18 / 348
2-15(黒崎視点)
しおりを挟む
23時半。
書斎で今週の会議の資料を読んでいるところだ。食器の後片付けの手伝いをしようとすると、ゆっくりしておけと言われて、2階へ上がってきた。そろそろ夏樹も上がって来るだろう。
「こっちは遅れているのか……」
プリントアウトした書類へチェックを入れていった。プロジェクトの進捗を管理し、スムーズに進んでいない不振の原因を追求し、軌道修正を指示する役目をつとめる。部下の性格の把握も重要だ。課長だけに依存はできない。
「このチームの動きが悪い。早瀬の指摘どおりだ。白澤へ変更させよう……」
ひと通りの確認作業を終えて、書類をデスクに置いた。そして、凝っている肩を右手で揉んでいると、階段を上がる足音が聞こえて来た。カタカタと、何かの物音もした。そして、静かにドアがノックされた後、夏樹が部屋に入って来た。温かい茶とカステラが乗せられたトレーを持っている。まだ体がだるいだろう。しかし、こうしていつも気遣われている。
「黒崎さーん、休憩してよ」
「ありがとう」
「はい、番茶にしたよ~」
「すまない。お前は寝ておけ」
「俺は門番だもん。黒崎さんが寝るまで見張っているよ」
ふふんと言って、夏樹が笑った。そして、彼が湯呑へ番茶を注ぎ入れて、いい香りが広がった。それを一口飲んで、溜息が漏れた。
「ああ、美味い。温度も好みだ」
「そう?適当に淹れたのに……」
夏樹が自分の分も淹れた後、すぐに飲まずにトレーに置いた。熱いものが苦手なためだ。茶の温度を俺の好みに合わせてくれたからだ。
「……可愛いな」
「……ええ?か、かわ?」
「……何でもない」
つい口が滑ってしまった。今朝の味噌汁と番茶のせいだと思いたい。すると、夏樹がそばへ立って、俺の顔を覗き込んできた。そして、何かを期待して、両目を輝かせている。つい吸い寄せられそうな心を抑えて、パソコン画面へ視線を向けた。
「黒崎さーん」
「……どうした?」
「黒崎さん?」
「……だからどうした?」
「呼んでみただけだよ」
「……ばかやろう」
「結婚してから変わったよねー?」
「……何のことだ?」
「ふうん?……そういえば。悠人から指輪のことを相談されたんだよ。早瀬さんから付けてほしいって頼まれたけど、恥ずかしいから断っているんだって。早瀬さんに近づく人が少なくなるよって教えたら、その気になったんだ」
「そうか。あいつが喜んでいるだろう」
今日、話したところだった。悠人には他の男が寄ってくるから大変だと。俺の場合は夏樹に付きまとっていたから、相手を蹴散らすことが可能だった。早瀬の場合は、そういうことをしないようにしているそうだ。悠人から後で聞かされて、頭を痛めているそうだ。
「そうだよね。指輪がなくても、気持ちは繋がっているけどね。お揃いがあると嬉しいものだよ。毎朝の日課でさ……、ふふん」
「俺は面倒くさい」
「何だよ~っ」
背後から抱きついている両腕に力が込められた。それをやり過ごしながら、強引に膝の上に座らせた。本気で拗ねているようだ。口を尖らせて目を伏せている。少々、罪悪感に胸が痛んだ。
「すまなかった。照れ隠しだ」
「本当に?」
「本当だ。俺の方から贈っただろう?」
「ふうん……」
「機嫌を直してくれ。何か我儘を言ってくれ。6文字言葉以外にしろ」
両方の頬を包み込んで、鼻の頭にキスをした。何度も繰り返していくうちに笑顔が戻った。蕩けそうなぐらいに可愛いものだ。
「それなら、今から寝室へ戻ってよ。ゆっくり寝てほしい」
「ああ。そうする」
こうして俺のことを気遣っている。もう一度夏樹のことを抱きしめた後、書斎の電気を消した。そして、彼から強引に手を引かれて、寝室へと戻った。
明日の朝になれば、新しい一日が始まる。キッチンへ降りて行くと、我が家の門番が歌っているはずだ。そばにいる夏樹の寝顔を見つめた後、目を閉じた。
書斎で今週の会議の資料を読んでいるところだ。食器の後片付けの手伝いをしようとすると、ゆっくりしておけと言われて、2階へ上がってきた。そろそろ夏樹も上がって来るだろう。
「こっちは遅れているのか……」
プリントアウトした書類へチェックを入れていった。プロジェクトの進捗を管理し、スムーズに進んでいない不振の原因を追求し、軌道修正を指示する役目をつとめる。部下の性格の把握も重要だ。課長だけに依存はできない。
「このチームの動きが悪い。早瀬の指摘どおりだ。白澤へ変更させよう……」
ひと通りの確認作業を終えて、書類をデスクに置いた。そして、凝っている肩を右手で揉んでいると、階段を上がる足音が聞こえて来た。カタカタと、何かの物音もした。そして、静かにドアがノックされた後、夏樹が部屋に入って来た。温かい茶とカステラが乗せられたトレーを持っている。まだ体がだるいだろう。しかし、こうしていつも気遣われている。
「黒崎さーん、休憩してよ」
「ありがとう」
「はい、番茶にしたよ~」
「すまない。お前は寝ておけ」
「俺は門番だもん。黒崎さんが寝るまで見張っているよ」
ふふんと言って、夏樹が笑った。そして、彼が湯呑へ番茶を注ぎ入れて、いい香りが広がった。それを一口飲んで、溜息が漏れた。
「ああ、美味い。温度も好みだ」
「そう?適当に淹れたのに……」
夏樹が自分の分も淹れた後、すぐに飲まずにトレーに置いた。熱いものが苦手なためだ。茶の温度を俺の好みに合わせてくれたからだ。
「……可愛いな」
「……ええ?か、かわ?」
「……何でもない」
つい口が滑ってしまった。今朝の味噌汁と番茶のせいだと思いたい。すると、夏樹がそばへ立って、俺の顔を覗き込んできた。そして、何かを期待して、両目を輝かせている。つい吸い寄せられそうな心を抑えて、パソコン画面へ視線を向けた。
「黒崎さーん」
「……どうした?」
「黒崎さん?」
「……だからどうした?」
「呼んでみただけだよ」
「……ばかやろう」
「結婚してから変わったよねー?」
「……何のことだ?」
「ふうん?……そういえば。悠人から指輪のことを相談されたんだよ。早瀬さんから付けてほしいって頼まれたけど、恥ずかしいから断っているんだって。早瀬さんに近づく人が少なくなるよって教えたら、その気になったんだ」
「そうか。あいつが喜んでいるだろう」
今日、話したところだった。悠人には他の男が寄ってくるから大変だと。俺の場合は夏樹に付きまとっていたから、相手を蹴散らすことが可能だった。早瀬の場合は、そういうことをしないようにしているそうだ。悠人から後で聞かされて、頭を痛めているそうだ。
「そうだよね。指輪がなくても、気持ちは繋がっているけどね。お揃いがあると嬉しいものだよ。毎朝の日課でさ……、ふふん」
「俺は面倒くさい」
「何だよ~っ」
背後から抱きついている両腕に力が込められた。それをやり過ごしながら、強引に膝の上に座らせた。本気で拗ねているようだ。口を尖らせて目を伏せている。少々、罪悪感に胸が痛んだ。
「すまなかった。照れ隠しだ」
「本当に?」
「本当だ。俺の方から贈っただろう?」
「ふうん……」
「機嫌を直してくれ。何か我儘を言ってくれ。6文字言葉以外にしろ」
両方の頬を包み込んで、鼻の頭にキスをした。何度も繰り返していくうちに笑顔が戻った。蕩けそうなぐらいに可愛いものだ。
「それなら、今から寝室へ戻ってよ。ゆっくり寝てほしい」
「ああ。そうする」
こうして俺のことを気遣っている。もう一度夏樹のことを抱きしめた後、書斎の電気を消した。そして、彼から強引に手を引かれて、寝室へと戻った。
明日の朝になれば、新しい一日が始まる。キッチンへ降りて行くと、我が家の門番が歌っているはずだ。そばにいる夏樹の寝顔を見つめた後、目を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
完結しました。
たまに番外編更新予定です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる