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この部屋に置いてある目覚まし時計の針の音がやけに大きく聞こえている状況の中、今、部屋の中が静まりかえっているからだと思った。俺の話にお義父さんが丁寧に頷き、しっかりと聞いてくれた。親子鑑定への恐怖と、志乃さんからの話を聞いて、血のつながりが重要だと思ってしまったこと、自分は黒崎家の人間では無く、お父さんなんて呼んだらいけないと思っていること、デザイナーだという、もう一人のお母さんの交際相手だった人が父親の可能性が高いと思っていること。一貴さんがそれらのことで頭がいっぱいでストレスを溜めてしまったこともだ。
「お義父さん。カズ兄さんは怖がっているんだ」
「私が悪い。一貴が生まれたときに認知をしておけば良かったんだ。すまなかった。しかし、私としては、一貴のためを思って、親子鑑定をした方が良いと思っている」
「お義父さん。やめておこうよ」
「いや、一貴の性格は理解しているつもりだ。白黒はっきり付けないと、モヤモヤと考え込んでしまう。迷宮の中を彷徨うようにして悪夢にうなされているんだろう。こうして、鑑定キットを持ってきた。痛くないよ。綿棒で口の中を優しくこするだけでいい。スピード鑑定サービスを使おう。3日後には鑑定結果が届く」
「お義父さん。それが入っているんだね……」
お義父さんが紙袋の中から冊子と、箱を取りだした。そして、蓋を開けると、綿棒や何かを入れるケースなど、色々と入っているのが分かった。説明書もある。郵便で検査をしている会社に届けて、すぐに結果が出るサービスを使って、スマホで結果が届くそうだ。紙の鑑定結果も頼めるそうだ。だから、両方頼みたいと言っていた。
「一貴。どうだろう。ここに認知届も持ってきてある。私の署名付きだ。たとえ、お前と血のつながりがなくたって、届けを出せば、私達は親子だ。月曜日に区役所に行って来る。しかし、親子鑑定は受けておいた方が良い。もう一人の父親候補がお前の前に現れたときのことを考えてのことだ」
「はい……。女たらしで、セクハラで、でも、親が財界の大物だからっていうことで、デザイナーの道は閉ざされていない人だっていう評判を聞いています。棚橋純一。それが彼の名前です」
「そう、棚橋さんだ。お前の前に現れていないんだったら、この先も何も言ってこない可能性があると思うが、鑑定結果を知っておくと、対処しようがあるだろう。お前にはその力がある」
「はい。大手通販サイト運営会社の社長が頼りにしている人です。坂藤蘭童。その人が親しいということで、彼のデザインした物が市場に出回り始めました……」
「デザインは良いと思うよ。私だって、過去に何も無ければ使いたいぐらいだ。お母さんは今73歳で、棚橋さんも73歳で、私は84歳だ。病気をする年だ。もしかしたら、風邪を引いたことがきっかけで重体になって、そのまま亡くなるかもしれない。だから、縁もそこで終わり。そうなったらいいが、そうならないかも知れない。棚橋さんがいい人では無いことは知っているだろう。セクハラ以外のことだ」
「はい。評判は集めておきました。ずっとイタリアで暮らしていたそうですので、日本でのトラブルは聞いていません。彼が僕の前に現れたからといって、どうということはありません。親子の名乗りをする時期はとうに過ぎているし、親子だとは思いたくなかったから、ずっと会ったことがないのは、神様からの計らいだったと思っています」
一貴さんがしっかりとした話し方でお義父さんとの会話を続けている。しかし、泣きそうでもある。プラセルという大きな企業に育て上げた人だというのに、繊細で、何でも悩むし、子供っぽいところがあるということで、本当に放っておけない人だ。
すると、お義父さんが“始めよう”と言った。親子鑑定のことだ。一貴さんはしっかりとした表情で頷き、お義父さんから渡された検査用の綿棒を口の中に入れた。そして、何度かこする動作を行った。それを専用の容器に入れた後、今度はお義父さんが同じようにして綿棒を口の中に入れた。
その様子を、俺達はじっと静かに見守った。どうか親子でありますように。そんなことを考えた。そして、俺とユーリーは立ち上がり、お義父さんが記入済みの認知届を見た。これが区役所に出されれば、もう一貴さんはお義父さんの息子だと戸籍に名前が載る。
ごめんね。初めからそうしておけば良かった。お義父さんが一貴さんにもう一度そう言ったことで、一貴さんの両目から涙があふれ出して、俺達はタオルで顔を拭いてやった。
「お義父さん。カズ兄さんは怖がっているんだ」
「私が悪い。一貴が生まれたときに認知をしておけば良かったんだ。すまなかった。しかし、私としては、一貴のためを思って、親子鑑定をした方が良いと思っている」
「お義父さん。やめておこうよ」
「いや、一貴の性格は理解しているつもりだ。白黒はっきり付けないと、モヤモヤと考え込んでしまう。迷宮の中を彷徨うようにして悪夢にうなされているんだろう。こうして、鑑定キットを持ってきた。痛くないよ。綿棒で口の中を優しくこするだけでいい。スピード鑑定サービスを使おう。3日後には鑑定結果が届く」
「お義父さん。それが入っているんだね……」
お義父さんが紙袋の中から冊子と、箱を取りだした。そして、蓋を開けると、綿棒や何かを入れるケースなど、色々と入っているのが分かった。説明書もある。郵便で検査をしている会社に届けて、すぐに結果が出るサービスを使って、スマホで結果が届くそうだ。紙の鑑定結果も頼めるそうだ。だから、両方頼みたいと言っていた。
「一貴。どうだろう。ここに認知届も持ってきてある。私の署名付きだ。たとえ、お前と血のつながりがなくたって、届けを出せば、私達は親子だ。月曜日に区役所に行って来る。しかし、親子鑑定は受けておいた方が良い。もう一人の父親候補がお前の前に現れたときのことを考えてのことだ」
「はい……。女たらしで、セクハラで、でも、親が財界の大物だからっていうことで、デザイナーの道は閉ざされていない人だっていう評判を聞いています。棚橋純一。それが彼の名前です」
「そう、棚橋さんだ。お前の前に現れていないんだったら、この先も何も言ってこない可能性があると思うが、鑑定結果を知っておくと、対処しようがあるだろう。お前にはその力がある」
「はい。大手通販サイト運営会社の社長が頼りにしている人です。坂藤蘭童。その人が親しいということで、彼のデザインした物が市場に出回り始めました……」
「デザインは良いと思うよ。私だって、過去に何も無ければ使いたいぐらいだ。お母さんは今73歳で、棚橋さんも73歳で、私は84歳だ。病気をする年だ。もしかしたら、風邪を引いたことがきっかけで重体になって、そのまま亡くなるかもしれない。だから、縁もそこで終わり。そうなったらいいが、そうならないかも知れない。棚橋さんがいい人では無いことは知っているだろう。セクハラ以外のことだ」
「はい。評判は集めておきました。ずっとイタリアで暮らしていたそうですので、日本でのトラブルは聞いていません。彼が僕の前に現れたからといって、どうということはありません。親子の名乗りをする時期はとうに過ぎているし、親子だとは思いたくなかったから、ずっと会ったことがないのは、神様からの計らいだったと思っています」
一貴さんがしっかりとした話し方でお義父さんとの会話を続けている。しかし、泣きそうでもある。プラセルという大きな企業に育て上げた人だというのに、繊細で、何でも悩むし、子供っぽいところがあるということで、本当に放っておけない人だ。
すると、お義父さんが“始めよう”と言った。親子鑑定のことだ。一貴さんはしっかりとした表情で頷き、お義父さんから渡された検査用の綿棒を口の中に入れた。そして、何度かこする動作を行った。それを専用の容器に入れた後、今度はお義父さんが同じようにして綿棒を口の中に入れた。
その様子を、俺達はじっと静かに見守った。どうか親子でありますように。そんなことを考えた。そして、俺とユーリーは立ち上がり、お義父さんが記入済みの認知届を見た。これが区役所に出されれば、もう一貴さんはお義父さんの息子だと戸籍に名前が載る。
ごめんね。初めからそうしておけば良かった。お義父さんが一貴さんにもう一度そう言ったことで、一貴さんの両目から涙があふれ出して、俺達はタオルで顔を拭いてやった。
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