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13時。
俺とお義父さんが黒崎家の門を出て、後ろにはトボトボ歩いている一貴さんを呼んで、門の外に出させた。これから郵便ポストまで行くためだ。ここから歩いてそんなに掛からない。近くにはコンビニがあるから、一貴さんが好きなバウムクーヘンを買って帰ろうと思う。
「カズ兄さん!さあ、行くよ!」
「本当に出すのか?ポストに入れたら、もう検査は行われてしまう。往生際が悪いけど、怖くなってきた。ユーリー。何とかしてくれ」
「一貴さん。検査に同意したじゃないか。もう気前よく出してしまえ!」
ユーリーが一貴さんのことを抱えるようにして外に連れ出した。山崎さんが自転車でポストまで行ってくれると言っていたが、一貴さんのためにも、お義父さんとの2人で検査キットを返送することになった。そういうわけで、俺とユーリーが付き添っている。
もうサンプルを採ったのか。黒崎が俺達のことを見て驚いていた。てっきり、検査はしない方を選ぶと思っていたそうだ。認知届を出して終わり。そうするのだと思っていたらそうならなかったから、一貴さんに気を遣っていた。優しい言葉を掛けることによって。それは、ずっと兄貴だと思ってきたんだということと、何かと頼りにしているのは今も同じだという言葉だった。
それらのことを聞いて、郵便ポストまで行く勇気を貰った一貴さんだったのに、門が近づくにつれて足が重くなり、とうとう近くの木にすがりついてまで嫌がり始めた。それを何とか宥めて、やっと家を出てこられた。
「カズ兄さん!足元ばかりを見ていると転ぶよ~。わわわ、俺の方が転びそう!」
「夏樹。マンホールばかりを見ているからだ」
「だって、ユーリー。新しいマンホールだもん。アニメのキャラクターだよ」
「そうだな。後で写真を撮っておく。ん?あれは誰だ?」
「知らない人だよ。じろじろ見たら悪いよ~」
俺達の進行方向には、マンホールのそばで寝転がって自撮りをしている女の人がいた。そして、近くに行ってみると、どうやら男の人らしいと分かった。長い髪の毛と、しっかりした男らしいフェイスラインをしている。プロレスラーだろうか。そして、南波さんのように、スマホに向かって喋っている。
「そこに寝転んだらいけないって言われてもね~。アタシだって、配信をしているんだからさ~」
通り過ぎるときに、そんな会話が耳に入った。どうやらここは最近になって変わったばかりのマンホールであり、そのキャラクターが好きな人のために動画配信をしていることが分かった。南波さんと親しくなったことで、配信ということをしている人のことが目に留まりやすくなった。そして、俺は、今そこで寝転がっている人が、大学の友達の絵理奈の好きな配信者だと気がついた。竹内わかなさんという。
ユーリーも気づいたようで、彼女に声を掛けようとした。心は女性で身体は男性という人であり、若い男性が好きだということを絵理奈から聞いてある。若いという程でも無いかも知れないがと、ユーリーが彼女に声を掛けたいと言った。彼女の年は41歳だから、ユーリーの方が年下だ。
「ユーリー。声を掛けてみる?」
「ああ。竹内わかなさんで間違いない。あのーーー、もしかして、配信者のわかなさんではありませんか?」
「え?」
ユーリーが声を掛けると、彼女が飛び起きた。そして、俺のことを見て、驚いた顔をした。その顔に俺も驚いた。俺は何もしていないのに。
「あら!もしかして、ナツキ君じゃない?」
「あ、そうです。そっか、俺、歌手だった」
一貴さんと居ると、自分がバンドボーカルをしていることを忘れてしまう。それだけ手の掛かるお兄さんであり、今の頭の中は親子鑑定のことばかりだった。
すると、わかなさんが立ち上がった。俺とユーリーのことを見て、イケメン!と声を上げた。そして、スマホカメラは地面にスタンドで立てたままで、俺達に微笑みかけてくれた。そこで、ユーリーが仕切ってくれると言った。
「わかなさん。僕、ユリウス・バーテルスと言います。日本の会社に異動になって、ドイツから来ていて、この近所で住んでいます。わかなさんの配信を見ているんですよ。彼は夏樹です。バンドボーカルです。彼の住んでいる家と同じ敷地内にある家で暮らしているんですよ」
「あらーーー。そうなのね。日本語が上手なんですね。なるほど、ドイツ人なのね。かっこいいーーー。夏樹君もイケメンねーーー」
「ありがとうございます」
すると、わかなさんがスマホカメラを手に取り、自分のことを映し始めた。俺のことは映さない方が良いだろうと気を遣ってくれた。画面にはユーリーも映り込んだ。やっぱり生放送中であり、視聴者のコメントには、この人、みなみ君の放送で見たことがあるという文字が並んだ。わかなさんは南波さんと同じサイトのツイランドで放送中だということだった。
