聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 遊歩道からの帰りは、ゆりかもめ線で駐車場まで戻った。久しぶりに2人で電車に乗り、環境が変わって1年も経ったのかと驚いた。せっかくだからと、お台場で買い物をした。お土産に選んだのは、”ミルティー” の人形焼きだ。母がデザインしたキャラを使ったものだ。

 ごく自然に手に取ることが出来たのは、心のわだかまりが減ったからだと思う。それに、女の子向けのキャラだから、今までなら躊躇っていただろう。

 すると、早瀬が近くの店へ行きたがった。そこで売っていたのは、レインボーブリッジのイラストがプリントされた、トートバッグだった。書類を入れるのか?

「裕理さんが使うの?」
「黒崎社長へのお土産だ。本を借りたお返しに。ウサギのイラストのプリントのトートバッグに入っていただろう?好きなのかもしれない」
「えええ?そうかなー?たまたま使ったんじゃないの?」

 そこでふと思い出した。夏樹経由で本を貸し借りするときは、毎回、違ったキャラのエコバッグが使われていることを。あの子の趣味かと思っていたが、意外とそうではないかもしれない。

「ふむふむ。何種類も使っているもんねー。カッコいい系の色はないかな?」
「この辺りはどうだ?落ち着いている」
「もっと良いものがよくないかな?お菓子類は、美味しいものを知っているよね」
「こういう物の方がいい。大学生が選んだものだ」
「ふむふむ。えーっと、こっちの色なら使えそうだよ」

 茶系のイラストになったデザインを見つけた。本を入れるのに丁度いいサイズ感だ。けっこうシブめだと思う。お土産用にラッピングしてもらった。

「本を返す前に渡したいな。大げさになるかな?夏樹に渡してもらおっか?」
「土曜日に遊びに行こう。夏樹君から誘われているだろう。その時にどうだ?」
「そうするよ。マーマレードも持って行かない?大丈夫だよね?」
「食べごろになっている」
「裕理さんも、黒崎家のお父さんのことが好きだもんねー。会社じゃ話せないよね?」
「なかなか難しい。忙しいからなあ」

 いつ渡そうかと話している間、早瀬が嬉しそうに笑っていた。本を返しに行った時に、ササッと渡そう。それを思いつくと、さらに笑顔になっていた。

 今日は沢山のお土産を買ってきた。帰り道は物理的な思い出を抱えて歩いた。どういうわけか、大荷物を引きずるようにして駐車場に戻る状況になった。そのおかげで手を繋げない。

 ギタリストには重いものを持たせたくない。そう言って早瀬が全部持とうとしたから断った。自分にも少しは持たせてもらいたい。早瀬が抱えているものを分けてもらいたいという意味も込めた。

「だーーめ。その紙袋だけにしなさい」
「だめだだめだーー。そっちのグッズがいい!2キロぐらいだよね?」
「500グラムの小麦粉しか持たせない」
「どうして買ったんだよー?荷物が増えるのに。同じやつがスーパーにあるじゃん」
「ほーら重いだろう?言うことを聞け!」
「トリャーーー!わわわ、できないじゃん!」

 今の早瀬にブルーキックをしてはいけない。その代りに、わいわいがやがや話しながら駐車場に戻って行った。重いのを忘れるぐらいに。

 ここから見える湾沿いの空には、カモメのグループが飛んでいた。俺達のように楽しそうに。
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