68 / 144
10-5
しおりを挟む
翌日、午前8時。
IKUの送迎車にて、遠藤さん宅へ向かっている。早瀬も一緒だ。本当はホテルに滞在するのだが、遠藤さんの家で泊まるということにしてある。森井物産と俺の記事が出そうになり、記者達が来ているからだ。運ぶ荷物も用意した。夏樹にも電話でそう伝える予定だ。情報を流している人をあぶり出すためだ。後で会ったときに、事情を説明する。
タブレット端末を開き、父から送信された対応マニュアルを確認した。遠藤さんの家の前に記者が待機しているはずだと連絡があったからだ。黒崎家の方には居ないようだ。黒崎さんが一喝したからだ。
「あらすじを立てて質問してくる。短く答えること。感情的に誘導してくるケース。煽ってくるのか。ふむふむ……」
「答えなくていい。俺がやる」
「黒崎製菓の顔があるだろ。そこを突くはずだって、お父さんが話していただろ?」
「夏樹君が心配する。君は出て行くな」
「だめだだめだだめだー!」
今できることをやりたい。さっそく夏樹に電話をかけた。嘘をつくのが心苦しい。俺のことを心配してくれているのだと、早瀬が黒崎さんと連絡を取ったときに聞いた。
「……もしもーし。なつきー。おはようー。眠たそうだね。寝ていないだろー?リクと遊んで元気を出そうよ」
「理久君と?もしかすると忙しいかも」
「そっちのリクじゃないよ。大型犬の方だよ」
「そっか~。勘違いしたよ~。うちの庭に呼ぼうかな。こっちに来れるの?」
「うん。遠藤さん家でお世話になるんだよ。今、着いたところ。玄関先にいるよ。ホテルも候補だったけど。遠藤さんの家がベストだからって。荷物を運ぶから、また後でそっちに行くよ……」
「手伝いに行くよ!」
「だめだだめだだめだー。記者が居るもん。げええええっ。俺なんかに、5人も話しかけてどうするんだよ~。裕理さん、笑うなよー」
車が遠藤さんの家の門の前で停車した。すると、5人の記者が俺のそばに来てしまった。俺の落ち着いた反応に、夏樹がホッとしたと言っている。
「ああー、よかった……」
「ふむふむ。心配をかけたね。心強い人達がいるんだよ。大船に乗せてもらおうよ。亀の甲より年の劫。先人の知恵を……。えーっと、なんだっけ?よきにはからえ。佐久弥が言っていたんだよ……」
「それじゃ分からないねえ」
「ふむふむ。そんな男に預けているんだよ。わが身と将来を。IKUエンタテイメントの方が安心するだろ?」
「うん……」
「なつきー、いいことで泣こうね!昼過ぎにはそっちに行けるかも」
「今から行く。遠藤さんは家にいるだろ?おはようって言いに行く!」
今から遠藤さんの家へ行くと言い出した。おはようの挨拶をするためだという。これは口実に決まっている。夏樹は譲らない。黒崎さんが止めている声が聞こえているのに。
さっさと遠藤さん家に入るべきだ。後部座席のドアを開くと、わらわらと記者達が寄ってきた。
「だめだだめだだめだーっ。あああ……」
「ゆうとー、どうしたんだよ?」
「記者のおでむかえ。……裕理さんは喋っちゃだめだ!」
「道を確保するだけだよ。はい、おいでー」
「はーい」
先に降りた早瀬の周りに記者が待ち受けた。カメラとICレコーダーを持っている。強引に顔を映そうとしないから、大手の会社のはずだ。
早瀬に抱きかかえられるようにして、後部座席から降りた。丁寧に記者に声をかけつつ、門に行く道を開けてもらった。しかし、乱暴な記者がいた。するとその時だ。向こうの方から怒号のような声が聞こえて来た。
「ご用件をお伺いします!」
「夏樹!?」
全員が驚いて振り向くと、夏樹が道路の真ん中に仁王立ちしていた。俺たちが向かう前に、記者達が走って声を掛けに行った。助けに向かうまで間に合わない。大声で制止しても、夏樹は首を振るだけだ。
(……うひぇーー?)
