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15-9(黒崎視点)
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午前11時半。
卒業式が終わったのだと、窓の外を歩いている生徒達の様子を見て気がついた。俺は今、大学の保健センターーにいる。傍らでは夏樹がベッドの横になり、頭痛と闘っている。30分前に飲ませた痛み止めはまだ効かないのだろうか。
卒業式の進行中に夏樹が倒れたのだと、父が外に出てきて俺達に伝えに来た。講堂内には担架が運び込まれて、夏樹の救護に当たった。彼の顔色は青白く、頭痛と寒気が襲ってきたのだと言っていた。聖加世病院に搬送するのは様子見だ。夏樹の強い意志だ。保健センターの医者と俺達としては連れて行きたかったが、本人がうんと言わない以上、無理には出来ない。もどかしい思いを抱えている。
「夏樹。どうだ?」
「うん……。まだ痛いんだ。寒気もまだあるよ」
「病院に行こう。今朝はなんともなかったのか?」
「うん……。あ、吐きそう……」
夏樹がベッドから起き上がり、そばにある洗面台に移動した。そして、胃の中の物を吐き始めた。卒業式の前に飲んだカフェオレの色の物が出てきた。消化していなかったということだ。朝食べた物はなさそうだった。
俺は夏樹の背中をさすり続けた。すると、スタッフが室内に入ってきた。医者も一緒だ。ついさっきから吐き始めたのだと伝えると、病院に連れて行きましょうと言われた。俺もそう思う。
「夏樹。頭のCTを撮って貰おう。ただの頭痛だと思ってはいけない。何かあるからこその頭痛だ」
「身体が冷えただけだよ。今日は温かいと思って、薄着だったから。今朝も身体を冷やしたんだ」
「夏樹。聖加世病院に行こう。……すみません。救急車の手配をお願いします。本人は必要ないと言っていますが、この顔色です」
「そうしましょう。……お願いします」
夏樹が顔面蒼白になっている。唇は白っぽい。いつもに増して肌の色が白く感じる。茶色の目にはこみ上げてくる吐き気からなのか、潤んでいる。手の色も白い。医者がそれを見て救急車の手配を始め、聖加世病院への搬送を依頼した。保健センターに入る門は生徒達が集まっていない。救急車で出ていくときは恥ずかしくないだろう。それに、今の様子ではとてもそんなことを思える状態ではない。
夏樹のここ数日の様子を振り返った。怪我をしたり、頭をぶつけたりすることは無かった。食欲もいい方だ。肩凝りはあると言っていた。急な頭痛の原因は風邪か、それとも、祖父母のことで昔のことを思い出して、心にモヤモヤが起きたからだろうか。いずれにしても、俺は夏樹のそばから離れない。
同じ部屋には、一貴がいる。ヨークと話をしていたところだ。夏樹の様子はどう思うかと聞くと、流れに身を任せてくれと言われたそうだ。何か頭痛が治まる魔法は無いだろうか。そんなことを考えている。それは一貴も同じらしく、ヨークと話した後、肩を落とした。やっぱり流れに身を任せておくようにと言われたのだろう。
「圭一。さっき僕がつぶやいたとおりだ。病院に任せるしか無い」
「そうだな。何でも魔法を使って貰えるわけじゃない。夏樹。暖かいタオルだ。顔を拭いてやる」
「うん……。吐いたら楽になったよ……。頭痛も、いたたた……」
夏樹が頭を抑えた。右の側頭部だ。俺はスタッフから受け取った温かい湯で湿らされたタオルで彼の口元を拭いてやった。やっぱり寒いままだったのか、少し頭痛が取れたと言った。タオルでそうなるなら、よほど冷えを感じているということだ。しかし、夏樹の手は温かい。
「夏樹。ベッドに寝ておけ。ここに吐いてもいいそうだ。洗面器だ」
「ありがとう……。みんな、どうしてる?」
「親父達は学食に移動した。お前の薦めるコーヒーを飲むそうだ。病院にはみんなで行こう。悠人君がお前の分も午後まで大学にいるから、後でどんなだったか聞いておけ。ああ、悠人君だ。裕理もすまない」
部屋の中に悠人と早瀬が入ってきた。本来ならこれから昼食を取るところだが、こうして様子を見に来てくれた。空腹では無いだろうか。そんなことを考えていると、悠人がサンドイッチを買っててあると言って、俺達に見せてくれた。ここで昼食を食べようと思ったそうだ。
「圭一さん。夏樹君を病院に連れて行くんだろう?」
「ああ、救急車の手配をしてもらった。ああ、もう着いたのか……」
大学の門の辺りからサイレンが聞こえてきた。それが保健センターのそばで止まり、スタッフの案内で救急隊員が部屋に入ってきた。まずは安心した。しかし、夏樹の頭痛は続いている。俺が代わってやれたらどんなに自分が楽だろう。そう思って、何も出来ない自分を感じた。
「黒崎さん。俺なら大丈夫だからね……」
「ああ、俺の考えていることが伝わったのか。すまない……」
救急隊員が夏樹のそばに到着した。医者が彼らに説明を始めている間、俺達が隅の方に移動した。そして、夏樹が担架に乗せられた。救急車には俺が乗る。父達は後でこっちに来ることになっている。早瀨達にそのことを伝えた後、彼らを追うようにして外に出た。
卒業式が終わったのだと、窓の外を歩いている生徒達の様子を見て気がついた。俺は今、大学の保健センターーにいる。傍らでは夏樹がベッドの横になり、頭痛と闘っている。30分前に飲ませた痛み止めはまだ効かないのだろうか。
卒業式の進行中に夏樹が倒れたのだと、父が外に出てきて俺達に伝えに来た。講堂内には担架が運び込まれて、夏樹の救護に当たった。彼の顔色は青白く、頭痛と寒気が襲ってきたのだと言っていた。聖加世病院に搬送するのは様子見だ。夏樹の強い意志だ。保健センターの医者と俺達としては連れて行きたかったが、本人がうんと言わない以上、無理には出来ない。もどかしい思いを抱えている。
「夏樹。どうだ?」
「うん……。まだ痛いんだ。寒気もまだあるよ」
「病院に行こう。今朝はなんともなかったのか?」
「うん……。あ、吐きそう……」
夏樹がベッドから起き上がり、そばにある洗面台に移動した。そして、胃の中の物を吐き始めた。卒業式の前に飲んだカフェオレの色の物が出てきた。消化していなかったということだ。朝食べた物はなさそうだった。
俺は夏樹の背中をさすり続けた。すると、スタッフが室内に入ってきた。医者も一緒だ。ついさっきから吐き始めたのだと伝えると、病院に連れて行きましょうと言われた。俺もそう思う。
「夏樹。頭のCTを撮って貰おう。ただの頭痛だと思ってはいけない。何かあるからこその頭痛だ」
「身体が冷えただけだよ。今日は温かいと思って、薄着だったから。今朝も身体を冷やしたんだ」
「夏樹。聖加世病院に行こう。……すみません。救急車の手配をお願いします。本人は必要ないと言っていますが、この顔色です」
「そうしましょう。……お願いします」
夏樹が顔面蒼白になっている。唇は白っぽい。いつもに増して肌の色が白く感じる。茶色の目にはこみ上げてくる吐き気からなのか、潤んでいる。手の色も白い。医者がそれを見て救急車の手配を始め、聖加世病院への搬送を依頼した。保健センターに入る門は生徒達が集まっていない。救急車で出ていくときは恥ずかしくないだろう。それに、今の様子ではとてもそんなことを思える状態ではない。
夏樹のここ数日の様子を振り返った。怪我をしたり、頭をぶつけたりすることは無かった。食欲もいい方だ。肩凝りはあると言っていた。急な頭痛の原因は風邪か、それとも、祖父母のことで昔のことを思い出して、心にモヤモヤが起きたからだろうか。いずれにしても、俺は夏樹のそばから離れない。
同じ部屋には、一貴がいる。ヨークと話をしていたところだ。夏樹の様子はどう思うかと聞くと、流れに身を任せてくれと言われたそうだ。何か頭痛が治まる魔法は無いだろうか。そんなことを考えている。それは一貴も同じらしく、ヨークと話した後、肩を落とした。やっぱり流れに身を任せておくようにと言われたのだろう。
「圭一。さっき僕がつぶやいたとおりだ。病院に任せるしか無い」
「そうだな。何でも魔法を使って貰えるわけじゃない。夏樹。暖かいタオルだ。顔を拭いてやる」
「うん……。吐いたら楽になったよ……。頭痛も、いたたた……」
夏樹が頭を抑えた。右の側頭部だ。俺はスタッフから受け取った温かい湯で湿らされたタオルで彼の口元を拭いてやった。やっぱり寒いままだったのか、少し頭痛が取れたと言った。タオルでそうなるなら、よほど冷えを感じているということだ。しかし、夏樹の手は温かい。
「夏樹。ベッドに寝ておけ。ここに吐いてもいいそうだ。洗面器だ」
「ありがとう……。みんな、どうしてる?」
「親父達は学食に移動した。お前の薦めるコーヒーを飲むそうだ。病院にはみんなで行こう。悠人君がお前の分も午後まで大学にいるから、後でどんなだったか聞いておけ。ああ、悠人君だ。裕理もすまない」
部屋の中に悠人と早瀬が入ってきた。本来ならこれから昼食を取るところだが、こうして様子を見に来てくれた。空腹では無いだろうか。そんなことを考えていると、悠人がサンドイッチを買っててあると言って、俺達に見せてくれた。ここで昼食を食べようと思ったそうだ。
「圭一さん。夏樹君を病院に連れて行くんだろう?」
「ああ、救急車の手配をしてもらった。ああ、もう着いたのか……」
大学の門の辺りからサイレンが聞こえてきた。それが保健センターのそばで止まり、スタッフの案内で救急隊員が部屋に入ってきた。まずは安心した。しかし、夏樹の頭痛は続いている。俺が代わってやれたらどんなに自分が楽だろう。そう思って、何も出来ない自分を感じた。
「黒崎さん。俺なら大丈夫だからね……」
「ああ、俺の考えていることが伝わったのか。すまない……」
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