青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 さてと。俺は足を組むのをやめて、椅子に座り直した。一貴さんの方は落ち着きを取り戻して、食べかけの鮭に箸を付け始めた。この兄貴もいい男だと言える。“島川社長”は数々の浮名を流してきたことは知っている。国内外に恋人がいたという噂も聞いている。ただし、どの相手とも短期間で終わった関係だということも知っている。

 付き合いを絶ったのは、どちらからなのだろうか。恋愛するときは島川社長そのものだと記憶している。数々の恋愛の相手の話を俺にするときは、普段の一貴ではなく、社長業で見せていた姿の方だった。こうして3人居るとなれば、本来の一貴の権利が侵されている気がする。彼は彼として生を受けているのであって、介入を受けるのはどうだろうか。

 この問いを月島さんにしたことがある。彼からの回答はこうだった。この世に生を受けた者の中で、一つの身体に人格が一つでないといけないとは決まっていないのだという話だった。だから、この世に生まれてきたからには仕方の無いことだという。

 彼の知り合いの中には、一つの身体に対して6人の魂が存在し、主にこの世で生活している本人に対して5人が付き添う形で存在している人がいるのだという。そして、今の一貴のように数人で同じ口から言葉を発して、コミュニケーションを取るのだという。

 そこで、俺は気になることがあった。そうなれば本人という存在がいつそれを知るのだろうと。ナビゲート役が居るはずだ。直感的にそう思ってその問いを向けると、その通りだと思っているという答えだった。

 彼の知り合いのその人には、本人を導いている人格が存在し、主にその役目の人がナビゲート役するようにして他の人格を呼び出して、会話を始めるのだという。ほとんど、その導き役が本人の身体を動かしている状態であり、例えば、その人が本人に“向こうに行こうよ”と話しかけて、本人が、“うん、そうしよう”と答えた後、その向こうに移動し始めるのだという。

 月島さんがその光景を目撃したのは知り合いの結婚披露宴の最中であり、食事の後で用意されたデザートブッフェを楽しむために、ケーキを取りに行っている姿を見ていて、気がついたそうだ。そこで、戻ってきた本人に話を聞くと、そうなのだと言ったそうだ。

 その人は現在41歳で、39歳からそういう存在が現れたのだと話していたそうだ。そして、導き役が存在していたのは生まれた頃からであり、その導き役の指導でこの世を歩いてきたということだ。それを知ったのが39歳の時であり、2年経った今では“ナチュラルに彼らと会話している”のだという。そして、その状態になる前に、月島さんに相談があったことそうだ。

 まるで一貴のように困っていたのは2年前で、月島さんに霊視してくれと相談があったそうだ。その時の月島さんとしては、たしかにいくつかの魂と言えるようであり、そうでないようで、しかしながら他の人格が存在し、彼らの姿が見えそうで見えないと答えたそうだ。そして、危ない存在では無いと感じながらも警戒するように伝えて、人格を完全に乗っ取られないように注意して、何かある前に相談してくれと伝えたそうだ。

 そこで、その人が相談して良かったと言ったそうだ。数人の霊能者に相談したが、どの人からも、そんな存在は居ない。あなたは病気では無いかとまで言われたことがあったそうだ。しかし、月島さんには存在が見えかけたし感じられたから、その人はホッとして、また何か起きそうになったら相談すると言っていたそうだ。

 そこから2年経ち、結婚披露宴でその光景を見て驚き、その存在があることを改めて知り、それがどこから来た人格なのか分かったところで、俺の方から一貴の人格のことで相談があったのだということだった。過去世を言うことを天から止められていることと同様、その人格がどこから来たのかも言えないのだという。本人の口から話すまで待ってくれということだった。

 それなら俺はいつまでも待つ。待つのは慣れている。そして、一貴が自分の意志だけで藤沢と恋愛が出来ることを願っている。まさか、島川社長や島川少年の意志でそうなったのであれば、一貴の本当の意志では無いことになるからだ。

 何かと胸が痛くなる兄貴だ。そういう思いで見つめていると、椅子の後ろの棚に置いてあったスマホにラインの着信が入り、すぐさまに振り返って差出人を確認し、微笑み始めた。”修輔君からだ!こんな朝早くにどうしたんだろう?良かったね。良かったな”。そんな会話が彼の口から出されて、藤沢のことが好きなのは一貴の意志なのだと直感的に思い、ホッとした。そして、俺は南波に朝早くだがと思いながら、連絡を取ることにした。
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