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俺の前に聡太郎が立った。会社員としての時代は嘘だったかのようなオーラを持っている。表舞台に出るということはこういうことだったのかと思えた。彼のことは幹部候補として見ていた同期社員達は、彼の潔い退職に驚きを隠せないでいた。そして、自分の道を歩いている聡太郎のことを見て、随分と刺激されて、退職を考え始める者がいた。さらに南波のことでも刺激を受けていた。しかし、どの社員もそううまくはいかない現実を知り、新しい道を行くのをやめてしまった。
聡太郎が退職した後、競争相手が一人減ったことでパワーバランスが同期社員達の間で崩れてしまった。元から群れる男では無く、私生活は謎に包まれているタイプだが、伊吹の存在によって公にされて、おかげで社内で親しい者ができていた。
しかし、心から聡太郎のことを応援する者は少数だと、深川社長が話していた。役員室と営業企画部は同じフロアにあり、早瀬が事細かに周りの人間達の監察を行った結果、導き出された答えだ。新しい道を行く者に応援の声を掛けるというよりも、嫉妬の方が強かったらしい。才能ある者、恵まれた者、そういう声があったそうだ。それだけ聡太郎は人を惹きつけるオーラがある。
夏樹の社内での立場は、黒崎家の末っ子というものだ。お飾りで良いと思っていたとおりになった。彼のことを受け入れて貰えないだろうと心の端で思っていたが、最初から競争相手ではないと知らせておいた通りの結果になった。開発部ではお飾りで勤務している。月一度の出勤だ。カフェの開発メニューを担当させている。
俺はそれでいいと思っていた。しかし、夏樹の出演したコンサートを観て、考えを変えた。彼には音楽のステージしか要らないのだと思った。身体のことで引退するようなことが起きたとき、心のよりどころになる場所があれば良いと思い、開発部での勤務を勧めた。夏樹は俺のことを思い、黒崎家のためになるのならと、勤務を決めた。そして、音楽業界での力を付けるためにも、黒崎製菓内での力を欲しがった。
しかし、その欲しがり方は11月のコンサートで消え失せたと言っていた。音楽のステージでこそ力を付けたいのだと言った。それには俺も賛同した。出世欲など俺は彼に求めていない。俺のそばに居て貰えれば良い。笑顔を消したくない。それなのに、俺は音楽という道へ送り出している。身体に響く仕事だから、出来れば家に居てもらいたいが、夏樹のことを閉じ込めてはならないと分かっている。
俺のことを見て、聡太郎が軽く会釈した。それだけ俺の顔がこわばっているのか。いつものように冗談を飛ばして貰いたい。
「桜木。冗談を言ってもらっていいか」
「こんな時には言えません。夏樹君はどうですか?」
「まだ分からない状況だ。意識はある。話も出来る。だが、頭痛が収まらないそうだ。大学の保健センターでは吐いた。顔色は青白かった」
「そうですか……」
俺達は聡太郎達に椅子を勧めた。一番年下の琉芯はまだ18歳だ。この間、高校を卒業したばかりだ。印象としては幼い感じがある。10代から大人と同じステージに立っているとはいえ、まだ顔の輪郭は大人のものではない。こういう時に掛けられる言葉と言えば、これしか思いつかない。病院は怖くないかという問いかけだ。
「琉芯君。病院は怖くないか?」
「いえ、そんなことはないです」
「副社長。いきなり優しいですね。伊吹、変な顔をするな。琉芯のことをナンパしていない」
「どういう意味だ?」
聡太郎のツッコミに笑い声がもれた。俺が若い男が好きなのだと思われているということだろうか。たしかに、琉芯は付き合い始めたときの夏樹と同じ年だ。しかし、俺には浮気心など無い。それに対して、伊吹が色々と言いたいことがあると言いだしたことで、場が和やかになった。
「黒崎さんっ。琉芯君はまだ高校を卒業したばかりなんです。あんたの毒牙にかけられるわけには……」
「そう。そういかないんです。こっちにしてください。大和君!君が副社長の相手をしろ」
