夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 21時半。

 さっきまで寝ていたようだ。目を開くと、ベッドの中にいた。黒崎の胸にもたれ掛かり、うとうとして、もう一度目を閉じた。すると、右手を取られて、指先にキスを落とされた。

「中指にささくれが出来ている。傷むだろう?」
「平気だよ。これぐらいは。毎年のことだから」
「畑の世話をしたら、クリームを塗れ」
「塗っているよ?日焼けにもうるさいよねえ。どうしてだよ?自分のことは気にしていないくせに」
「お前の肌が弱いからだ。首の後ろも焼けている気がするぞ」
「もう……」

 とうとうバレてしまった。家庭菜園の畑の世話をするときに、帽子をかぶらずに日焼け止めも塗っていないことに。涼しくなって油断していたからだ。

「明日から塗るからさ……」
「来週のバンドの練習は?」
「木曜日だよ。土曜日はボーカルレッスン……」
「その日なら送り迎えが出来る。今日は疲れただろう?もう寝ておけ」
「食器を洗わないと……。一時間経ったら起こして」
「やっておく」
「黒崎さん……」
「はいはい、起こしてやるから寝ろ」
「うん……」

 黒崎からのキスが降りてきた。目を閉じているうちに眠気が強くなり、頭を撫でられながら、ベッドに体を沈めた。充足感に包み込まれながら。

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