俺とお義父さんが黒崎家の門を出て、後ろにはトボトボ歩いている一貴さんを呼んで、門の外に出させた。これから郵便ポストまで行くためだ。ここから歩いてそんなに掛からない。近くにはコンビニがあるから、一貴さんが好きなバウムクーヘンを買って帰ろうと思う。
「カズ兄さん!さあ、行くよ!」
「本当に出すのか?ポストに入れたら、もう検査は行われてしまう。往生際が悪いけど、怖くなってきた。ユーリー。何とかしてくれ」
「一貴さん。検査に同意したじゃないか。もう気前よく出してしまえ!」
ユーリーが一貴さんのことを抱えるようにして外に連れ出した。山崎さんが自転車でポストまで行ってくれると言っていたが、一貴さんのためにも、お義父さんとの2人で検査キットを返送することになった。そういうわけで、俺とユーリーが付き添っている。
もうサンプルを採ったのか。黒崎が俺達のことを見て驚いていた。てっきり、検査はしない方を選ぶと思っていたそうだ。認知届を出して終わり。そうするのだと思っていたらそうならなかったから、一貴さんに気を遣っていた。優しい言葉を掛けることによって。それは、ずっと兄貴だと思ってきたんだということと、何かと頼りにしているのは今も同じだという言葉だった。
それらのことを聞いて、郵便ポストまで行く勇気を貰った一貴さんだったのに、門が近づくにつれて足が重くなり、とうとう近くの木にすがりついてまで嫌がり始めた。それを何とか宥めて、やっと家を出てこられた。
「カズ兄さん!足元ばかりを見ていると転ぶよ~。わわわ、俺の方が転びそう!」
「夏樹。マンホールばかりを見ているからだ」
「だって、ユーリー。新しいマンホールだもん。アニメのキャラクターだよ」
「そうだな。後で写真を撮っておく。ん?あれは誰だ?」
「知らない人だよ。じろじろ見たら悪いよ~」
俺達の進行方向には、マンホールのそばで寝転がって自撮りをしている女の人がいた。そして、近くに行ってみると、どうやら男の人らしいと分かった。長い髪の毛と、しっかりした男らしいフェイスラインをしている。プロレスラーだろうか。そして、南波さんのように、スマホに向かって喋っている。
「そこに寝転んだらいけないって言われてもね~。アタシだって、配信をしているんだからさ~」
通り過ぎるときに、そんな会話が耳に入った。どうやらここは最近になって変わったばかりのマンホールであり、そのキャラクターが好きな人のために動画配信をしていることが分かった。南波さんと親しくなったことで、配信ということをしている人のことが目に留まりやすくなった。そして、俺は、今そこで寝転がっている人が、大学の友達の絵理奈の好きな配信者だと気がついた。竹内わかなさんという。
ユーリーも気づいたようで、彼女に声を掛けようとした。心は女性で身体は男性という人であり、若い男性が好きだということを絵理奈から聞いてある。若いという程でも無いかも知れないがと、ユーリーが彼女に声を掛けたいと言った。彼女の年は41歳だから、ユーリーの方が年下だ。
「ユーリー。声を掛けてみる?」
「ああ。竹内わかなさんで間違いない。あのーーー、もしかして、配信者のわかなさんではありませんか?」
「え?」
ユーリーが声を掛けると、彼女が飛び起きた。そして、俺のことを見て、驚いた顔をした。その顔に俺も驚いた。俺は何もしていないのに。
「あら!もしかして、ナツキ君じゃない?」
「あ、そうです。そっか、俺、歌手だった」
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すると、わかなさんが立ち上がった。俺とユーリーのことを見て、イケメン!と声を上げた。そして、スマホカメラは地面にスタンドで立てたままで、俺達に微笑みかけてくれた。そこで、ユーリーが仕切ってくれると言った。
「わかなさん。僕、ユリウス・バーテルスと言います。日本の会社に異動になって、ドイツから来ていて、この近所で住んでいます。わかなさんの配信を見ているんですよ。彼は夏樹です。バンドボーカルです。彼の住んでいる家と同じ敷地内にある家で暮らしているんですよ」
「あらーーー。そうなのね。日本語が上手なんですね。なるほど、ドイツ人なのね。かっこいいーーー。夏樹君もイケメンねーーー」
「ありがとうございます」
すると、わかなさんがスマホカメラを手に取り、自分のことを映し始めた。俺のことは映さない方が良いだろうと気を遣ってくれた。画面にはユーリーも映り込んだ。やっぱり生放送中であり、視聴者のコメントには、この人、みなみ君の放送で見たことがあるという文字が並んだ。わかなさんは南波さんと同じサイトのツイランドで放送中だということだった。
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