聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 カタン、カタン……。

 舞台裏は閑散としていて、機械音が響いている。肩を抱かれて歩きながら、遠藤社長からのラインを読んだ。森井物産の件が大きな記事になりそうで、俺のこともクローズアップされるだろうとの話だ。今日はこれからのことを乗り切るために楽しい思い出を作ろうとしたけれど、思ったよりも早く事が大きく動き出し、これから俺のことを迎えに、加藤さんが来るということだ。

「……森井物産の役員が逮捕された。麻薬取引の疑いもある。予測より大きな事件になった。加藤が、そちらへ向かっている。一時間で到着予定だ……」

 ドームの外に出た直後に、早瀬が加藤さんと通話を始めた。その様子は落ち着いていて、さっきの流れから思うと、最初から知っていたかのようだ。俺の肩を抱いた後、ポンポンと叩いたり、頭を撫でてきた。心配することはないぞと言われているかのようだ。知らないところで守られている。

 いつもそうだ。俺のことばかり考えている。肝心の自分自身のことは、置いてけぼりではないのか?

「……正面エントランスで待ちます。そばにカフェがあるので。悠人には話します。はい。父に連絡を入れます……。悠人君。行こう」
「裕理さん、知ってたの?」
「そうだよ。しばらく大変だから、楽しませてあげたかった。事が動くのは正月明けかと思っていたのにな。せめて、ゴーゴーマシーンに乗せてやりたかった」
「いつでも乗れるから。そんな顔をしないでよ。裕理さんらしくないよ?」

 歩いている途中だが、すがりついてやった。コートを着ているのに寒く感じた。これから一時間、カフェで待つことになった。迎えが着いた後は、IKUの送迎車で遠藤さんの家に行く。一週間は泊まらせてもらう。その計画になったと聞かされた。

「君のことを守るために準備が整った。あとは迎えを待つだけだ。心配するな。リクとも遊べるぞ」
「そうだけど……っ」

 どうして話してもらえなかったのか。現実として、泣いているからだ。だから言えないことを思い知った。だったら、往生際の悪さを披露してやろう。

「裕理さんの車で行くからね!」
「だめだ。君は所属アーティストだ。事故が起きたらどうする?それ以外にも考えられることがあるぞ?遠藤社長の家の前で記者達から取り囲まれるかもしれない。この後は、IKUがキミのことを守る」
「裕理さんは?いなくなるの?」
「マンションで留守番をしている。仕事帰りに遊びに行く。さすがに泊まらないけど」

 それぐらいのことだと言って笑った。たった一週間のことでも、こういう顔をしたままで離れるのは嫌だ。誰が早瀬のフォローをするのか。一番近くにいるのは俺だ。

「そのレベルなら……、どうして悲しそうにしてるの?力がないって?どういうことだよ?俺も同じだよ。助けてもらうのは悪いことじゃないよ」
「まだ俺には力がない。いくら部長職でも、親父たちの人脈にはかなわない。もっと力をつけないとな」
「当たり前のことだよ!まだ32歳だよ?お父さんは67歳だもん……」 

 こうして遊園地へ連れて来てもらった。心の方を守ってもらった。そう口にすると、笑い声が聞こえてきた。見上げると、早瀬がいつも通りに戻っていた。君にもかなわない。そう呟きながら、頬をぐりぐりと撫でてきた。
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