青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
601 / 938

17-22(夏樹視点)

しおりを挟む
 14時。

 月島さんが病院に駆けつけてくれた。俺が彼に連絡を取ったのは、ここに来る前の車の中だ。もしかしたら入院するかもと書いて送ってあった。それが何を意味するのかは深く考えていなかった。俺としては、ユーリーと連絡がつかなくなるかもというシンプルな話だった。それから、恋のキューピッドの感覚でもあった。しかし、黒崎からは怒られた。そんな書き方をしたら、まるでお前のせいだと言っているような物だと。

 そこで俺はラインを読み返し、自分の言葉選びが間違っていたのだとよく分かった。俺が月島さんの立場なら、同じ事を思うだろう。このように、俺は人に誤解を与えてしまう。音楽の仕事でSNSでつぶやけない理由だ。月島さんにメッセージを送る前に、黒崎に見てもらったら良かったと後悔した。

「黒崎さん。そんなに怒らないでよ。誤解が解けたんだからさ~」
「“ユーリーが具合が悪くなったから聖加世病院へ連れて行く。入院するかも知れない。詳しいことはまた後で連絡します”でいい。それをお前は……」
「うっうっ。“朝まで飲んだせいで倒れたから、聖加世病院に連れて行くよ。だから、ユーリーとは連絡が取れないよ。入院するかも”。こう書いたらだめなんだね~。ごめんなさい!」
「いいんだよ。僕が悪かったんだ。止めないといけなかった。いや、一緒に居るべきだった……」

 月島さんが俺の前に座った。幸いにも怒っていなくて、ホッとした。お義父さんも一貴さんも怒っていない。黒崎だけがプリプリと怒り顔だ。

 身を縮こめている俺に、月島さんが自分はもっと悪いのだと言った。それはなんだろうか。俺が顔を上げると、アメリカに行った彼のことを聞いているのだと言った。ユーリーが打ち明けたのか。友情が進んでいる証だと思って、明るい兆しを感じた。

「夏樹君。僕はユリウス君からそれを聞いて、チャンスだと思ったんだ。思ったよりも早くこっちに引っ張れそうだと思って、心が躍った。失恋の痛手の隙間に入ろうとした。でも、彼が倒れてしまった。永遠に失うかも知れないと思って、自分への罰だと思った」
「ごめんなさい。俺のせいだよ。月島さんのせいだって言って怒っているようなラインだもんね。月島さん、寝起きなんだろ?慌ててシャワーを浴びてきた感じだね……」
「こら、夏樹。じろじろ見るな」
「だって、いつもと違う感じなんだもん……」

 俺は月島さんのことを見た。いつもきちんとセットしてあるヘアスタイルなのに、ちょっとボサッとしている。しかも、少しお酒臭い。シャワーを浴びてきたのが分かったのは、ボディーソープの匂いからだ。ティーオーレというブランドのアブダビという香りだ。主に化粧品を作っているメーカーで、香水も有名だ。そのメンズラインの化粧品とボディーソープを愛用していると、月島さんから聞いてある。久弥も好きなブランドで、同じ匂いの香水を嗅いだことがある。
 
 目の前に居る月島さんはここに来たときには憔悴していた。そこで、検査室から車椅子で戻ってきたユーリーを見かけて、ホッとした顔をした。俺達も同じだ。数十分前はストレッチャーに乗せられていたからだ。かっこいいと言われて手を振っていたとはいえ、心配だった。

「ユリウス・バーテルスさんの付き添いの方、いらっしゃいますか?」
「はい。行きます」

 看護師さんから俺達を呼ぶ声が聞こえてきた。検査結果が出たのだという。そこで、お義父さんが代表で立ち上がった。本当なら身内でないと話を聞けないだろうが、親族同様に暮らしているのだと説明してあったから、話を聞かせて貰える。そこで、ユーリーの具合はどうかと気になって、聞いてみた。すると、もう立ち上がれるとのことで、ホッとした。

「月島さん。よかったね」
「ああ……」
「会われますか?」
「はい!」

 看護師さんから聞かれて、俺達が返事をした。そして、部屋の中からユーリがー出てきた。俺達が良かったねと言っていると、月島さんが彼に抱きついて、泣きそうになっていた。

「ユリウス君!すまない!僕が気を付けておくべきだった」
「月島君……。来ていたのか……。夏樹だな。言ったのは……」
「ユリウス君!君が大丈夫だというから、僕は信じたんだぞ。君は嘘つきだと知っている。だから……」
「僕が付く嘘は本当なんだろう?だから、大丈夫だ。泣くな……」
「月島さん……」

 ユーリーのことを月島さんが離そうとしない。ずっと一緒にいるのだと言った。それを聞き、まるで駄々をこねているのかと思った。それだけ彼は取り乱している。俺達はそれを笑うわけも咎めるわけもなく、来て貰えて良かったと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...