青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 学長室に入ると、井関先生が立ち上がった。そして、俺達を見て、恐縮した顔になった。俺達の方こそ悪い。そこで、お義父さんの方から卵サンドを渡した。先生はそれを受け取り、微笑んだ。

「すみませんでした。家の近くの店の卵サンドです。美味しいと評判の店です」
「存じ上げております。たしか、テレビ局への出前や差し入れでも有名になっているとか」
「はい。そのようです。偶然にも近所でしてね。夏樹が好きで、よく食べています。もちろん、差し入れでも喜ばれます。足りますかね、みなさんで召し上がって頂きたいのですが……」
「十分です。良い匂いがしていますね。ははは」
「ははは」

 さあ、DVDを受け取ったおいとまだと思っていたら、お義父さんがソファーに勧められた。そして、俺達のお茶が運ばれてきた。そこで、俺達も着席した。俺はお義父さんの隣だ。黒崎とユーリーは1人がけソファーに座っている。

「こちらのDVD2枚をお忘れでした……」
「すみませんでした。お知らせ下さって、ありがとうございます」
「私が見てもいいのかと思いましたが、見ていません。忘れ物だと思いましたので……。ははは」
「ははは」

 井関先生とお義父さんが笑った。俺はDVDをお義父さんから受け取り、バッグにしまった。そして、お義父さんの方から我が家の話題が出た。俺が歯を抜いたことで、家族全員が晩ご飯をおかゆにすることにしたのだと。そんなことは聞いていない。

「え?お義父さん。そうだっけ?」
「小食は身体に良いという本を読んだ。七草粥の発想だ。日頃、私達は食べ過ぎだ。お前はもっと食べた方が良いと思うが……。そういうわけで、今夜はおかゆだ」
「だめだよ。しっかり食べないと。カズ兄さんなんか、また栄養失調になるよ。忙しいんだし」
「会食が続いている。そろそろ胃を休めた方が良い。ははは。井関先生。この子は酒に弱く、飲ませていません。そこで、今夜、我が家の家族も禁酒にします。ユーリー。そんな顔をするな。肝臓を休ませろ」
「そうでしたか。僕もおかゆにしたいと思いました」
「ははは」

 また2人が笑った。そして、お義父さんの方から、三橋君のことに話題が向けられた。彼は俺達を案内した後、退席した。きっと自習室に行ったのだと思う。すると、井関先生の方から、隣の秘書室で待たせてあるのだと聞いた。

「帰りも案内させますので……」
「いや、悪いです。彼には勉強があるでしょう」
「彼は僕の親戚でしてね。いずれはこの大学に関わらせますから、紹介がしたかったのです」
「そうでしたか。大変真面目そうな生徒さんだ。朝陽君には良い先輩ができました」

 そうだったのかと思った。朝陽の案内役に選ばれたというから、何かあるとは思っていた。大学に関わらせるということで、井関先生がこの大学で長い先生なのだと分かった。名字が違うから、お姉さんか妹さんの子供に当たるのかと思った。

「龍成は妹の子供でしてね。年の離れた妹ですから、僕からすると、孫のような年齢です」
「そうでしたか。今村先生もご親戚ですか?」
「ええ。親戚です。恭平君。ご説明して差し上げてくれ」
「はい。僕は学長の従兄弟に当たります。当大学は親戚で経営しているのだと言われていますが、そうではありません。理事長は親戚ではありませんし、親戚同士なのは龍成と学長と僕だけです」
「優秀な一家ですね。仲が良くていいではありませんか。ははは」

 お義父さんが微笑んだから、井関先生も今村先生も微笑んだ。みんなの話が続いていく。俺は何を話すかというよりも、聞き役だ。黒崎も黙ったままだし、ユーリーも口を開かない。静かにしている。俺もそうしている。

 ふと、壁にある写真が目にとまった。セピアカラーの写真だ。この大学の昔の姿だろうか。白衣を着た人やスーツ姿の男性が並んで写っている。そして、卒業式だと思うが、壇上に上がってスピーチをしている男の子の姿もあった。ここは古い大学だというから、もっと多くの写真があるのだろうと思った。そこで、自分が出た大学の記念写真や、黒崎家の古い写真を見たいなと思った。帰ったら探して見ることにする。
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