「いいよ。でも、俺達、知り合いだけど……」
聡太郎が琉芯のことを抱きしめた。伊吹もだ。それとは反対に大和が俺の前に来た。たしかに知り合い同士だ。手を出すわけもない。黒崎製菓で世話になった須賀部長の息子だ。それに、大成の兄でもある。
聡太郎が退職した後、競争相手が一人減ったことでパワーバランスが同期社員達の間で崩れてしまった。元から群れる男では無く、私生活は謎に包まれているタイプだが、伊吹の存在によって公にされて、おかげで社内で親しい者ができていた。
しかし、心から聡太郎のことを応援する者は少数だと、深川社長が話していた。役員室と営業企画部は同じフロアにあり、早瀬が事細かに周りの人間達の監察を行った結果、導き出された答えだ。新しい道を行く者に応援の声を掛けるというよりも、嫉妬の方が強かったらしい。才能ある者、恵まれた者、そういう声があったそうだ。それだけ聡太郎は人を惹きつけるオーラがある。
夏樹の社内での立場は、黒崎家の末っ子というものだ。お飾りで良いと思っていたとおりになった。彼のことを受け入れて貰えないだろうと心の端で思っていたが、最初から競争相手ではないと知らせておいた通りの結果になった。開発部ではお飾りで勤務している。月一度の出勤だ。カフェの開発メニューを担当させている。
俺はそれでいいと思っていた。しかし、夏樹の出演したコンサートを観て、考えを変えた。彼には音楽のステージしか要らないのだと思った。身体のことで引退するようなことが起きたとき、心のよりどころになる場所があれば良いと思い、開発部での勤務を勧めた。夏樹は俺のことを思い、黒崎家のためになるのならと、勤務を決めた。そして、音楽業界での力を付けるためにも、黒崎製菓内での力を欲しがった。
しかし、その欲しがり方は11月のコンサートで消え失せたと言っていた。音楽のステージでこそ力を付けたいのだと言った。それには俺も賛同した。出世欲など俺は彼に求めていない。俺のそばに居て貰えれば良い。笑顔を消したくない。それなのに、俺は音楽という道へ送り出している。身体に響く仕事だから、出来れば家に居てもらいたいが、夏樹のことを閉じ込めてはならないと分かっている。
俺のことを見て、聡太郎が軽く会釈した。それだけ俺の顔がこわばっているのか。いつものように冗談を飛ばして貰いたい。
「桜木。冗談を言ってもらっていいか」
「こんな時には言えません。夏樹君はどうですか?」
「まだ分からない状況だ。意識はある。話も出来る。だが、頭痛が収まらないそうだ。大学の保健センターでは吐いた。顔色は青白かった」
「そうですか……」
俺達は聡太郎達に椅子を勧めた。一番年下の琉芯はまだ18歳だ。この間、高校を卒業したばかりだ。印象としては幼い感じがある。10代から大人と同じステージに立っているとはいえ、まだ顔の輪郭は大人のものではない。こういう時に掛けられる言葉と言えば、これしか思いつかない。病院は怖くないかという問いかけだ。
「琉芯君。病院は怖くないか?」
「いえ、そんなことはないです」
「副社長。いきなり優しいですね。伊吹、変な顔をするな。琉芯のことをナンパしていない」
「どういう意味だ?」
聡太郎のツッコミに笑い声がもれた。俺が若い男が好きなのだと思われているということだろうか。たしかに、琉芯は付き合い始めたときの夏樹と同じ年だ。しかし、俺には浮気心など無い。それに対して、伊吹が色々と言いたいことがあると言いだしたことで、場が和やかになった。
「黒崎さんっ。琉芯君はまだ高校を卒業したばかりなんです。あんたの毒牙にかけられるわけには……」
「そう。そういかないんです。こっちにしてください。大和君!君が副社長の相手をしろ」
「いいよ。でも、俺達、知り合いだけど……」
聡太郎が琉芯のことを抱きしめた。伊吹もだ。それとは反対に大和が俺の前に来た。たしかに知り合い同士だ。手を出すわけもない。黒崎製菓で世話になった須賀部長の息子だ。それに、大成の兄でもある。
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