聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 森のような場所が見えてきた。大きな門を入って進んで行くと、夏樹が花壇の縁に座って手を振っていた。黒崎さんの言いつけにより、可能なかぎり体を休めるためだ。極端な人だと苦笑していた。はいはいと言うことを聞いてあげているから大人だ。

 ガーーー。

 夏樹を乗せて車が発進し、さっそくステージ裏の映像の話題になった。売れるかな。そう呟くと、佐久弥から乱暴に頭を撫でられた。

「セットが乱れるってー」
「サラサラのストレートのくせに。考えても仕方がないぞ。裕理とラインでもやれ」
「仕事だから。あれ?入ってる……」

 なんとなくスマホを見ると、メッセージが表示されていた。オフィスに着いた頃だ。まだ始業前だろうか。

(……ネガティブの呪いが復活しただろう?今夜はたくさん食べようね。歩けなくなったら背負ってあげる……)

 どうしよう?胸がキュンとした。すぐに返信をすると即座に返ってきた。それを繰り返していると、夏樹から見つめられた。うっとりしている。俺たちの甘さが羨ましいそうだ。そっくりそのままお返ししたい。

(悠人君のことをおかわりするよ。明日は平日だからほどほどにする。あああ……)

 ゴン!

 咄嗟に立ちあがった結果、天井に頭をぶつけてしまった。いてて、大丈夫?そんなやり取りをしながら、夏樹から慰められている間に、大学の駐車場スペースに到着した。そこには、大勢の男グループが立ち並んでいた。ファンからの出向かえというものだ。ズッコケたくなる。ありがたいことなのに、面食らっている。みんな冗談でやってくれているのは分かっている。

 ここに来れば日常があり、ステージに上がる時のバランスが取れるだろう。緊張している時のイメージトレーニングにもいいそうだ。落ち着かせる目的でだ。   

 剣道部員が志願してくれて、毎朝のメンバーに号令をかけて取りまとめてくれている。伊吹さんからの指示によるものだ。凛々しいかけ声に反応して、メンバーが一列に並んだ。

「三歩下がってください!」
「はい。ひいい兄さんの荷物をお持ちします」
「ひいいいいっ」
「夏樹兄さんのトートバッグをお持ちしまーす」
「寒いからさ。建物の中に入ってよ~」

 夏樹が苦笑している。佐久弥が理久のことを降ろしている間、全く動じている様子がない。兄貴と呼ばれてキラキラして目を向けられても。なんと、理久も動揺していない。

「あああ……」
「ゆうとー?どうしたんだよ?」
「だめだだめだだめだー。プロ失格だ!」
「はいはい。行こうねえ~」
「皆さん、出発します!」

 剣道部の号令の後、並んで校舎へと向かった。なんの行列なのか?団体なのか?ヘンテコな展開になり、早瀬が腹を抱えて笑っていたのも納得が出来た。

 すると、真羽に会った。理久とは友達同士だ。真羽に案内されて工学部のキャンパスに向かった。その後ろ姿を見て安心した。

 俺はと言うと、よそ見をして歩いていたせいで、銀杏の木に当たりそうになった。夏樹から抱きかかえられて守られたのだが、2人揃って水たまりに足を突っ込んだ。親衛隊に見守られながら、そそっかしいコンビとして1号館に入った。
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