聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
90 / 144

14-5

しおりを挟む
 まさか人格が分かれているのか?自分の想いを収集する癖ではなく。同じことを話しているのなら、同じ人格なのか?

 ここまで違和感を持ちながらも、不思議と冷静に接することができている。危害を加えられないと分かっているからだ。島川は暴力を振るわないという確信がある。

「裕理君。僕はね。お父さんが大事にしているものを、奪い取るのが目的だ」

 黒崎社長のことなのか。今は同じ家に住んでいるが、憎しみがあるということか。愛情と憎しみ。両方を保存でしているのか。

「黒崎製菓グループのことか?いいじゃないか」
「それは要らない。お父さんが大事にしているのは、“人”だ。傷つける行為をした人間が、今じゃ大勢の人に囲まれている。……花が咲き乱れた暖かな家で暮らしている。圭一と夏樹君が話しかけている。晴海という兄貴も来るようになった。俺の理解者だ。お父さんが大事にしている人だ。それを奪い取りたい」
「虚しいだけだ。殺すのか?」
「それはしない。彼らから遠ざけるだけだ。お父さんは君のことも大事にしている。しかし、俺の大事な人だから、手出しはしない。選んでくれ。どっちを取る?黒崎家と千尋製菓だ」
「黒崎家の方だ。黒崎製菓グループを取る。俺のことを育ててもらった企業だ」
「そうか。僕は君のことを手に入れる。地位を奪われることは怖くないのか?」
「自分で取り返す。新しいものを築き上げることも出来る。その力を育ててもらった。これで話は以上だ」
「圭一に教えるのか?」
「今更だ。気にするなら最初から話すな!ひさ……、や?」

 車の中から出ると、島川も出た。そして、振り向いた矢先に人影が動き、俺たちの間に入り込んだ。まさか悠人か?背中に冷たいものが流れた後、力強いハスキーな声が聞こえた。

「何をやっているんだ!裕理に何をやった!?」
「久弥、来るな!」 

 赤みがかった髪の毛が視界を横切った。一瞬だけ昔の面影が重なり、名前を呼んだ。俺が庇う。しかし、その久弥が俺のことを背後に庇った。

「裕理、大丈夫か?」
「ああ……」

 昔のように、俺が守る出番がなくなったということか。久弥が大きく変化したのは、積み上げできた経験によるものだろう。かなわない存在になった。

「ボケっとすんな!悠人を迎えに行け!」
「裕理さーん!」
「悠人……」

 遅かったか。必死の形相で走ってきた悠人を抱き留めた。背後には藤沢の姿があった。

「こら。守れよ!バカヤロウ!」

 久弥から叱り飛ばされた後、彼の肩を引いて止めた。島川へ掴みかかっていったからだ。このままでは暴力沙汰になる。そうすれば、島川は黙っていないだろう。

 久弥の両脇を抱え込んだ。今は事情を話せない。過去も現在も貶める行為だ。藤沢が悠人のことを守っている。安心できた。

「久弥。誤解だ」
「嘘つけ!お前、何をやった!」
「違う、体制を変える手伝いをしていた」

 冷静を装って話したが、誤魔化していることは分かり切っている。こうすれば丸く収まる。ごめんなさいと謝れば、それで終わる程度だ。

「島川さん!」
「あ……、あれ?」

 久弥の腕の力が静まったところで、島川に声をかけた。その表情に違和感を持った。我に返ったのか?何かに狼狽えている様子だ。

(覚えていないのか?この人が本物か?どうなっているんだ……)

「島川さん、そうですよね?乱暴なことはしてない」
「あ、ああ……。こちらから声をかけた。病室に見舞いに来てくれた礼を言いたくて……」
「はあ……。そうでしたか。失礼しました」

 久弥がしぶしぶ謝った。島川の方は戸惑っているばかりだ。何もなかったのだと重ねて説明し、この場に居る者が納得する形を取った。悠人のことを背中に庇い、島川と目を合わせないようにした。悠人に同情を誘いそうだ。

「……裕理さん」
「……悠人?」

 悠人から呼ばれて振り返ると、下唇から血に滲んでいた。藤沢から事情を聞かされた。

「俺が強く止めたからです。行きたいのを我慢して……」
「いいんだよー。俺がパニックになったから」
「助かった。ありがとう」
「いえ。俺の方こそ驚いて力が入りました」

 藤沢が首を振った。全く動揺した様子がない。島川に向けて両手をパンパンと叩く動作に違和感を持った。しかも、その音に島川が我に返った。そして、彼に声をかけた。

「島川さん。俺たちはこの後予定があります」
「すまない……」

 島川の様子は落ち着いている。何事もなかったかのようだ。今度食事に行かないか?と声をかけてきた。悠人がいなければ、ふざけるなと言い返すところだ。こちらから誘うと返事をした。久弥は黙ったままだ。

 悠人が俺の背中から顔を出す度に、島川が見ている。やめてもらいたい。同情を誘っているのか?どうしても、悠人が藤沢の後ろから顔を出している。ちっとも言うことを聞かない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

僕の目があなたを遠ざけてしまった

紫野楓
BL
 受験に失敗して「一番バカの一高校」に入学した佐藤二葉。  人と目が合わせられず、元来病弱で体調は気持ちに振り回されがち。自分に後ろめたさを感じていて、人付き合いを避けるために前髪で目を覆って過ごしていた。医者になるのが夢で、熱心に勉強しているせいで周囲から「ガリ勉メデューサ」とからかわれ、いじめられている。  しかし、別クラスの同級生の北見耀士に「勉強を教えてほしい」と懇願される。彼は高校球児で、期末考査の成績次第で部活動停止になるという。  二葉は耀士の甲子園に行きたいという熱い夢を知って……? ______ BOOTHにて同人誌を頒布しています。(下記) https://shinokaede.booth.pm/items/7444815 その後の短編を収録しています。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...