青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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17-20(黒崎視点)

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 聖加世病院に到着して30分が経った。そばにある診察室では診療が行われている。それはユーリーの番ではなく、午前中から来ていた人の分だ。何かが起きて救急搬送されてきた患者もいるが、急な体調不良で受診に来る患者も多いのだと分かった。

 ユーリーは今、検査室にいる。頭のCTを撮るためだ。それから血液検査もされた。その結果が出るまで、ユーリーは処置室で、俺達は待合室で待機している。夏樹の頭痛でここに来た後、彼の心臓の検診で訪れた。頭痛の方も原因も落ち着きつつある中、やっと一息付けた頃だった。まさかユーリーがここに来るとは思わなかった。原因は酒だと思うと、俺の方も頭が痛い。

 俺のそばには夏樹がいる。たった今、ユーリーの酒の原因らしき話を聞いたところだ。好きだった人が結婚したという知らせのためだという。それなら酒量の変化に納得がいく。しかし、その話をユーリーにしてもいいものか迷った。本人は恥に思うかも知れない。

「夏樹。その話は胸の奥にしまっておいてくれ」
「そうしたいけど、聞いた方が本人のためだと思うんだ。ますまずお酒の量が増えるよ。ユーリーは誰かに話したいって思っているかも」
「そうだな……」

 夏樹の意見は正しい。俺も意見もそうだと思う。しかし、本人の性格を考えると、静かにしておいた方が良いとは思えた。弱みを見せたくなくて、いつも強くありたいとしている彼だ。それにしては喜怒哀楽がはっきりしているが、悩みの部分は隠したがる。そして、本人が乗り越える。誰にも話さずにだ。アレクシスにも言ったことが無いはずだ。自分の悩みのことを。

(さあ、どうしようか。病状によるな。いずれにしても酒の量は控えさせたい。ん?かっこいいだと?)

 病院には似つかわしくない言葉を聞いた。今、部屋の中から出てきた患者の家族がそう言っている。不思議に思った。すると、その部屋にはユーリーがいて、医師と話しているところだと知った。つまりは、ユーリーのことを見て、かっこいいと言ったのだろうか。

「キャーーー!さっきの外人さん、めっちゃかっこいい!手を振ってくれたわよ!」
「私には笑ってくれたわーーーー」
「あなたたち、ここは病院よ。静かにしなさい!」
「お母さん。ごめんなさい」
「お姉ちゃんはまだ処置室かなーーーー」

 俺の予想は当たったと分かった。家族が患者であり、付き添っていたのだということもだ。ああやって騒ぎ立てているということは、思ったよりも姉の病状は重くないということか。それならユーリーのことも安心できた。微笑んで手を振る心の余裕があるのだから。

「え、マジ……」
「かっこいい……」
「あら……」

 すると、さっきの家族が俺の方を見て立ち止まった。俺のことを言っているのかと呆れた。どうでもいいことだ。そして、夏樹の方を見て姉妹が歓声を上げて、母親が止めていた。

「夏樹君!」
「キャーー!やっぱりそうよね!かっこいい!」
「こんにちはーーー」

 姉妹が夏樹の前に立った。そして、握手を頼まれた。なんでも夏樹に会って握手をすると、会社の営業成績が上がるとか学校の成績が上がるなどのジンクスが産まれているそうだ。夏樹が立ち上がり、快く握手に応じた。笑顔付きだ。

「夏樹君。ありがとう!テレビで観たとおりのかっこよさね!手が冷たいわよ。冷えているの?」
「ははは。俺、体温が低めなんだ。冷え性みたいな感じもあって……」
「そうなのね。もしかして、中にいた外人さんの付き添い?動画配信で出てきた人だと思ったんだけど」
「そうなんだよ~。うちで住んでいる親戚の人だよ。君達はどうなの?」
「あ、私達はね、お姉ちゃんがお腹を壊したの!朝ご飯を食べに行っていて、帰り道で動けなくなったの」
「それは大変だね。うちの場合は、朝から調子が悪かったんだ。頭がフラフラするって言って、倒れたんだ」
「まあーーーー」

 姉妹と母が夏樹の話に頷き合った。それは大変なことだと。俺は日頃から夏樹には家のことを話すなと教えてきたが、今はそうでも無い。黒崎家に慣れてきたからだ。音楽の仕事をしている関係もある。23歳になり、もっと自由でも良いかと思っている。守ってやらないといけなかった大学生の子は過去のことだ。そう思うと心が痛くなった。
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