青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 午前10時15分。

 今から卒業式が始まる。俺達の大学は学部ごとに行われるから、理学部の生徒達が講堂にある部屋に集まった。保護者も同じ部屋かと思っていたら入りきらないから、別室の大型モニターで様子を見ているらしい。お義父さんは一人で大丈夫だろうか。

「うっうっ。俺、そそっかしくてさ~。それなら先生に頼んで、黒崎さんも一緒に観られるようにして貰ったら良かったな」
「なつきーー。お父さんなら平気だよ。だって、健吾さんと玲子さんがそばにいるんだ。ほらね……」

 悠人から促されて、保護者が集まっている部屋の様子を映したモニターを見せられた。すると、お義父さんが遠藤さんと早瀬さんのお母さんと並んで座っているのが分かった。そうだった。2人がいる。そんなことも忘れていた。

「うっうっ。俺、今日はおかしいんだ~。だってさ~」
「おじいちゃんのことが頭にあるんだろ?気持ちは分かるよ。俺だって、お母さん、どうしているかなって思っているもん……」
「そっか。そうだったね……」
「ラインで卒業のことを報告して、おめでとうって返事が返ってきたけど、全然会っていないんだ。身体は大丈夫かなって思っているよ。俺が出ているコマーシャルは見てくれているみたいだけど……。夏樹、明日から向こうに行くの?伊吹さんが帰って来た後でいいんじゃないの?」
「うん……。何もかもお兄ちゃんに任せるわけにはいかないって思っているんだ。あ、始まった……」

 大学のオーケストラの演奏が始まった。そして、理学部の代表である八代が学位記授与式に臨んだ。俺達の4年間の結晶だ。俺達は午後に教室で受け取る。その式は滞りなく進んで、これから生徒代表答辞が述べられる。その代表には真羽が選ばれた。

 この代表になったことでは大成が目を輝かせていた。惚れたと言っていた。そのことでノアが嫉妬して、大変だった。真羽はとても真面目で優秀だから、みんな彼がいいと言っていた。

 ざわざわ……。しんと静まりかえっているかと思えば、講堂内は生徒同士の囁き声やスーツの衣擦れ音が聞こえている。俺の耳はやっぱり良くなったようで、今までなら聞こえなかっただろう音も聞こえるようになった。悠人は元から耳が良いから、こんな風に色んな場所から音が聞こえていたのだろう。集中したいときは大変だったと思う。そこで、俺は小声で悠人に話しかけた。

「うっうっ。ゆうとーー。あちこちの音が聞こえているんだ。君、ずっと、この状態なんだね。大変だったね」
「分かってくれて嬉しいよ。小学校に上がる頃から気がついて、おかげで気がそぞろになってさーーー。こそこそ。あ、もう真羽の答辞が始まるよ」
「そうだね。静かにしておかないと……」

 悠人が前を向いた。すると、真羽が壇上に上がってきた。今日は真羽の両親が来ている。後で彼と写真を撮って、羽音さんに送りたい。羽音さんとは火曜日のテレビ収録で会うから、色んな写真を見せたいと思っている。

(おじいちゃん達のことしか頭に浮かばないなあ……)

 せっかくの真羽の答辞だというのに、俺の頭の中は祖父のことばかり浮かんでくる。伊吹は祖父のことが好きだったと思う。休日に剣道教室を開いていた祖父の元で剣道の稽古に励み、大会では良い成績を残して、自慢だったと思う。それに引き換え俺は身体が弱くて、剣道は習わされなかった。3歳の時に母方の祖父母の元へ預けられたことがきっかけで、おじいちゃんとマデリンのことがもっと好きになり、中山家の祖父母のことを遠巻きにするようになった。母が意地悪なことを言われていると分かったのは、小学2年生の時だった。その時は心が避ける思いだった。そんなことを考えていると、なぜか眠気が強くなり、うつらうつらとし始めた。

「やばい。悠人、俺、寝そう……」
「いびきを掻きそうになったら起こしてあげるから寝てていいよ。みんな、分かってくれるから」
「うん。ありがとう……」

 悠人の言葉に安心して目を閉じた。すると、急に身体が冷たくなり、頭痛が起きた。それはけっこう激しい物で、座っていられずに頭を抱えて、悠人に支えられながら倒れ込んだ。
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