聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
38 / 144

6-5

しおりを挟む
 エントランス近くのカフェに入った。IKUからの迎えの到着を待っているところだ。店内が空いていたから良かった。おかげでゆっくり過ごせている。

 この騒動が落ち着いた後のことを話した。楽しいことばかりだ。ビュッフェレストランへ行くことや、ショーを観に行くことなどだ。

 加藤さんとは電話で話した。遠藤社長宅で泊まるのは、あらゆる事態を予測しての、念のための対応策だ。余計な誤解を生まなくて済むし、報道陣のシャットアウトがある程度可能だ。佐久弥も経験があると聞いて安心した。

 黒崎家の向かいとはいえ、夏樹達の家には自由に遊びに行けない。夏樹も来れない。その代わりに黒崎家のお父さんが訪ねて来てくれるそうだ。実家の父が報道陣の対応をスタートしている。まだ連絡がつかない状況だ。

「今回は薬物が絡んでいる。全く接点がなくても、芸能人が身内に居れば、疑いの目が向けられる。新人の頃から、その手のグループから目を付けられている。それが分かっているからだ。佐久弥もそうだった」
「TAKAが捕まった時、ディアドロップのメンバーも調べられたって聞いたよ」
「冤罪でなくてよかった。起訴されれば、99%以上が有罪だ。法学でも習っただろう?」
「うん。怖かったよ……」
「腕の立つ人がついたから、大丈夫だぞ」

 俺には弁護士がついた。遠藤さんの家で契約を結ぶ段取りになっている。中山和司弁護士という。夏樹のお父さんのことだ。森井物産の関連で弁護の依頼があったが、それを断り、俺についてくれた。気心の知れた人が、20歳の俺にはいいはずだと言ってくれた。

「それだけ危ないってことだよね……」
「少しも影響させないためだ。中山さんは、90%以上やっていない人しか担当しない。森井物産は断る段階だったそうだ」
「お母さんは頼みたかったよね。親の会社だし」
「お母さんは安心していたぞ。息子のことだ」
「向こうに着いたら電話……、出来ないのか」
「中山さんから連絡してもらえる」

 腕時計を見た。もう40分も経っていた。あともう少しで別々の車で出発する。早瀬も遠藤さんの家に来てくれる。そして、騒動が落ち着いた後、マンションに帰ることになる。

 電話してね。ラインするよ。毎日、会いに来てよ。そう口にする度に、早瀬が頷いてくれた。テーブルの上で手を握り、迎えが来るのを待った。

 プルルルーー……。

 電話の着信が鳴った。加藤さんからだ。もう迎えが来たのかと胸が痛くなっていると、”夏樹君に連絡してあげて”という内容だった。すぐに電話をかけると、滅多にないような硬い声が聞こえてきた。今、黒崎さんと温泉宿にいるはずだ。迷惑を掛けてしまった。

(冷静にならないと。夏樹は報道に嫌な思い出があるから……)

「なつきー。ごめんね。お母さんから、会社の横領事件は聞いていたんだ。麻薬まであるって知らなくて。IKU側には相談していたんだ。言わなくてごめん。余計な心配をさせたくなかったんだ……」
「謝るなよ。悠人のことは分かっているからさ。ご近所さんになるね。収録に行く時に便利になったじゃん。いっぺんに行けるから……」
「……へへへ。リクとも遊べるし!」
「俺達、今から帰ろうかって思っているんだ。黒崎さんも同じ意見だよ。今から遠藤さんの家に行くんだろ?」
「……いいってばー。明日になったら帰るだろ?そうだ。お土産のリクエストがあるんだよー。ジャコ天が売っているんだ。真空パックの。美味しいって聞いたんだーー」
「うんうん。買っていくよ。この旅館で注文できるんだよ」
「ふむふむ……。観光地ですねー」
「そうだー。そっちで何に乗ろうとしたんだよー?」
「月夜のレンジャー、ゴーゴーマシンZだよ。言ってたやつ。迎えが来るから、また今度になったよ」
「一番の目的じゃん。並んでいただろ?」
「そうだよーー。もうーー」
「うちで早瀬さんに泊まってもらおうか?遠藤さん家より気を使わないから」
「いいよー。毎日会いに来てくれるから。長くても一週間だよ。そこまで報道陣は暇じゃないそうだよー」
「うん……」
「……ごめんね。思い出した?」
「大丈夫だよ。それはそれだからさ」

 電話が終わった後、早瀬から褒められた。普段通りに話せていたそうだ。俺の前では泣いてほしいと頼まれたが、泣くわけにはいかない。

 その後すぐに迎えが来て、戸惑うことなく素直に送迎車に乗り込んだ。事故をしないようにねと早瀬に伝えて、胸もとに輝く、親愛なる雫のペンダントを握りしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

処理中です...