青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 6月17日、金曜日。午前7時。

 ナレーションの収録の日から2日経った。今日は殺害予告の犯行予告日だ。今日の午前10時8分に予告されているから、今朝から我が家は忙しい。黒崎は会社に行くことになっている。二葉もだ。ユーリーと一貴さんと俺は北岡さんのお店で避難させてもらう。お義父さんは家に残ると言い出した。2回目に届いたメールに腹を立てたからだ。どうせ何も出来ないだろうと書かれていた内容だったからだ。

 俺と黒崎は今、いつもよりも遅めの朝ご飯を食べている。しかも、トーストだけというメニューだ。昨日の晩から今朝までお義父さんのことを説得し、一緒に逃げてもらうように話をしていたためだ。向こうの家もも今朝はトーストだけを食べている。誰も料理が出来ないからだ。昨日の夕方からお手伝いさん達には出勤を控えてもらっている。

 しかし、ざるそばなら一貴さんが用意できる。そばを茹でて水で冷やして、めんつゆをかけて、ささっと食べる方式だ。しかし、それには家族一同が不平の言葉を出した。昨夜も一貴さんが作ったざるそばだったからだ。しかも、ネギも海苔もない、蕎麦だけのざるそばだった。チューブのわざびはお好みで、といった感じだった。

 それなら俺が何か作れば良いと思ったが、昨日はあいにく、レコーディングに呼び出されて出かけていた。マザーの撮り直しとも言える内容だった。そういうわけで、俺は作れなかった。そこで、黒崎がお弁当を買ってきてやると言ったが、お義父さんが首を横に振った。こういう事態のときは家族の気持ちを一つにするために、うちで作ったご飯を食べるべきだというのだ。

「うっうっ。お義父さんってば、昔を思い出して、芋ご飯にするとか言い出したもんなあ。誰が芋をむけるんだよ。ユーリーに期待したけど、トーストとウインナーしか焼けないんだーーって言っていたから、ずっこけたよ」
「あいつは料理をしない。外食オンリーだ」
「そうなんだってね。二葉なんか包丁を持たせたら危ないし、カズ兄さんもそうだし、ユーリーなんか、ウインナーを焼いて酒を飲もうって言い出すし……」
「あいつは禁酒中だ。また飲み始める口実が欲しかったんだろう」
「酒屋さんにも悪いもんね。ユーリーのためにワインを取り寄せてくれていたんだ」

 色々と付き合いという物があり、家族の健康の変化には悩むことがある。彼が黒崎家に住むようになって、ワインの注文量がぐっと増えた。そして、本人の希望を叶えるために、酒屋さんがあれこれと様々な産地のワインを取り寄せてくれた。しかし、家の中に入らないから、少しずつ運んでくれている。

 そこで、ユーリーが禁酒すると決めて、在庫が残ったままになっていた。そこで、お義父さんが運んでもらっていたが飲みきれず、保管庫が必要なぐらいになりそうだった。そこで、ユーリーがまた飲み始めたいと言い出した。酒屋さんを口実にした感はあった。

 そこで、今回のことが起きた。酒でも飲んで過ごそうとユーリーが言い出して、お義父さんも一貴さんもそれがいいと言い出した。しかし、慎重な二葉は酒に反対した。ユーリーの健康を心配してのことだ。その彼はすっかり体調が良くなり、酒の代わりに甘い物を食べているから、体重が増えそうだと言っている。そこで、やっぱり酒が良いと言い出した。

 さて、お義父さんの方は機嫌を直したから、俺と一緒に逃げてくれることになった。ここから一貴さんの運転する車で北岡さんの店に行くことになる。黒崎は二葉を連れてタクシーで会社に向かう。今日は二葉は秘書のバイトの日だ。こんなことになったから休んで俺達と一緒に逃げて欲しかったが、会社に行くという強い意志から、そうなった。しかし、黒崎の出勤タクシーに同乗することになった。警察の方からは、北岡さんのお店がいいですとは言われていた。お義父さんと一緒がいいという判断だ。もしも犯人が来たら、何かあるかも知れないという。

「黒崎さん。食べ終わった?もうすぐでタクシーが来るよ。二葉が玄関に来たよ」
「そうか。今、行く」

 いつもは7時半にタクシーが迎えに来るが、今日は早めに呼んである。玄関にはスーツ姿の二葉がいて、黒崎のことを待っていた。そして、黒崎がネクタイを締めて、鞄を持って玄関に行った。俺は2人の姿を見送り、一旦、お義父さんの家に移動する準備を始めた。
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