青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 それは、志乃さんが大学3年生の時だった。自分名義の通帳の整理をしているときに、おばあさんから、あなたに渡してある貯金があるわよと言われたそうだ。しかし、その通帳が見当たらず、おばあさんがお母さんに聞くと、そんな物、知らないと言ったそうだ。そこで、そんなわけがないだろうとおばあさんが反論して喧嘩になり、それ以来、二人は口を聞かないようにしているそうだ。

 お母さんがお兄さんに渡したのは、北岡家のおばあさんから預かっていた志にさんのためのお金だ。それを志乃さんの名義の通帳に入れていた。高校を卒業するときに渡して貰いたいと言っていた60万円だったという。車の運転免許を取る費用や、大学入学するなら、引っ越し代にしてくれと言われていたお金だった。もちろん、おばあさんからお兄さんに渡したお金も、60万円あったそうだ。何かに使って貰いたいということだった。

 お父さんは知らないお金ではなかったが、お母さんは日頃からお父さんのことをうまくコントロールしようとするところがあり、その貯金が引き出されたことを知らなかったが、昨日、それが明るみに出たそうだ。もちろん、喧嘩になったそうだ。しかし、明るみに出ても、お母さんは知らないふりを貫き通そうとしていたそうだ。

 その通帳からは、お兄さんの奥さんが出産する時に渡したという時期に合う30万円の出金記録が見つけ出されて、その他、上の子の卒園前など、節目節目で出金の記録があるのだという。最後の出金は志乃さんが大学2年生の6月であり、お兄さんが仕事を転職するためにお金が必要だった時期だという。その時はすでに志乃さんは大人だ。親が勝手に預金を引き出すのはどうなのだろう。

 大学3年生の時に志乃さんがお母さんにそのことを指摘すると、ふてくされたような顔で、それはお兄さんのそういう時にそっくりな顔で、知らないと言い切ったそうだ。そして、今回、お父さんが知るところになったから、そういうわけにもいかないだろう。

 それに、志乃さんはお兄さんの奥さんの連れ子の女の子には、毎年、お年玉を渡している。可愛がっていないわけではない。志乃さんは、なんとかお兄さんと仲良くしようと歩み寄っている。その女の子は下に妹が生まれたことで親の愛情を奪われた気になったのか、家出をしてしまったそうだ。まだ5歳の時だった。

 そんなわけで、志乃さんなりに、何かと気を遣っていたわけだ。もちろん、お兄さんの奥さんとも仲良くしたい。そして、お兄さんとの仲が打ち解けたようになった瞬間が訪れたのが、大学4年生の時のお正月だった。仲良く話しているお兄さんと志乃さんを見て、奥さんが引きつった顔をしていたそうだ。そして、翌日、志乃さんに奥さんから電話がかかってきたそうだ。“私の男だから近づかないで”と言われたそうだ。

 その話をお母さんすると、取り合ってくれなかったそうだ。それどころか、両親が高校生の時に亡くなったから、考え方が少し変わっているんじゃないの?とまで言っていたそうだ。お父さんは奥さんのことを気に入っていなかったから、言わずにいようと決めた。しかし、おばあちゃんには話したそうだ。そしたら、呆れていたそうだ。

 そこで、おばあちゃんから言われたのは、あなたは北岡家の人間であり、いずれはこの家を継いで貰いたいということだった。お兄さんはお兄さんの人生があり、あなたとは別の人間なのだと。それは奥さんも同じだと。それ以来、志乃さんはお兄さん一家に関わろうとは思わなくなったそうだ。

 そして、問題の発覚はまたある。志乃さんの実家の部屋には電子ピアノが置いてあった。高校生の時に、憧れだったピアノが弾けるようになりたいと、習い始めたからだ。そのピアノの購入費用は、志乃さんが小さい頃から貯めていたお年玉から出された。

 そんな大事なピアノを大学の寮に持って来たら良かったのに、部屋が狭くなるからと言って、実家に置いてきたままにしていた。そこで、志乃さんはスイスに行く前に、その電子ピアノに触りたいと思った。そんな話を昨日、おばあさんに電話で話すと、お母さんがお兄さんの子供にあげたからもう無いわよと言われたそうだ。そして、おばあちゃんが言っていたのは、お母さんから、志乃さんがあげると言ったから渡したと聞いたということで、それは、先々月のクリスマス前のことだったそうだ。お母さんに事情を聞いてみると、”見せびらかすようにして置いてあるから、孫達が欲しがったのよ。あなたは家庭教師の仕事で貯めたお金があるからいいじゃない。また買えるでしょう”と言われたそうだ。すごい言い方だと思った。

 もうぐちゃぐちゃだ。これらの話を聞いて、一貴さんは目を回しそうになっていた。二葉が電話口でこう言っていた。“俺の経験なんかたいしたことないだろーーー”と。志乃さんは固く口を閉ざしていたから、二葉は事情を知らなかった。俺達だって驚いている。
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