青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 ユーリーが一貴さんの着ているシャツのボタンを外した。こうすれば呼吸がしやすいだろうと言いながら。一貴さんの顔色はすごく悪くて、病院に連れて行った方が良いかと思った。しかし、彼はそれは必要ないと言った。島川社長の声だった。

「島川社長。あえてそう呼ぶよ。どうして今日は次々と出ていて居るんだよ?前にお義父さんが親子鑑定の話をしたときは、カズ兄さんしかいなかったよ。ああ、嫌っているわけじゃないんだ。そんなに鑑定が嫌かな?お義父さんは、鑑定をするのはあんたのためだって言っているんだ。すっきりするだろうって。お義父さんは、鑑定をせずに、あんたのことを認知するとも言っているんだよ」
「そうなのか?」
「うん。そう言っているよ。だから、鑑定をしたがっているのは、カズ兄さんの方だと思っていたんだけど……。もうやめてもらおうか。鑑定は無しにしようって、お義父さんに言ってくるよ。認知届をするだけでいいそうだよ。戸籍謄本を取り寄せてあるから、月曜日になったら区役所に行こうよ。それがいいよ」

 そう言って、俺はユーリーに一貴さんのことを任せて、お義父さんの元に行こうとした。すると、一貴さんから待ってと言われて、呼び止められた。俺が振り向くと、自分で言うと言って、起き上がった。

「カズ兄さん。寝ていると良いよ。今にも倒れそうだよ……。無理することなんか無いんだ」
「僕だってはっきりさせたいと思っているんだ……」
「そうなんだね……」
「誰が父親なのか、僕には分からない。物心ついたときからたまに訪ねてくる男性がお父さんだと分かったのは、3歳の時だった。まだ幼稚園に入る前だよ。普段は家の中にはお手伝いさんと母しか居ないから、家の中に男性がいることが珍しかった。近所には島川家の祖父母が居て、僕のことを可愛がってくれた。おじいさんのことをお父さんなのかと思ってみたことがあったが、どうやら違うと分かって、僕にはお父さんがいないんだと思って、がっかりしたよ。そしたら、母が、明日ここにお父さんを呼ぶから、お父さんと呼ぶと良いと教えてくれた。そして、僕はその男性が来た時にそう呼ぶと、とても喜んでくれて、僕のことを褒めてくれたんだ。今まで隆さんと呼んでいたからなんだ。その後から、僕のお父さんは一人だけだ」
「そうだよ。一人だけしか居ないよ。あのさ。あんたって有名な人になったじゃん。もしも、あんたがお義父さんと血の繋がりが無いことが分かったとして、その本当のお父さんが出てきて、あんたと親子鑑定をしたいって言っても、認知届をされた後なら、もう遅いんだってさ。だからさ、そういうことも考えて、お義父さんは、カズ兄さんのことを認知したいんだって言っているんだよ」
「でも、志乃さんが言っていたんだろう。父親違いのお兄さんのことを、北岡家の人間じゃないって……。僕にも当てはまる話だ」
「それを考えていたのかよ……。志乃さんには志乃さんの事情があるんだよ~~。あんただって、昨日まではそう言っていただろ~~」

 昨日、二葉からの電話によって旅行の日程を早めて帰ってくるという報告を聞いたとき、一貴さんは、僕にできることなら何でも手伝うと言ってくれていた。それだけ志乃さんはお兄さんから変な態度を取られているからだ。

 また志乃さんが高校生の時に、二葉が志乃さんの部屋でお茶を飲んで話しているときに、お兄さんと奥さんと連れ子の女の子が北岡家に遊びに来たそうだ。そこで、志乃さんが挨拶しようと階段を下りていくと、お兄さんがせせら笑いをしていたそうだ。

 そして、お前、今日居たんだなと言って、奥さんと子供さんに挨拶を交わさせること無く家のリビングに入り、お母さんからお金を受け取っていたそうだ。それは、その時、奥さんのお腹に出来ていた子供の出産費用の一部だった。それには、信じられないことだが、志乃さんの名義の貯金が使われていたことを、後々に知ることになる。お兄さんがそのことを知っていたこともだ。
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