563 / 938
16-19
しおりを挟む
30分後。お義父さん達の話は続いている。すっかり意気投合したようで、井関先生と今村先生とで話に花が咲いている。午前中なら考えられなかった光景だ。初対面だったし、俺は歯を抜いた後だった。今もそうだが、時間が経って異変が起きず、もう大丈夫だという安心感があると思う。
話題はお義父さんの家族の話になった。数年前に亡くなった純白さんのことや、お義父さんのお母さん事だ。お母さんのことはお義父さんが話題に出さないし、黒崎が生まれる前に亡くなったというから、全く話を聞いたことがなかった。だから、聞いてはいけないと思い、聞いたことがなかった。
「私の母は我儘な人でした。おばあちゃんから溺愛されていたからです。母の母、つまりは私の祖母は授乳以外は母の事を抱かせてもらえず、曾祖母が母の面倒を見ていました。おむつ、添い寝などもです。祖母が母の事を叱らないといけなくて叱ったときは、祖母が曾祖母から叱られたそうです。姑が強い時代でした。大きくなった後は、その当時、映画館が大きな街にありまして、母が祖母から小遣いを渡されて、同級生達と一緒に映画を見に行っていたそうです。学校では生徒同士で街へ出かけるのは止められていたのにですよ。ずっと叱られてこなかったから、父と結婚した後は、随分と苦労したようです。しかし、入院したときには医者を困らせて、病棟に上がってこの部屋が良いといって、病室を指定したほどの我儘さは残ったままでした。看護師さんから一番遠い部屋が良かったということで……」
「そうでしたか。ご病気は回復されたのですか?」
「ええ、その時はすぐに退院できました。あまりに我儘だから退院させられたのだと、私は思っています」
「そういうことはないでしょう。僕の母も我儘な人です。まだ元気で居るのですが、トイレットペーパーはこのメーカーの物でないといけないと言って、僕が夜、コンビニに出かけて買いに行ったほどです」
「そうですか。コンビニに置いてあるんですか。夏樹。エルーという商品は、コンビニに置いてあるそうだよ」
「うん。あるね。1.5倍巻きが置いてあるよ。ずっと人気らしいね。スーパーに行ったら、いろんなシリーズが置いてあるよ。消臭プラスっていうのが良いらしいよ。良い匂いなんだって」
「そうか。うちでも取り寄せようか。ははは」
「ははは」
さらに話に花が咲いた。すると、俺がさっきから壁の写真を見ていることに気づいた今村先生が、写真の説明をしてくれた。天文学の有名な先生が写っているとのことだ。その名前を聞くと、お義父さんの本のコレクションの中にある著者だと分かった。
「お義父さんが持っている本の中にある先生だね」
「そうだね。まだ私は読んでいるよ。ロマンがあって、よく眠れる本だ。ははは。難しい本だからね」
「ははは」
「親父。いつも寝ているのは、その本が手元にあるときだったな」
「ああ、そうだ。お前も読むといい。圭一は数年前までレストラン経営をしていましてね。今は黒崎製菓の副社長として菓子類を扱っていますが、この度、直営のレストランを増やすことになりました。シャルロットキッチンと言います」
「存じ上げております。夏樹さんが開発したメニューが並んでいるとか……」
「そうなんですよ。この子は開発部でも勤務していましてね。そこで、それを担当させたわけです……」
今村先生の反応に、お義父さんが喜んだ。よく知っている先生だと思った。来てくれたことがあるのだろうか。そう思っていると、今村先生の方から、実は常連なのだと話題が出た。
「僕は夏樹さん考案のメニューのリピーターです。小食男子のカフェメニューシリーズです。しかし、僕はたくさん食べますので、そのメニューと合わせて、サンドイッチをオーダーしています。ハム&レタスをよく食べています」
「そのレタスは契約農家から取り寄せたものを使っていましてね。朝どれで、食感が良いと評判で……。ははは。自慢ですが……」
「大変美味しいです。学長もご一緒しましょう」
「そうだね。一緒に行こう。ははは」
「ははは」
お義父さん達の社交が続いている。そして、40分間に差し掛かろうとした時に、お義父さんの方から、そろそろおいとましますとの声がけがあった。あまり長居するのは悪いと思っていた。しかし、3人は楽しそうだ。話に花が咲き、また来ますという言葉の後、俺達はソファーから立ち上がった。
話題はお義父さんの家族の話になった。数年前に亡くなった純白さんのことや、お義父さんのお母さん事だ。お母さんのことはお義父さんが話題に出さないし、黒崎が生まれる前に亡くなったというから、全く話を聞いたことがなかった。だから、聞いてはいけないと思い、聞いたことがなかった。
「私の母は我儘な人でした。おばあちゃんから溺愛されていたからです。母の母、つまりは私の祖母は授乳以外は母の事を抱かせてもらえず、曾祖母が母の面倒を見ていました。おむつ、添い寝などもです。祖母が母の事を叱らないといけなくて叱ったときは、祖母が曾祖母から叱られたそうです。姑が強い時代でした。大きくなった後は、その当時、映画館が大きな街にありまして、母が祖母から小遣いを渡されて、同級生達と一緒に映画を見に行っていたそうです。学校では生徒同士で街へ出かけるのは止められていたのにですよ。ずっと叱られてこなかったから、父と結婚した後は、随分と苦労したようです。しかし、入院したときには医者を困らせて、病棟に上がってこの部屋が良いといって、病室を指定したほどの我儘さは残ったままでした。看護師さんから一番遠い部屋が良かったということで……」
「そうでしたか。ご病気は回復されたのですか?」
「ええ、その時はすぐに退院できました。あまりに我儘だから退院させられたのだと、私は思っています」
「そういうことはないでしょう。僕の母も我儘な人です。まだ元気で居るのですが、トイレットペーパーはこのメーカーの物でないといけないと言って、僕が夜、コンビニに出かけて買いに行ったほどです」
「そうですか。コンビニに置いてあるんですか。夏樹。エルーという商品は、コンビニに置いてあるそうだよ」
「うん。あるね。1.5倍巻きが置いてあるよ。ずっと人気らしいね。スーパーに行ったら、いろんなシリーズが置いてあるよ。消臭プラスっていうのが良いらしいよ。良い匂いなんだって」
「そうか。うちでも取り寄せようか。ははは」
「ははは」
さらに話に花が咲いた。すると、俺がさっきから壁の写真を見ていることに気づいた今村先生が、写真の説明をしてくれた。天文学の有名な先生が写っているとのことだ。その名前を聞くと、お義父さんの本のコレクションの中にある著者だと分かった。
「お義父さんが持っている本の中にある先生だね」
「そうだね。まだ私は読んでいるよ。ロマンがあって、よく眠れる本だ。ははは。難しい本だからね」
「ははは」
「親父。いつも寝ているのは、その本が手元にあるときだったな」
「ああ、そうだ。お前も読むといい。圭一は数年前までレストラン経営をしていましてね。今は黒崎製菓の副社長として菓子類を扱っていますが、この度、直営のレストランを増やすことになりました。シャルロットキッチンと言います」
「存じ上げております。夏樹さんが開発したメニューが並んでいるとか……」
「そうなんですよ。この子は開発部でも勤務していましてね。そこで、それを担当させたわけです……」
今村先生の反応に、お義父さんが喜んだ。よく知っている先生だと思った。来てくれたことがあるのだろうか。そう思っていると、今村先生の方から、実は常連なのだと話題が出た。
「僕は夏樹さん考案のメニューのリピーターです。小食男子のカフェメニューシリーズです。しかし、僕はたくさん食べますので、そのメニューと合わせて、サンドイッチをオーダーしています。ハム&レタスをよく食べています」
「そのレタスは契約農家から取り寄せたものを使っていましてね。朝どれで、食感が良いと評判で……。ははは。自慢ですが……」
「大変美味しいです。学長もご一緒しましょう」
「そうだね。一緒に行こう。ははは」
「ははは」
お義父さん達の社交が続いている。そして、40分間に差し掛かろうとした時に、お義父さんの方から、そろそろおいとましますとの声がけがあった。あまり長居するのは悪いと思っていた。しかし、3人は楽しそうだ。話に花が咲き、また来ますという言葉の後、俺達はソファーから立ち上がった。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
お腹いっぱい、召し上がれ
砂ねずみ
BL
料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。
そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。
さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる