聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 バタン!

 これから島川と藤沢が帰るところだ。藤沢が運転席に乗り込んだ。そして、久弥に対して会釈した。その車が発進しかけた時、助手席に乗った島川が、悠人に声を掛けた。しつこい男だ。

「ごめんね。驚かせた。あとで電話する」
「島川さん。俺から説明しておきます」
「悠人君。モデルの仕事を断らないでくれ。改めて早瀬君に謝る。佐伯君にも……」
「あの……、島川さん……」
「二人は急いでいるんだぞ」

 悠人の肩を抱き、返事をさせないようにした。握りしめている右手が、彼の感情を表している。誤魔化す気はない。なるべく驚かせないように説明する必要がある。見てしまったものを否定できない。さらに島川から声がかけられたから、いい加減にしろという言葉を飲み込んだ。

「悠人君にも謝りたい!早瀬君と喧嘩をした。だから佐伯君が止めに入った。僕のことを嫌わないでくれ……」

 背中に冷たい汗が流れた。今の島川は弱り切っている。さらに君と一緒に仕事がしたいとダメ押しされて、悠人の右手が緩んだ。

 早く出てくれ。藤沢へ声をかける前に、車が駐車場から出た。滅多に声を荒げない久弥が、今もまだ苛立っている。ただ言い争っているだけで、こういう反応はしない。あの男を、悠人には関わらせない。

「説明する。家に帰ろう」
「ここで聞きたい。佐久弥も一緒に……」
「俺は仕事の移動中だ。裕理に任せた」

 久弥がすでに待たせてあったタクシーに乗り込んだ。ありがとう。そう声をかけると、笑っていた。悠人はホッとした様子だ。さあ、なんて説明しようかと、話を思い描いた。
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