聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 夏樹にも嘘をついている。もっと深い事情があるのに。島川さんが話していた”暖かい空気を作り出している人”は、夏樹のことかもしれない。黒崎さんに伝わるから大丈夫だ。自己満足だろうが、今さら引き返せない。これが一番いい方法だと判断した。

「……うちに泊まりに来るの、やめとく?」
「……行くよ。急にやめるのは変だから」
「……なるべく会わないようにさせるよ。嫌なものは嫌だからね。一貴さんに、はっきりと聞きたいんだ」
「……黒崎さんが怒らないかな?上手くいっているのにって」
「……悠人のことは怒らないよ。心配するに決まっているけど。……直球で聞くと思う。ここは年長者の意見を聞こうよ。……恋愛経験豊富だもん。一番いい方向になるはずだよ。信用してくれないかな?」
「……俺から話すよ。家に居る?」
「……先に俺から話すよ。明日にでも連絡を返すからね。元気だしてよー。恋愛に疎いから、分からないことが多いんだ。そっちも同じだろ?」
「……うん。情けないよ」
「……はいはい。安心してよ。おやすみ」
「……ありがとう」

 電話を終えた後、背後に気配を感じだ。腕が伸びてきて、スマホを奪い取られた。もちろん、早瀬しかいない。何か文句と言うだとか、取り返す間を与えられなかった。どうして勝手なことをしたのかと、ひと言のみを投げかけられた。

「悠人君。どうして黙っていたんだ?」
「これから話そうとしたんだ」
「そうか……」

 これについては謝るしかない。傷つけたのは間違いない。ただし悪いことはしていない。堂々と理由を話した。誰が間違っているだとか、正しいかどうかは重要ではない。島川さんから悩みを打ち明けられた。それは親友の家でのことだ。少しばかりの協力ができる。

「悪い人だと知っているだろう?」
「困っているのを知ったからだよ。分けて考えたんだ。お世話になった事実があるし、全てを否定出来ない。恋愛感情を持たれているのも話すつもりだった」
「だったら先に話せ。切羽詰まった状況じゃない。君の希望を聞きつつ、一番いい方法を取ったのに。……こっちにおいで」

 優しい声だし表情をしているが、動くことが出来ない。罪悪感がありながらも良いことをした。どちらを取っても、二つが折り合わない。今ここで早瀬に抱きつけば、甘やかされて許されるだろうか?これは腹をくくってやったことだ。ここから動かない。

「悩んでいる人からのSOSを受け取ったんだ。年齢差は関係ないよ。良いか悪いのかで判断した。俺なりの手伝いをした。それでいい!」
「罠かもしれない。考えなかったのか?」
「可能性を考えたよ。それでもいい。本人が騙したつもりはないって言えば、それしかないから。俺の受け取り方次第だよ」
「どうして大人しく守られてくれないんだ?俺だと物足りないのか?」

 どうしよう?冷え凍りそうな視線を向けて来たのに、早瀬が優しい顔に変わった。悲しんでいる証拠だ。そして、スマホを見せられた。島川さんからのラインが開いてあった。”暖かい空気を作り出している人が嫌いだ”と書いている。俺に話したことと同じだった。
 
「裕理さん。これは誰のことだと思う?」
「”全員だ”。本人も含めてのことだ」
「どうして?引っ越せばいいのに……」
「理由は聞いている。島川は誰のことも嫌っている。俺はそう思う。自分自身のこともだ。ただし、君のことは大好きなはずだ。お母さんから守ろうとしている。自分に置き換えて心配しているだろう。……だから警戒してくれ。愛情が一点集中すると、行き過ぎることがある。プラセルの仕事をするのは、君の希望だ。それを叶えるために俺が動いている。ないがしろにしていない」
「ごめんなさい。先に話すと、家族仲がこじれると思ったんだ。裕理さんが動くだろ?嫌っている人のことを庇える?冷静になれたの?」

 夏樹に話せば、黒崎さんへ伝わる。別の視点で見ることが出来る。早瀬のことも守ったつもりだ。丁寧に説明すると、抱きしめられた。

「君にはかなわない。島川へ電話を掛ける。約束を破った抗議だ。必要だからする」
「強く言わないでね」
「それは譲れない。書斎に行く。見たいか?」
「見るよ。聞いておく」

 怖い早瀬が見られるだろう。新しい一面だ。それだけの事態に動いたということだ。まずは書斎に移動しようと静かに促されて、この部屋から出た。
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