29 / 144
5-3(悠人視点)
しおりを挟む
13時半。
夏樹の家にやって来た。森のような庭の中では、遠藤さん家のリクが走り回っている。それを眺めながら、夏樹と一緒にこの奥に立っている洋館へ向かっている。黒崎家のお父さんを訪ねていくために。ここに着いてすぐにお土産を渡したかったが、お父さんの方が時間が取れなかった。今日は昼過ぎに帰ると連絡があった。
「もっと良いものを用意すればよかったなー。クリスマスだし」
「そんなことないよ。悠人から貰ったら嬉しいって。アン、おいでー」
夏樹がアンのことを抱き上げた。後ろを歩いているのは佳代子さんだ。リクのことを連れ戻している。それぞれの手には、クリスマスプレゼントがある。
「お義父さんが帰って来ているよ~」
「ふむふむ。あの窓が開いていたら帰っているのか」
家の正面にある大きな窓のことだ。リビングのものだ。ちょうど花壇とナツツバキが見えるだろう。好きな景色なのだろう。
「お父さんもナツツバキが好きなのー?」
「うん。昔からのお気に入りなんだ。おーい、来たよー」
夏樹が窓を覗きこんだ。ソファーへ腰かけたお父さんが手を振っていた。眉間には深い皺が刻まれている。初めて会ったのはこの庭の中で、夏樹と一緒にいるときだった。優しそうな人だなと思った。もしも外で会っていたなら、気難しいとか、厳しそうな人だと思っただろう。それだけ見た目が怖いイメージがある。
ここにいるお父さんは、目尻を下げて笑っている。両方の祖父を知らないから想像でしかないが、”おじいちゃん”という人は、こんな感じかな?と思った。
さっそく玄関からリビングへ入った。お手伝いの山崎さんが、お茶を用意してくれた。お土産のトートバッグを渡すと、笑いながら広げていた。シブメめを選んだと話すと、たしかにそうだねと笑ってくれた。
「レインボーブリッジ遊歩道か。まだ行ったことがないよ。いや、車で通ったことがあったかも知れない。イベントに招待された。何年前だったか。大勢が呼ばれていた」
「ふむふむ。いつかな?なつきー、その近くで、一昨年ぐらいにあったよね?」
「それは近くの会場だよ。IKU関連の施設のやつだったと思う」
「そっちかー。お父さんが覚えているなら、よっぽど大きなイベントですよね」
色んな場所に呼ばれているだろう。その中でも印象深いのか。想像していると、佳代子さんがクスクス笑い出した。気持ちが分かりますと言いながら。
「もしかして、開通記念じゃありませんか?30年ぐらい前ですよ」
「ああそうだった。新しい観光地になる。黒崎製菓でも記念の菓子を用意した」
「ヒャーーッ、何年か前ってレベルじゃないのに~。げほっ、ごほっ」
「30年前が何年か前に感じるのよーー」
夏樹が吹き出して、お茶をむせ込んだ。その背中を叩きながら、ティッシュケースを差し出してやった。おっとりしているが落ち着きもない。極端な子だと思う。
「なつきー、そういうものらしいよ?おばあちゃんが言っていたもん。つい最近が10年前だって」
「そうだけどさ~。黒崎さんも似たようなことを話していたし……」
「もうーーっ」
「怖いなあ~~」
大笑いが落ち着いた後、佳代子さんがリクを連れて帰って行った。夏樹はキッチンへ行った。
焼き菓子と洋酒が、二人からのプレゼントだ。レインボーブリッジのトートを、お父さんが嬉しそうに眺めている。使ってもらえそうかな?
「悠人君、気に入ったよ。仕事で使うことがある。書類を入れるのにちょうどいい」
「ありがとうございます。他にも店があるから、楽しいと思います。デートはしないんですか?誰かと……」
「恋人がいない。寂しいよ」
「へへへ……」
80歳なのに、もっと若く見える。若い頃はイケメンだったのだろう。なんせ黒崎さんの父親だ。
話しているうちに、次から次へと質問がされた。それに答えていると、夏樹が笑いながら戻ってきた。質問と答えの繰り返し会話だといって。お父さんの得意技だそうだ。聞き上手だから、どんどん話が引き出されるという。たしかにその通りだ。否定されないから、安心して話ができる。
「隆さんの得意技だもん。面白いだろ?」
「うん。そういえばね、裕理さんも同じことを言ってたよ。小さい頃に、知り合いのおじさんが遊びに来て、次々に質問されてたって。それに答えていると、面白くなるんだって。その人が来たら楽しいから、待っていたかもしれないって。4歳ぐらいだから、あんまり覚えていないみたいだけど……」
「へええ。早瀬さんが?それがあるから、話し好きになったのかな?」
「ふむふむ。そうかもしれない。余計なことも言うけどねー」
「三つ子の魂百までっていうやつ?隆さん、どう思う?」
「どうだろうね。今の彼は賑やかだ。会社でも」
「そうなんですねー。オフィスでは真面目かと思っていました」
「真面目な人だろ~?」
「家じゃそうでもないよ……」
物静かだと思えば、賑やかな人だった。外見からは予想外だった。お父さんの方を向くと、俺たちと同じように笑っていた。今夜一緒に食事をと誘ったが、予想どおりに遠慮された。読みたい本が溜まっているという口実だった。夏樹が笑っていた。やれやれと。
夏樹たちの家に戻った直後、毒々しい魔法使いから連絡がきた。家の前に着いたそうだ。お目付け役の蔵之介さんも一緒にいるというから安心した。
