青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
825 / 938

23-32

しおりを挟む
 ところで、今日の夏樹の反応が忘れられない。夕方に風林から電話が入り、書斎に移動した。それがいけなかったそうだ。いつもそうしている俺としては戸惑ったが、機嫌が悪いのだろうと思って受け流した。それもいけなかったようだ。後で夏樹から謝られた時に、普段の夏樹ではないと感じた。今日の会食のことでナーバスになっているのかと思った。

 しかし、今日の席はバンドメンバーが揃っているし、一貴が主催した物だ。枝川も参加している。肩の凝るような店では無く、どちらかというとカジュアルだ。夏樹はイタリアンが好きであり、魚介系の料理が評判の店で、気に入ると思っている。

 今日紹介される会食の相手は水端という男だ。縫製工場を経営している会社の副社長であり、一貴とは打ち明けている相手でもある。個性的であり、面白い男だというから、きっと夏樹も打ち解けると思って、会食に行ってもいいと許可した。

(許可か。俺は偉そうだ。しかし、夏樹のこと思うと、自由にはさせられない……)

 これから会食の席が増えるのだろう。その度に俺が許可を出すなど、可能だろうか。IKUの意向がある。俺が音楽活動の妨げになってはいけないと思っているが、活動には様々なトラップが存在する以上、黙っては居られない。性的な関係を求められることがある。だから、会食の相手や活動に携わる相手のことには口を出す必要がある。デビューするにあたって、それを条件に出していた。遠藤さんは理解してくれた。

(夏樹……。俺はお前のことを大事にしていないか?そんなことはないだろう。どうして風林のことであんな反応を見せたんだ。俺が楽しそうに2階に上がっていたなんて、あり得ない)

 風林からの電話の内容は、かつて勤めていた岡田商事の社長からの誘いのことだ。もう縁が切れたと思っていたのに、引っ越しのアザレアに仕事の依頼をして来て、わざわざ風林を指名したのだという。もちろん、予定があるために断ることにしたのだが、事あるごとに風林と会おうとするのだという。かなりしつこい相手であり、辟易としていた。それをどうしたら良いのかという相談を受けていた。

 もしも風林が黒崎製菓に移ってきたときに、その社長が追いかけてくる可能性がある。そのため、何か協力できないかと思って何点かアドバイスをしておいた。しかし、効果が無い。そこで、俺が引っ越しのアザレアの社長に相談するように勧めて、そうした。もちろん、社長は快く相談に乗ってくれたそうだ。その報告だった。良い結果が聞けると思って、足取りが軽くなってしまったかも知れない。

「夏樹……。ああ、あんなに機嫌を悪くすることはないだろう。何か贈り物は無いか。欲しがっていた冬物のコートはまだ店頭に出ていない。何も思いつかない……」

 独り言をつぶやいてしまった。夏樹の機嫌を直させることは俺の得意とすることだ。機嫌が悪いところも魅力的だと思っている俺はおかしいだろうか。あんなに怒って、俺のことを気にしている証拠だと思うと、悪い気になれない。今の気持を夏樹が知ったら、怒るだろう。

「ん?ラインか。夏樹だ。なんだって?“水端さんにウォークインのことを打ち明けたよ”だと?どうしてそうなるんだ。誰にでも話して良いことじゃない。なんだって?ヨーク達の悪戯だと?そうか……」

 彼らが話してもよいと判断したのなら、それで良かったのだろう。そうでなかったら話してはいけないことだ。仕事に影響が出てくる。一貴の評判に関わってくるからだ。夢でも見ているんじゃないか、変わった奴だと思われてしまう。話したということは、一貴の友人になり得ると判断したということなのだろう。

「“今、電話をしてもいいか?”」

 そうメッセージを打って送った。すると、いいよと返事が返ってきた。そこで、こちらから電話を掛けた。すると、いつものように夏樹が出て、その声は少し慌てていた。そこで、落ち着けと言い、話を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...