しかし、緊迫した空気が一瞬で和らいだ。夏樹が笑顔で対応を始めたからだ。父から貰ったマニュアル通りの内容だ。一人ひとりの記者へ向いて、まずは挨拶を済ませるという光景が広がった。まるで社員同士の挨拶のようだ。
「visible rayのボーカリスト、Natsukiです。用件をお伺いします」
「実は……」
「音楽のことのみ、お答えします。こちらでよろしいのでしょうか?」
「あの……」
「ここは車の通りがありますので。あちらの日向はいかがですか?」
「恐れ入ります……」
夏樹が丁寧に淡々と記者に対応した。何を質問されても、音楽のことのみを答えるスタイルを崩さないから、短時間で記者達が退散していった。
あれほど対策を練って来たのに。丸っきり役立たずだった。ため息をついて項垂れた。しかし、すぐに気持ちを切り替えて、頼もしい親友の姿を脳裏に焼き付けた。
今回も役立たずだった。早瀬が俺と同じことを呟いた。そんなことはないと、頭を撫でてあげた。そのお返しにと、頬をグリグリと撫でられた。ネガティブ同士だねと、早瀬と二人で微笑み合った。
IKUの送迎車にて、遠藤さん宅へ向かっている。早瀬も一緒だ。本当はホテルに滞在するのだが、遠藤さんの家で泊まるということにしてある。森井物産と俺の記事が出そうになり、記者達が来ているからだ。運ぶ荷物も用意した。夏樹にも電話でそう伝える予定だ。情報を流している人をあぶり出すためだ。後で会ったときに、事情を説明する。
タブレット端末を開き、父から送信された対応マニュアルを確認した。遠藤さんの家の前に記者が待機しているはずだと連絡があったからだ。黒崎家の方には居ないようだ。黒崎さんが一喝したからだ。
「あらすじを立てて質問してくる。短く答えること。感情的に誘導してくるケース。煽ってくるのか。ふむふむ……」
「答えなくていい。俺がやる」
「黒崎製菓の顔があるだろ。そこを突くはずだって、お父さんが話していただろ?」
「夏樹君が心配する。君は出て行くな」
「だめだだめだだめだー!」
今できることをやりたい。さっそく夏樹に電話をかけた。嘘をつくのが心苦しい。俺のことを心配してくれているのだと、早瀬が黒崎さんと連絡を取ったときに聞いた。
「……もしもーし。なつきー。おはようー。眠たそうだね。寝ていないだろー?リクと遊んで元気を出そうよ」
「理久君と?もしかすると忙しいかも」
「そっちのリクじゃないよ。大型犬の方だよ」
「そっか~。勘違いしたよ~。うちの庭に呼ぼうかな。こっちに来れるの?」
「うん。遠藤さん家でお世話になるんだよ。今、着いたところ。玄関先にいるよ。ホテルも候補だったけど。遠藤さんの家がベストだからって。荷物を運ぶから、また後でそっちに行くよ……」
「手伝いに行くよ!」
「だめだだめだだめだー。記者が居るもん。げええええっ。俺なんかに、5人も話しかけてどうするんだよ~。裕理さん、笑うなよー」
車が遠藤さんの家の門の前で停車した。すると、5人の記者が俺のそばに来てしまった。俺の落ち着いた反応に、夏樹がホッとしたと言っている。
「ああー、よかった……」
「ふむふむ。心配をかけたね。心強い人達がいるんだよ。大船に乗せてもらおうよ。亀の甲より年の劫。先人の知恵を……。えーっと、なんだっけ?よきにはからえ。佐久弥が言っていたんだよ……」
「それじゃ分からないねえ」
「ふむふむ。そんな男に預けているんだよ。わが身と将来を。IKUエンタテイメントの方が安心するだろ?」
「うん……」
「なつきー、いいことで泣こうね!昼過ぎにはそっちに行けるかも」
「今から行く。遠藤さんは家にいるだろ?おはようって言いに行く!」
今から遠藤さんの家へ行くと言い出した。おはようの挨拶をするためだという。これは口実に決まっている。夏樹は譲らない。黒崎さんが止めている声が聞こえているのに。
さっさと遠藤さん家に入るべきだ。後部座席のドアを開くと、わらわらと記者達が寄ってきた。
「だめだだめだだめだーっ。あああ……」
「ゆうとー、どうしたんだよ?」
「記者のおでむかえ。……裕理さんは喋っちゃだめだ!」
「道を確保するだけだよ。はい、おいでー」
「はーい」
先に降りた早瀬の周りに記者が待ち受けた。カメラとICレコーダーを持っている。強引に顔を映そうとしないから、大手の会社のはずだ。
早瀬に抱きかかえられるようにして、後部座席から降りた。丁寧に記者に声をかけつつ、門に行く道を開けてもらった。しかし、乱暴な記者がいた。するとその時だ。向こうの方から怒号のような声が聞こえて来た。
「ご用件をお伺いします!」
「夏樹!?」
全員が驚いて振り向くと、夏樹が道路の真ん中に仁王立ちしていた。俺たちが向かう前に、記者達が走って声を掛けに行った。助けに向かうまで間に合わない。大声で制止しても、夏樹は首を振るだけだ。
(……うひぇーー?)
しかし、緊迫した空気が一瞬で和らいだ。夏樹が笑顔で対応を始めたからだ。父から貰ったマニュアル通りの内容だ。一人ひとりの記者へ向いて、まずは挨拶を済ませるという光景が広がった。まるで社員同士の挨拶のようだ。
「visible rayのボーカリスト、Natsukiです。用件をお伺いします」
「実は……」
「音楽のことのみ、お答えします。こちらでよろしいのでしょうか?」
「あの……」
「ここは車の通りがありますので。あちらの日向はいかがですか?」
「恐れ入ります……」
夏樹が丁寧に淡々と記者に対応した。何を質問されても、音楽のことのみを答えるスタイルを崩さないから、短時間で記者達が退散していった。
あれほど対策を練って来たのに。丸っきり役立たずだった。ため息をついて項垂れた。しかし、すぐに気持ちを切り替えて、頼もしい親友の姿を脳裏に焼き付けた。
今回も役立たずだった。早瀬が俺と同じことを呟いた。そんなことはないと、頭を撫でてあげた。そのお返しにと、頬をグリグリと撫でられた。ネガティブ同士だねと、早瀬と二人で微笑み合った。
0
あなたにおすすめの小説
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる