青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 さて、俺の前には桃のゼリーがある。まずはこれから食べたいと思った。そこで、悠人と早瀬さんに今夜の夕食の味見をしてもらいたいと思って、鶏肉を二口に分けた。すると、悠人が味見を拒んだ。

「なつきーー。君の夕飯だろ。今夜はあっさりした物を食べた方が良いから、カツサンドは一口だけ食べて良いよ」
「ううん。カツサンドはいいんだ。何もおもてなしができなくてさ……」
「ここは病院だから、そんなことはしなくてもいいよ。ふむふむ。元気が出たようだね」

 カタン。悠人が椅子に座った。そして、カツサンドを食べ始めた。俺には早くゼリーを食べるか、、まだ温かい鶏肉を食べるようにと急かされた。そこで、せっかくだから、熱々の鶏肉から食べることにした。

「じゃあ、病院のご飯から食べるよ。これ、美味しいんだよ~。早瀬さんも座ってよ。みんなでご飯を食べられるって良いね~」

 しみじみと幸せを感じた。今夜の夕食は560キロカロリーだと、ベッドのそばのパネルに表示されている。明日の朝食は何だろうか。そこで、和食と洋食を選んでいないことに気づいた。選ばなかったら洋食になる。黒崎が選んでくれただろうか。

「黒崎さん。これ、選んでくれた?」
「いいや。まだだ。すっかり忘れていた」
「まだ間に合うかな……。あ、もう間に合わない。16時までに選ばないといけないんだって。明日の洋食は何かな?あ、おいしそう!オムレツがあるよ。キノコソースだって。前に食べたことがあるんだ。美味しかったよ」

 思い出せば、数年前になる。庭で転んで額を怪我して入院したとき、ここでキノコソースの掛かったオムレツを食べた。クリームソースだった。それがとても美味しくて、家で再現できないかと思ったが、とうとうできなかった。明日こそは味を解析して、家で再現したい。

「黒崎さん。明日の朝こそは味を覚えて帰るよ」
「明日も明後日も家でゆっくりしろ。キッチンに立たなくていい。親父の家で世話になろう」
「いつも悪いよ。この間だって、いきなり行ったんだ。冷蔵庫にある物で晩ご飯を作ってくれてさ~。酢豚、美味しかったね」

 お義父さんの家は美味しいご飯がある。佐山さんが作る中が料理は絶品だ。近所にある店の佐山茶房と同じ名字だから親戚なのかと思ったら、全然違うそうだ。珍しい名字だと思ったから、てっきりそうなのかと思っていた。兄弟だったということが多くあり、後で聞いて驚くことがある。

 そういえば、晴海さんの師匠の北岡さんと志乃さんも同じ名字だ。ここも親戚ではない。北岡さんは毎日忙しくて、経営しているフラワーショップには週1回しか顔を出せない状態だという。プラセルのショーの花を担当することになったことで北岡さんの名前がさらに広まり、オーダーする人が増えたからだ。

 今までも有名な人だったのに、よくプラセルの花を担当してくれたと思う。プラセルは嫌われていたから、どんな人も避けて通って行っていたのに。晴海さんがアシスタントになり、そのツテを頼って仕事を依頼したら快く引き受けてくれた。おかげで、“あの北岡さんが花を担当した”という評判が広がり、プラセルの名前の株が上がったそうだ。六槍さんは一貴さんの秘書をよく務めてくれているなと思う。そう思うまで地に落ちた名前だったのに。

 志乃さんと言えば、スイスだ。もう向こうで講師の仕事が開始されている。3月までに講師が決まり、大学の学部の方はひと安心しているそうだ。授業は英語で行われる。志乃さんは英語が堪能だから、授業をする立場になっても困らないだろう。

 英語と言えば、俺には問題がある。英語が苦手だ。大学で選択していたドイツ語の方が得意なぐらいだ。時々黒崎と英語で会話するが、どうしてもついていけない。歌の歌詞には英語が出てくる。歌となると、そこそこの発音ができているのに。
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