33 / 144
5-7
しおりを挟む
ガタガタ……。
そろそろお開きにしようという話になった。この玄関を出る前に夏樹から声を掛けられた。黒崎家のお父さんからのプレゼントだという。猫プリントのトートバッグに入っていたのは、最新の天体観測の写真集だった。
「今日が発売日だそうだよ。いい内容だから、喜ぶそうだなーって。貰ってあげて」
「うん。明日、お礼の電話を入れるよ。もう休んでいるよね?」
「お義父さんに伝えておくよ。早瀬さん、今日はありがとう」
「日ごろのお礼だよ。よいしょっと」
「うえっぷ、ごほ……っ」
こうなることは予想していたのに、食べ過ぎて動けなくなった。早瀬から抱えあげられている。さすがに門までは出られるのに。ここからタクシーのランプが見えている。
荷物を運び終えた後、ドアが閉められた。バイバイと手を振り、トートバッグを開いた。真新しい本の匂いがしている。
「悠人君、帰ってからにしなさい。車酔いをするぞ」
「少しだけ。表紙だけ。あれ?何か入ってる。ポストカードだ。ふむふむ。あ、お父さんからだ」
「どんなことを書いてあるんだ?」
「今日はありがとう。レインボーブリッジのトートに明日の会議資料を入れました。黒崎隆。だってさ。へへへ」
「明日はその光景が見られるのか。その会議に出るから」
「そうなんだー。上手な字だなー。どこかで見たことがあるんだよ……」
最近見かけたものだ。やや癖のある筆跡だから印象に残っている。その記憶を辿っていくと、早瀬から見せてもらった、早瀬の赤ちゃんの時の写真に行き当たった。裏面には全て年齢が書かれていた。
裕理・2歳10カ月・3歳の誕生日とあった。その時の筆跡とそっくりだと分かった。
(間違いないと思う。まさか本当のお父さんなの?)
「悠人君、どうした?」
「あの……。この字だけど、写真の裏に書いてあったのと似ているんだよ。あああ……」
「あああ?」
「あああ……」
どうしよう?実の父親ではないかと口にしているのも同じだ。そんなわけないか。笑うだろうと振り向くと、”正解” だと告げられた。
「ええええ……、そんな……」
「そういう意味じゃない。まだ心の整理がついていなくて、話していなかった。本当のお母さんは、ある人にお世話になった。俺が肺炎に罹ったことがきっかけだ。実はね……」
マンションへ到着する間、その話を聞かせてくれた。早瀬のことを産んだ時のこと。お世話になったおじさんのこと。その人が黒崎家のお父さんだということも。ただし名乗られてはいないことも、聞かせてもらった。懐かしい思い出を話している気分だと言い、早瀬は穏やかな顔をしていた。
「このことは俺たちの胸にしまっておきたい。いいか?」
「うん。今もそばに居る。そのことだけ覚えるようにするよ」
「偉いぞー」
「褒めることじゃないよ」
早瀬の赤ちゃんの頃は寂しい環境だと想像していた。それだけではなかったことが分かって嬉しくなった。今まで話そうとしなかったから、つらい記憶だと思っていた。今回のことが分かったから、こうして笑えるのだろう。
あの楽譜を見せてよと頼むと、いつでもどうぞと返って来た。だからもう大丈夫だと分かった。クリスマスの贈り物として、今日の早瀬の笑顔を受け取った。
そろそろお開きにしようという話になった。この玄関を出る前に夏樹から声を掛けられた。黒崎家のお父さんからのプレゼントだという。猫プリントのトートバッグに入っていたのは、最新の天体観測の写真集だった。
「今日が発売日だそうだよ。いい内容だから、喜ぶそうだなーって。貰ってあげて」
「うん。明日、お礼の電話を入れるよ。もう休んでいるよね?」
「お義父さんに伝えておくよ。早瀬さん、今日はありがとう」
「日ごろのお礼だよ。よいしょっと」
「うえっぷ、ごほ……っ」
こうなることは予想していたのに、食べ過ぎて動けなくなった。早瀬から抱えあげられている。さすがに門までは出られるのに。ここからタクシーのランプが見えている。
荷物を運び終えた後、ドアが閉められた。バイバイと手を振り、トートバッグを開いた。真新しい本の匂いがしている。
「悠人君、帰ってからにしなさい。車酔いをするぞ」
「少しだけ。表紙だけ。あれ?何か入ってる。ポストカードだ。ふむふむ。あ、お父さんからだ」
「どんなことを書いてあるんだ?」
「今日はありがとう。レインボーブリッジのトートに明日の会議資料を入れました。黒崎隆。だってさ。へへへ」
「明日はその光景が見られるのか。その会議に出るから」
「そうなんだー。上手な字だなー。どこかで見たことがあるんだよ……」
最近見かけたものだ。やや癖のある筆跡だから印象に残っている。その記憶を辿っていくと、早瀬から見せてもらった、早瀬の赤ちゃんの時の写真に行き当たった。裏面には全て年齢が書かれていた。
裕理・2歳10カ月・3歳の誕生日とあった。その時の筆跡とそっくりだと分かった。
(間違いないと思う。まさか本当のお父さんなの?)
「悠人君、どうした?」
「あの……。この字だけど、写真の裏に書いてあったのと似ているんだよ。あああ……」
「あああ?」
「あああ……」
どうしよう?実の父親ではないかと口にしているのも同じだ。そんなわけないか。笑うだろうと振り向くと、”正解” だと告げられた。
「ええええ……、そんな……」
「そういう意味じゃない。まだ心の整理がついていなくて、話していなかった。本当のお母さんは、ある人にお世話になった。俺が肺炎に罹ったことがきっかけだ。実はね……」
マンションへ到着する間、その話を聞かせてくれた。早瀬のことを産んだ時のこと。お世話になったおじさんのこと。その人が黒崎家のお父さんだということも。ただし名乗られてはいないことも、聞かせてもらった。懐かしい思い出を話している気分だと言い、早瀬は穏やかな顔をしていた。
「このことは俺たちの胸にしまっておきたい。いいか?」
「うん。今もそばに居る。そのことだけ覚えるようにするよ」
「偉いぞー」
「褒めることじゃないよ」
早瀬の赤ちゃんの頃は寂しい環境だと想像していた。それだけではなかったことが分かって嬉しくなった。今まで話そうとしなかったから、つらい記憶だと思っていた。今回のことが分かったから、こうして笑えるのだろう。
あの楽譜を見せてよと頼むと、いつでもどうぞと返って来た。だからもう大丈夫だと分かった。クリスマスの贈り物として、今日の早瀬の笑顔を受け取った。
0
あなたにおすすめの小説
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる