聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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6-1 はなればなれの序奏

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 12月31日、水曜日。午前10時。

 カレンダーアプリを見ると、72候の欄には麋角解・さわしかのつのおつると書かれている。この間のクリスマスが楽しかったうえに、今日もいい思い出がつくれる一日を過ごせるだろう。

「鹿の角が落ちる頃。古い角を落として生え変わります。……トナカイのことかもね」
「クリスマスから角を出されている。引っ込めてもらえないか?」
「出していないよー。生え変わるまで待ってよ」
「許してくれ」

 今、遊園地のホテルにいる。今夜の宿泊先の部屋では、許す許さないの攻防が繰り広げられている。せっかくの年始年末の休みを利用した旅行なのに。

 この部屋には、”ウサギー” のイラストが描かれている。このトリンドランドのマスコットキャラだ。今日からホテルで2泊する。お互いに楽しみにしていた。

 どうしてこの状況なのか?それは、早瀬の ”性欲” が原因だ。クリスマスイヴを黒崎家で過ごし、その夜はゆっくり寝た。本番は明日だと囁かれたのは、プレゼントのことではなかった。

「朝まで抱かれたんだよー。やめてくれなかったし」
「大学の休みに入ったじゃないか。仕事の予定もない。チャンスを逃したくなかった」
「朝までだよ?何回も……」
「おかげで仕事がはかどった。会食で疲れていたからなあ。補給になった」
「あああ……」

 この人の生態系はどうなっているのか?会食で深夜帰宅が続き、休みに入った後は抱かれてもいいよと言っておいた。俺もそうしたかった。実際には度合いが違った。あの夜を思い出すと顔が熱い。

(俺も積極的になったけど。寝ていないのは、やり過ぎだよ。もう……)

 100%嫌ではなかったのが悔しい。早瀬はそれを分かっているからやめなかった。俺が本気で疲れている時には、ああまでして抱かれたことはない。添い寝をする程度だ。

「口を聞かないからね。1時間ぐらいは。あれ?居ないなーー」

 気がつくと早瀬の姿がなかった。ダブルベッドの上には、着ていたニットが置かれている。今日は歩き回るからと、動きやすい服装を準備していた。どこかで着替えているのだろう。ここですればいいのに。急に寂しくなった。

「裕理さーん。着替えをしているの?」
「バスルームに居るよ。こっちに来てごらん」
「やだーー」
「ブルーのコラボが見られるぞ?キャラクタールーム限定の先行公開だぞーー。ふむふむ」
「えーっと……」

 ちょっと興味がある。このトリンドランドでは、月夜のレンジャーとのコラボが来年から本格的にスタートする。その乗り物が先日公開されて、今日の目当てにしている。バスルームには何があるのかな?イラストか?グッズか?どれもあり得る。

「ゆうとくーん。珍しいぞ。ああー、すごいなあ」
「あああ……」

 誘惑に負けてしまった。吸い寄せられるようにして、バスルームへ向かった。
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