青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 17時。

 黒崎の運転する車がマンションの駐車場を出た。俺と一貴さんとユーリーが乗っている。話題は風林さんのことだ。黒崎がヘッドハンティングしたことで、黒崎製菓に新しい風が吹きそうだという話だ。そして、きっと断られるだろうと俺達は予想した。風林さんはリーダーという役目にあり、中心を担っている人だと思ったからだ。しかも、黒崎製菓の入社試験を受けて面接で落ちており、また来たいなんて思わないだろうという意見もある。これは一貴さんからだった。

「カズ兄さんはそう思うんだね」
「ああ。僕なら避けて通る。今の会社で満足しているだろう。最初に入った会社を移って、まだ何年も経っていない」
「リーダーだもんね。でも、ヘッドハンティングの話をしたら、給料を上げてくれるかも知れないよ。そんな話を聞いたことがあるんだ」
「その通りだ。そういう話がある。電話を掛け来てくれるなら見込みがあるのか。圭一。口説き落とすつもりか?」
「もちろんそうする。レストラン事業部で人員が減っている。4月に退職した社員がいる。人事異動をさせて動かして、風林君をレストラン事業部に来させたい」
「そこまで考えているんだね……」

 話を聞くと、黒崎は普段通りだ。エネルギッシュさと冷静さがある。疲れていたらそんなことを考えないだろう。副社長として舵取りをしている。俺は後部座席に座っているが、後ろから見ても黒崎の背筋は伸びており、ヘタを打つ様な感じは無い。ママからの頼みには断れなかった感じがあるが、投げやりだったという解釈もあり、じっくり話さないと本音が聞けないと思った。

「そうだ。この後で北添さんからも電話があるんだろ。お義父さんが言っていたこと、覚えている?」
「ああ。そこまで疲れていない。覚えている」

 リリナさんのことがあった後、お義父さんからまた黒崎に電話が掛かってきた。北添さん本人が今日の21時に電話をしてくるそうだ。20時に風林さんとの約束があるから、その時間になった。北添さんはその時間でいいそうだ。黒崎もそれでいい。今日話す分だけ月曜日に話す時間が減るから、休職届を出してすぐに帰れるだろうと言っている。

「黒崎さん。あんたは優しいから、北添さんのことでは心配はしてないんだよ」
「プレッシャーを掛ける発言は慎む。うちの家には精神科に掛かっている家族が2人もいる。神様は俺に学びを与えてくれている。これでも病気に詳しくなれた。薬のことでもだ。一貴。今からプレッシャーを与えてやろうか?」
「黒崎さん、やめなよ~っ」
「圭一。やめてくれ。プラセルを潰さないでくれ。一体何を言い出すんだ。ああ、ユーリー。助けてくれ。圭一は君の言うことなら聞く」
「そうだな。圭一は僕には優しい。夏樹にもだ。圭一。一貴さんにプレッシャーを与えないでくれ。消えて無くなりそうな程に震えている」
「どこがだ。シートにふんぞり返っているじゃないか」

 黒崎が笑った。たしかにその通りだ。シートにふんぞり返ってジュースを飲んでいる。今日はたくさん思い出の写真が撮れて大満足しているそうだ。そのほとんどがユーリーと自分の写真であり、好みのいい男と撮ったんだと俺に自慢している。

「カズ兄さん。ユーリーと撮ったのって、何枚あるの?」
「50枚ぐらいある。ほとんど僕は作業をしていない。ユーリーの手も止めた」
「うんうん。その分、俺と黒崎さんでスピードアップしたんだ~」
「僕は大満足している」
「うんうん。帰ったら犬の手も猫の手もフェレットの手もあるよ。肩を揉んでもらうよ」

 俺は小さな嫌みを言った。黒崎が笑っている。しかし、一貴さんは気がつかない。けろっとしている。そして、ユーリーは悪かったかなという顔をした。

「ユーリー、いいんだよ。カズ兄さんのお守りをしてくれたんだからさ」
「僕達がやったのは布団を敷くことぐらいだった。買ったばかりの布団を真空パックから出して、広げた。シーツもセットした。それだけだ」
「それも重要な仕事だよ。たとえあんたが喜んでゴロゴロ寝転がっていても、いいんだよ。ご褒美に、コンビニに寄ってもらおうよ。あんたが好きな焼き鳥を買おうね」
「そうだな。今週はキャンペーンをしていて、40%増量だ」
「そっか。タイミングが良かったね!」

 ユーリーが好きなのはコンビニの焼き鳥だ。俺達の家に近くにある店で売っている。さっそく黒崎に頼むと、もちろん寄るつもりでいたと言ってくれた。その顔はやっぱり晴れ晴れとしていて、しっかりしたものだった。
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