんの腕という記憶が無いと言われると頷くしかないのに、なぜかママを前にすると、そう思えない自分がいる。
「ユリウス君。二葉から何か聞いているんでしょう……。言ってくれていいのよ。あんたの顔なんて見たくないっていう伝言を貰ったって……」
「ママ、二葉はそんなこと、言っていないよ。今日も見送りをしてくれたんだ。俺達が見えなくなるまで手を振ってくれたんだよ」
「夏樹君。ありがとう。私ね、二葉と朝陽には悪いことをしたの。二葉には、こういう生き方をしなさいって、自分流の生き方を押しつけたのよ。人間は産まれてきた以上、何かをして生きていかないといけないから、小学生のうちにモデルにならないかって声を掛けられた二葉には、チャンスを掴んで貰いたかったの。引っ込み思案なところがあるから、一度、人前に出て貰いたかったのよ。だって、あの子、ホストにはまるタイプだと思ったからなの。真面目だもの。そうなるに決まっていると思ったから、早いうちに大人の世界を見させておいて、機嫌を取ってくる人には何か裏があると理解して生きていって貰いたかった。それにはモデルの仕事はちょうど良かったのよ。一度だけやってみて、すぐ辞めても良かったのよ。次がないかもしれないって思って、親に言われた通りに、家で練習してきたとおりに受け答えをする11歳ぐらいからモデル経験を積んでいる子を見てきた経験から言うと、そういう子のことも見て欲しかった。なんとかしてチャンスを掴みたい一心ならいいんだけど、親からの愛情が欲しくてそうする子がいるっていうのを知って欲しかったの。これから生きていく世界には露骨に嫌なことがあって、その中で愛情を求めても裏切られて、でも、愛情が貰えることもあって、そうやって友達を作っていくんだってことをね」
「ママ……」
黒崎がかつて俺に、ママに対してこう思っているのだと教えてくれた。勝手に産んでおいて、自立して生きなさいだなんて、それこそ勝手な話なんじゃないかと。それを聞いたとき、俺は強く共感した。黒崎は産まれてきたかったわけじゃないと言っていた。気がついたら産まれてきていたのだと言っていた。
勝手に産まれたのでは無く、自分のことを作った人がいるから産まれたのだと。自分の子孫を残したいという本能という欲求から来たのか、何を思って自分のことを作ったのかと、親のことを呪いたいと言っていた。それにも俺は共感できた。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
お腹いっぱい、召し上がれ
砂ねずみ
BL
料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。
そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。
さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる