青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 大昼間では宴たけなわといった感じの時間が流れている。テーブルの上の料理は全て平らげられて、黒崎が満腹になったお腹を抱えるようにして椅子に座っている。いわゆる、ふんぞり返っているというスタイルだ。

 エミリアさんの隣には伊吹が座り、ドイツ語を駆使してなんとか気に入ってもらおうと必死で食らいついている様子だ。それには呆れてしまった。伊吹としてはバーテルス家の女主人と親しくなっておきたいという思いが見え見えで、エミリアさんが笑い声を立てていた。

「伊吹君。日本語で良いのよ。ドイツ語でも英語でもなくて良いから」
「アイムソーリー。ソーリー。ディズイズア……ペン。あ、いったーーーー!」
「伊吹、いい加減にしろ」

 聡太郎が伊吹の頭を叩いた。その音がこっちにまで響いてくるようだった。聡太郎が恥ずかしそうにしている。伊吹が頭を抱えて呻きあげて、テーブルの上に突っ伏した。エミリアさんが優しく、大丈夫かと聞いてくれている。

「あいたたた。大丈夫です。ソータ、何するんだ!」
「恥ずかしいことをするな。エミリアさん。すみませんでした」

 ニコッと微笑み、聡太郎が伊吹のことを押しのけて椅子に座った。いい男がここにもいる。真っ黒い髪の毛に真っ白な肌、赤みが差した唇が笑みの形を取り、妖艶な雰囲気を醸し出している。エミリアさんの方はといえば、クスクス笑いっぱなしだ。面白かったようだ。

 その様子に、黒崎がホッとした顔になった。楽しんでもらえているようだからだ。バーテルス家とは親戚同士のような付き合いとはいえ、気が抜けないとは聞いていた。バーテルスビスケット会社との合併の話も出ていることだし、敵対関係になりがちな傾向があるという。それは早瀬さんのことだ。菜々子さんのことでは黒崎家とバーテルス家は険悪な状態になってしまったという。しかし、当時、黒崎家に滞在していたエミリアさん達を、お義父さんはすぐにドイツに戻らせなかった。ずっと続いていく友情だと断言した。

 しかし、バーテルス家としてはエミリアさん達を戻らせようとしたそうだ。怒りに震える拓海さんの手前、滞在させておけなかった。エミリアさんだって許しを請うようにしていた。そこで、話し合いがもたれて、彼女達をそのまま留まらせることにしたそうだ。

 その時の話を聞くと胸が痛い。夫の暴力から逃げてきたエミリアさん達の居場所は無くなってしまう恐れがあったからだ。夫の不貞と拓海さんへの裏切り行為を知ったときのエミリアさんはどんな気持ちだっただろうか。その時のことを少しだけお義父さんから聞いてある。泣きはらした目で許して下さいと謝ってきたそうだ。

 なにもかもフェリックスさんが悪いと思う。まさか拓海さんが大事にしている友達に手を出すなんて思わなかっただろう。しかし、フェリックスさんの方にも言い分があるそうだ。拓海さんとそんなに親しいと思わなかったそうだ。菜々子さんは自分の話をしないから、分からなかったそうだ。ただ魅力的な女性がいて、惹かれて、デートに誘って付き合い始めた。ただそれだけだったという。しかし、妻子があるのを黙っているのは悪いことだったと認めているそうだ。しかし、それでも欲しいものは欲しいから手に入れただけだと、エミリアさんにはっきり言ったそうだ。

 その時のエミリアさんの心のことを思うと、俺は憤ってしまう。お世話になっている黒崎家の友達の一大事になったからだ。そんな人とやり直すことになったのは、いつまでも日本にいてはいけないと思ったからだそうだ。それにも早瀬さんのことが関わっている。自分たちはドイツに帰るべきだという考えが消えなかったそうだ。可哀想にと思う。

 ドイツに帰るとなると、フェリックスさんと同居をするかというと、その選択肢は50%の可能性であったそうだ。離婚するという選択肢も50%あった。しかし、エミリアさんはフェリックスさんに愛情があったし、もしかしたら更生するかも知れないという思いからやり直すことを選んだわけだ。そして、同居を始めて一ヶ月目でフェリックスさんが愛人のいるマンションに引っ越してしまった。菜々子さんの他にもいたわけで、それには呆れて物が言えなかったそうだ。
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