青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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13-15(夏樹視点)

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 午前10時。

 俺と黒崎は今、法事が行われているお寺の中にいる。法事に来てくれたのは親戚と、故人と付き合いのあった人達で、全体的に年齢層が高い。そういうこともあって、大勢の人がトイレが近くて、お寺にある来客者用トイレは大盛況だ。

 お坊さんの読経の間はみんなが着席して、しんと静まりかえる。そんな法事だったのは去年までの話であり、施主が黒崎家の当主である晴海さんになった今年からはくだけた雰囲気になり、みんなが自由に席を立って、トイレに出入りしているというわけだ。

 それを晴海さんが見とがめた。俺のことを下に見ているんだろうと嘆いてもいる。当主が変わっただけでこんなにも法事の空気感が変わるのかと驚いた。しかし、俺からすると、良いことだったと思う。うちの母が緊張しなくて済んでいるし、伊吹だってリラックスしている。

 母と伊吹は俺の隣に座っている。黒崎も同じ列だ。そして、俺の前には聖河さんが座り、施主である晴海さんのサポート役になっている。隣には晴海さんと二葉が座っている。お義父さんもいる。

 そこで、俺は晴海さんに話し掛けることにした。後ろの列の親戚達が、祭壇に飾られた供物の種類が少ないとか多すぎるとか、色々とケチを付けていることを報告するためだ。本当なら俺はこんなことはしたくない。晴海さんから頼まれたからしている。

「晴海お兄ちゃん。俺の後ろの恒明つねあき叔父さんが、祭壇の供物が多すぎるって言っているよ……。親戚が持ってきたバナナとみかんを飾っているのに……」
「そうか。報告をありがとう。二葉君。メモをしてくれ」
「うん。“恒明叔父さんが供物が多すぎると言った”」

 晴海さんの左に座っている二葉が晴海さんから指示を受け、メモを取った。こうして次の法事に生かしていくためだが、晴海さん流の、うるさい親戚のあしらい方を実践するためでもある。子供の頃から期待されていなくて、どうせ晴海のすることだという評判通りに、何かが抜けているとか不足しているなどの文句が出るに決まっているが、その“どうせ晴海のすることだ”の、“どうせ晴海が”が大事なポイントであり、親戚の集まりの法事で格式だとか礼儀作法だとかうるさいことを言わさないように、来年からはもっと供物を大盛りにするなどの作戦を練るのだという。

「晴海お兄ちゃん。恒明叔父さんがまた文句を言ったよ。祭壇の花が足りないって……」
「花が足りないか……。二葉君。メモしてくれ」
「うん。“恒明叔父さんが、祭壇の花が足りないと言った”」

 俺は自分でそう口にして伝えて、呆れてしまった。供物が多すぎるとか花が足りないとか、もっと質素にしろということなのか、派手にしろということなのか、一体どっちなのかと思ったからだ。そして、他の列席者からも口々に囁き声が出始めた。

「晴海お兄ちゃん。蓮子さんが、トイレの個室の数はちょうどいいって言っているのが聞こえたよ」
「分かった。トイレの改修の後だからな。新しいし綺麗だしということもあるだろう。増やして貰いたいとは思っていた。二葉君。メモをしてくれ」
「うん。“蓮子さんが、トイレの個室の数はちょうどいいと言った”」
「……」

 俺達がヒソヒソ声で囁き合っていると、黒崎が声を立てずに笑い出した。そして、俺達に普通の声で言った。来年はトイレの個室の数を減らして貰おうかと。使用禁止の張り紙で対応して貰うとも言い出した。

「黒崎さん。それはいけないよ。トイレの数は大事なことだよ。うちはこの季節に法事をするんだからさ……」
「もう出たくないと思わせれば良い。テーマパークに行った方がトレイに困らないわと言わせておけ。もうあの人は出なくて良い」
「そんなことを言ったらいけないよ。カズ兄さん、大丈夫だからね……」

 俺達の近くに座っている一貴さんが俺達の方を見た。お母さんの名前が出たからだろう。何も問題は起きていないから安心してねと伝えると、静かに頷いていた。

「黒崎さん。カズ兄さんが9歳の子になっているよ」
「そんな気がした。いつもの一貴なら、法事の時は頬杖をついている。島川社長の顔になるからだ。今日は行儀が良い」
「そうだよね。……お義父さん。大丈夫だよ。俺が席を移動して、隣に行くから。お母さん、伊吹お兄ちゃん、そういうわけで、俺はカズ兄さんの隣に行くよ」
「ええ。分かったわ」

 母が頷き、伊吹と黒崎に母の事を頼み、俺は一貴さんの隣の席に移動した。毎年島川社長の顔になる一貴さんの周囲は人が集まらないから空席になる。だから、予定人数よりも多く椅子を用意しているわけだ。
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