夏樹の家にやって来た。森のような庭の中では、遠藤さん家のリクが走り回っている。それを眺めながら、夏樹と一緒にこの奥に立っている洋館へ向かっている。黒崎家のお父さんを訪ねていくために。ここに着いてすぐにお土産を渡したかったが、お父さんの方が時間が取れなかった。今日は昼過ぎに帰ると連絡があった。
「もっと良いものを用意すればよかったなー。クリスマスだし」
「そんなことないよ。悠人から貰ったら嬉しいって。アン、おいでー」
夏樹がアンのことを抱き上げた。後ろを歩いているのは佳代子さんだ。リクのことを連れ戻している。それぞれの手には、クリスマスプレゼントがある。
「お義父さんが帰って来ているよ~」
「ふむふむ。あの窓が開いていたら帰っているのか」
家の正面にある大きな窓のことだ。リビングのものだ。ちょうど花壇とナツツバキが見えるだろう。好きな景色なのだろう。
「お父さんもナツツバキが好きなのー?」
「うん。昔からのお気に入りなんだ。おーい、来たよー」
夏樹が窓を覗きこんだ。ソファーへ腰かけたお父さんが手を振っていた。眉間には深い皺が刻まれている。初めて会ったのはこの庭の中で、夏樹と一緒にいるときだった。優しそうな人だなと思った。もしも外で会っていたなら、気難しいとか、厳しそうな人だと思っただろう。それだけ見た目が怖いイメージがある。
ここにいるお父さんは、目尻を下げて笑っている。両方の祖父を知らないから想像でしかないが、”おじいちゃん”という人は、こんな感じかな?と思った。
さっそく玄関からリビングへ入った。お手伝いの山崎さんが、お茶を用意してくれた。お土産のトートバッグを渡すと、笑いながら広げていた。シブメめを選んだと話すと、たしかにそうだねと笑ってくれた。
「レインボーブリッジ遊歩道か。まだ行ったことがないよ。いや、車で通ったことがあったかも知れない。イベントに招待された。何年前だったか。大勢が呼ばれていた」
「ふむふむ。いつかな?なつきー、その近くで、一昨年ぐらいにあったよね?」
「それは近くの会場だよ。IKU関連の施設のやつだったと思う」
「そっちかー。お父さんが覚えているなら、よっぽど大きなイベントですよね」
色んな場所に呼ばれているだろう。その中でも印象深いのか。想像していると、佳代子さんがクスクス笑い出した。気持ちが分かりますと言いながら。
「もしかして、開通記念じゃありませんか?30年ぐらい前ですよ」
「ああそうだった。新しい観光地になる。黒崎製菓でも記念の菓子を用意した」
「ヒャーーッ、何年か前ってレベルじゃないのに~。げほっ、ごほっ」
「30年前が何年か前に感じるのよーー」
夏樹が吹き出して、お茶をむせ込んだ。その背中を叩きながら、ティッシュケースを差し出してやった。おっとりしているが落ち着きもない。極端な子だと思う。
「なつきー、そういうものらしいよ?おばあちゃんが言っていたもん。つい最近が10年前だって」
「そうだけどさ~。黒崎さんも似たようなことを話していたし……」
「もうーーっ」
「怖いなあ~~」
大笑いが落ち着いた後、佳代子さんがリクを連れて帰って行った。夏樹はキッチンへ行った。
焼き菓子と洋酒が、二人からのプレゼントだ。レインボーブリッジのトートを、お父さんが嬉しそうに眺めている。使ってもらえそうかな?
「悠人君、気に入ったよ。仕事で使うことがある。書類を入れるのにちょうどいい」
「ありがとうございます。他にも店があるから、楽しいと思います。デートはしないんですか?誰かと……」
「恋人がいない。寂しいよ」
「へへへ……」
80歳なのに、もっと若く見える。若い頃はイケメンだったのだろう。なんせ黒崎さんの父親だ。
話しているうちに、次から次へと質問がされた。それに答えていると、夏樹が笑いながら戻ってきた。質問と答えの繰り返し会話だといって。お父さんの得意技だそうだ。聞き上手だから、どんどん話が引き出されるという。たしかにその通りだ。否定されないから、安心して話ができる。
「隆さんの得意技だもん。面白いだろ?」
「うん。そういえばね、裕理さんも同じことを言ってたよ。小さい頃に、知り合いのおじさんが遊びに来て、次々に質問されてたって。それに答えていると、面白くなるんだって。その人が来たら楽しいから、待っていたかもしれないって。4歳ぐらいだから、あんまり覚えていないみたいだけど……」
「へええ。早瀬さんが?それがあるから、話し好きになったのかな?」
「ふむふむ。そうかもしれない。余計なことも言うけどねー」
「三つ子の魂百までっていうやつ?隆さん、どう思う?」
「どうだろうね。今の彼は賑やかだ。会社でも」
「そうなんですねー。オフィスでは真面目かと思っていました」
「真面目な人だろ~?」
「家じゃそうでもないよ……」
物静かだと思えば、賑やかな人だった。外見からは予想外だった。お父さんの方を向くと、俺たちと同じように笑っていた。今夜一緒に食事をと誘ったが、予想どおりに遠慮された。読みたい本が溜まっているという口実だった。夏樹が笑っていた。やれやれと。
夏樹たちの家に戻った直後、毒々しい魔法使いから連絡がきた。家の前に着いたそうだ。お目付け役の蔵之介さんも一緒にいるというから安心した。
0
あなたにおすすめの小説
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる