青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 ママの家はマンションの6階にある。10階建てのマンションはどの部屋も広く作られていて、ファミリー向けだ。それはそうだ。こっちに引っ越してきた時は3人暮らしだったのだから。今はママ一人だから寂しくないだろうか。しかし、朝陽の荷物が多く置かれているというから、一人暮らしのために引っ越すと荷物の置き場所がなくなるだろう。

 二葉の荷物はママの家の中には既にない。もう帰らないと決めて家を出てきたからだ。しかし、いくつか残っており、後で黒崎が取り行き、お義父さんの家に持ってきてくれた。その時、ママはどう思っただろう。

 ママが当時付き合っていた50代の男性役員が二葉にちょっかいをかけたことで、ママと二葉の仲が険悪になり、二葉は家を出ることを決めた。悪いのは男性の方だ。もしかしたら、ママの再婚相手になるかも知れない彼に気を遣っていただろう。それを逆手にして裏切った男性だ。それなのに、ママは二葉に気遣う言葉を掛けなかったそうだ。あなたに盗られたと言ったそうだ。二葉が嘘を言うと思えないから、ママが本当にそう言ったのだと、俺は思っている。

 そんな人に俺達はこれから会いに行く。事情が分かった上での笑顔を浮かべてだ。ママが二葉のことを心配して、黒崎との約束を破って彼女に電話を掛けても出て貰えず、お義父さんにかけた。そして、怒鳴り散られてしまい、そのままになっている。黒崎からフォローを入れてあるそうだが、さすがに可哀想に思って、何か言葉が掛けられないかと気になっていた。そんな時にママからの連絡があり、良かったと思っている。

 俺はママと黒崎のことをどうしたいのか。和解してもらいたいと思っている。二葉と朝陽のストレスを思うとそんなことをしない方がいいのに、俺はなぜか逆のことをしようとしている。これが中山家の祖父母だったら、俺は訪ねていかないと思う。だから、それだけ俺はママと長く接していない。だから、こういうことが出来るのだと思う。ずっと一緒に暮らしてきた子供達からすると会いたくない相手というなら、本当にそうなのだと思う。それが分かっているのに、なんとか打ち解けようとしている。

「ユーリー。なんだか緊張しないかな?」
「しているよ。黒崎家の女主人だった人だからね。一筋縄ではいかない相手だ」
「そう思っているんだね。俺は黒崎さんと仲の悪いお母さんに会いに行く気分なんだよ。それから、お義父さんから強く叱られたお母さんっていう解釈だよ」
「そうか。僕は、さすがはあの人だなって思っているんだよ。運が強いだけだって圭一が言っていたけど、それだけじゃないよ。怖いぐらいだ。どうして黒崎家から出て行って、別の誰かを選んだのか疑問だ。たしかに隆さんは家の中では、あの口の聞き方だ。真琴さんはたまらなかっただろう。でも、別居が出来たはずなんだ。瑛子さんが出て行った経過もある。真琴さんから申し出られたら、隆さんは拒まなかったと思う。それに、離婚していなかったら、お金に苦労しなくて済んだはずだ。こういう言い方をするのは悪いことだと分かっているけど、どんどん財産を使っていく倉口さんと一緒にいて、真琴さんが大黒柱のようになって、金銭的に苦労したはずなんだ。浮き沈みを経験したと思うよ。黒崎家にいたら、なんでも隆さんに任せていればいい。そうすることで隆さんは納得して、気分良くいられるんだ。圭一がよく似ている」
「それは分かるよ。二葉は修学旅行の費用を使い込みされているんだもん。倉口さんにね。ママはその時事務所の経営状態が悪くて、彼女のバイト代で工面したんだ。ちょうどお金が無かったんだって。その時、朝陽のお父さんからもしれない先生と実はもう再会してて、学費にしてくれって、お金を渡れたことがあるんだって。この間、ママが黒崎さんに打ち明けたそうだよ」
「それを使っても良いと思うけどね。いや、それはいけないことか……。真琴さんと二葉が団結するきっかけになりそうにも思うけど、そうならなかったのは、真琴さんだからだ。考え方が根本から違うんだ。黒崎家の妻になった人だ。感覚が違う。僕はそれが言いたい」
「そっか……」

 ユーリーがママの家の玄関の前に立った。すでにドアの鍵は開けられていて、ママが中から出てきた。クリスマスイブの日に観た、モデル時代の映像に出ていた人と同じ人だ。ニコッと笑っている姿はごく普通といった感じであり、娘となんて喧嘩しそうにないのにと思った。
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