青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 13時半。

 聖加世病院の緊急センターの待合で夏樹の検査が終わるのを待っている。ここに搬送された後、すぐに検査が行われることになった。ここに着いたときの顔色は保健センターに居たときよりも悪く、血圧と脈拍が上昇していた。低血圧の本人からすると高い数値だった。

 俺は今、ユーリーと向かい合って座っている。二葉には先に帰らせた。帰りが遅くなるかも知れず、留守番をさせるためだ。父と一貴にも後で戻って貰う。もしかすると、入院が必要かも知れないと担当医が話していたのが聞こえた。夏樹が嫌がっていることも聞こえてきた。月曜日と火曜日に収録があり、仕事の穴を開けるわけにはいかないからだ。

 今日のことは長谷部さんに連絡してある。もうすぐでここに来てくれることになっている。収録を取りやめることは出来ず、どうしても夏樹には出せる必要がある。しかし、どうしても無理なら、夏樹が出るところだけを3日後に予定を取り直すことが出来ると、さっき聞いたところだ。そうなると、周りに迷惑を掛けてしまうと、本人が気にするだろう。その話をユーリーとしているところだ。

「圭一。夏樹君が入院することになったら、君が説得するのか?」
「そうだな。俺だな。夏樹は拒むだろう。その時はお前に頼みたい。親父は帰らせようとするからな。いや、一貴に頼むか。死なないでくれとまで言われたら、あいつは頷くしかない」
「おじいさんのことが原因だろうか……」
「それだけじゃないだろう……」

 そうだと言いたい気持ちを抑えた。倒れることは誰にでも起こりうることであり、夏樹の祖父の年齢からすると、珍しいことでは無い。入院している人には悪い言葉を向けたくない。しかし、夏樹が体調不良を起こしたとなると、過去によほどのことがあったに違いないと思った。

 万理の事件の後、夏樹達は祖父母の近所に住んでいた家を売って、今の家に引っ越してきた。そこから縁が遠くなっている。そして、今日、その家を引っ越して、さらに遠くになった。しかし、新居は病院から近くだ。もしもこのまま入院することになったら、義母が病院に通うのだろう。夏樹がそれを想像して頭痛を起こしたのか。

 伊吹が今日、祖父の元に向かうと連絡を受けたところだ。その前に、ここに寄るという。今日の夕方の飛行機が取れたからだ。ここからなら、空港まではそう遠くない。伊吹の方はやっと休みが取れて、家でゆっくりした後、デビューする聡太郎のことを送り出すつもりで居ただろう。心配事を増やしたくないが、こんな時には兄貴に頼りたい。

「もうすぐで伊吹君がここに来る。長谷部さんもだ。聡太郎を連れて来てくれるそうだ。大和君と琉芯君もだ。今日は公式サイトにアップするインタビュー記事の取材を受けているところだ。夏樹と悠人君は昨日済ませてある」
「おじいさんには会わせない方がいいんじゃないか?君は会った方がいいという意見だけど……」
「亡くなった後で後悔するよりいい。あいつの性格を考えると、早いほうがいい。バンドが始まった後は予定がどうなるか分からない。ツアーもある」
「そうだね。ショーをする人は親の死に目に会えないと聞いたことがある。向こうの新居にも遊びに行きたいだろう。それげメインならいいか……」
「ユーリー。夏樹から何か聞いているのか?」
「ああ、聞いているよ。お母さんが気を遣って、俺の活動報告をおばあさんにしているんだって言っていたよ。することないのにって……。その時の顔が般若の面ようだった。お面ならいいけど……」
「そうか……」

 そこで、ユーリーからさらに話を聞いた。引っかかっているのは、祖母に対しての感情が大きいのだと。そもそも万理のことを妊娠した義母が祖母に報告したとき、夏樹とは年子で産まれるなんて恥ずかしい、謹んでと言われたそうだ。産まれたときも祝いの言葉すら無かったという。
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