青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 30分後。お義父さん達の話は続いている。すっかり意気投合したようで、井関先生と今村先生とで話に花が咲いている。午前中なら考えられなかった光景だ。初対面だったし、俺は歯を抜いた後だった。今もそうだが、時間が経って異変が起きず、もう大丈夫だという安心感があると思う。

 話題はお義父さんの家族の話になった。数年前に亡くなった純白さんのことや、お義父さんのお母さん事だ。お母さんのことはお義父さんが話題に出さないし、黒崎が生まれる前に亡くなったというから、全く話を聞いたことがなかった。だから、聞いてはいけないと思い、聞いたことがなかった。

「私の母は我儘な人でした。おばあちゃんから溺愛されていたからです。母の母、つまりは私の祖母は授乳以外は母の事を抱かせてもらえず、曾祖母が母の面倒を見ていました。おむつ、添い寝などもです。祖母が母の事を叱らないといけなくて叱ったときは、祖母が曾祖母から叱られたそうです。姑が強い時代でした。大きくなった後は、その当時、映画館が大きな街にありまして、母が祖母から小遣いを渡されて、同級生達と一緒に映画を見に行っていたそうです。学校では生徒同士で街へ出かけるのは止められていたのにですよ。ずっと叱られてこなかったから、父と結婚した後は、随分と苦労したようです。しかし、入院したときには医者を困らせて、病棟に上がってこの部屋が良いといって、病室を指定したほどの我儘さは残ったままでした。看護師さんから一番遠い部屋が良かったということで……」
「そうでしたか。ご病気は回復されたのですか?」
「ええ、その時はすぐに退院できました。あまりに我儘だから退院させられたのだと、私は思っています」
「そういうことはないでしょう。僕の母も我儘な人です。まだ元気で居るのですが、トイレットペーパーはこのメーカーの物でないといけないと言って、僕が夜、コンビニに出かけて買いに行ったほどです」
「そうですか。コンビニに置いてあるんですか。夏樹。エルーという商品は、コンビニに置いてあるそうだよ」
「うん。あるね。1.5倍巻きが置いてあるよ。ずっと人気らしいね。スーパーに行ったら、いろんなシリーズが置いてあるよ。消臭プラスっていうのが良いらしいよ。良い匂いなんだって」
「そうか。うちでも取り寄せようか。ははは」
「ははは」

 さらに話に花が咲いた。すると、俺がさっきから壁の写真を見ていることに気づいた今村先生が、写真の説明をしてくれた。天文学の有名な先生が写っているとのことだ。その名前を聞くと、お義父さんの本のコレクションの中にある著者だと分かった。

「お義父さんが持っている本の中にある先生だね」
「そうだね。まだ私は読んでいるよ。ロマンがあって、よく眠れる本だ。ははは。難しい本だからね」
「ははは」
「親父。いつも寝ているのは、その本が手元にあるときだったな」
「ああ、そうだ。お前も読むといい。圭一は数年前までレストラン経営をしていましてね。今は黒崎製菓の副社長として菓子類を扱っていますが、この度、直営のレストランを増やすことになりました。シャルロットキッチンと言います」
「存じ上げております。夏樹さんが開発したメニューが並んでいるとか……」
「そうなんですよ。この子は開発部でも勤務していましてね。そこで、それを担当させたわけです……」

 今村先生の反応に、お義父さんが喜んだ。よく知っている先生だと思った。来てくれたことがあるのだろうか。そう思っていると、今村先生の方から、実は常連なのだと話題が出た。

「僕は夏樹さん考案のメニューのリピーターです。小食男子のカフェメニューシリーズです。しかし、僕はたくさん食べますので、そのメニューと合わせて、サンドイッチをオーダーしています。ハム&レタスをよく食べています」
「そのレタスは契約農家から取り寄せたものを使っていましてね。朝どれで、食感が良いと評判で……。ははは。自慢ですが……」
「大変美味しいです。学長もご一緒しましょう」
「そうだね。一緒に行こう。ははは」
「ははは」

 お義父さん達の社交が続いている。そして、40分間に差し掛かろうとした時に、お義父さんの方から、そろそろおいとましますとの声がけがあった。あまり長居するのは悪いと思っていた。しかし、3人は楽しそうだ。話に花が咲き、また来ますという言葉の後、俺達はソファーから立ち上がった。
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