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2-15(黒崎視点)
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23時半。
書斎で今週の会議の資料を読んでいるところだ。食器の後片付けの手伝いをしようとすると、ゆっくりしておけと言われて、2階へ上がってきた。そろそろ夏樹も上がって来るだろう。
「こっちは遅れているのか……」
プリントアウトした書類へチェックを入れていった。プロジェクトの進捗を管理し、スムーズに進んでいない不振の原因を追求し、軌道修正を指示する役目をつとめる。部下の性格の把握も重要だ。課長だけに依存はできない。
「このチームの動きが悪い。早瀬の指摘どおりだ。白澤へ変更させよう……」
ひと通りの確認作業を終えて、書類をデスクに置いた。そして、凝っている肩を右手で揉んでいると、階段を上がる足音が聞こえて来た。カタカタと、何かの物音もした。そして、静かにドアがノックされた後、夏樹が部屋に入って来た。温かい茶とカステラが乗せられたトレーを持っている。まだ体がだるいだろう。しかし、こうしていつも気遣われている。
「黒崎さーん、休憩してよ」
「ありがとう」
「はい、番茶にしたよ~」
「すまない。お前は寝ておけ」
「俺は門番だもん。黒崎さんが寝るまで見張っているよ」
ふふんと言って、夏樹が笑った。そして、彼が湯呑へ番茶を注ぎ入れて、いい香りが広がった。それを一口飲んで、溜息が漏れた。
「ああ、美味い。温度も好みだ」
「そう?適当に淹れたのに……」
夏樹が自分の分も淹れた後、すぐに飲まずにトレーに置いた。熱いものが苦手なためだ。茶の温度を俺の好みに合わせてくれたからだ。
「……可愛いな」
「……ええ?か、かわ?」
「……何でもない」
つい口が滑ってしまった。今朝の味噌汁と番茶のせいだと思いたい。すると、夏樹がそばへ立って、俺の顔を覗き込んできた。そして、何かを期待して、両目を輝かせている。つい吸い寄せられそうな心を抑えて、パソコン画面へ視線を向けた。
「黒崎さーん」
「……どうした?」
「黒崎さん?」
「……だからどうした?」
「呼んでみただけだよ」
「……ばかやろう」
「結婚してから変わったよねー?」
「……何のことだ?」
「ふうん?……そういえば。悠人から指輪のことを相談されたんだよ。早瀬さんから付けてほしいって頼まれたけど、恥ずかしいから断っているんだって。早瀬さんに近づく人が少なくなるよって教えたら、その気になったんだ」
「そうか。あいつが喜んでいるだろう」
今日、話したところだった。悠人には他の男が寄ってくるから大変だと。俺の場合は夏樹に付きまとっていたから、相手を蹴散らすことが可能だった。早瀬の場合は、そういうことをしないようにしているそうだ。悠人から後で聞かされて、頭を痛めているそうだ。
「そうだよね。指輪がなくても、気持ちは繋がっているけどね。お揃いがあると嬉しいものだよ。毎朝の日課でさ……、ふふん」
「俺は面倒くさい」
「何だよ~っ」
背後から抱きついている両腕に力が込められた。それをやり過ごしながら、強引に膝の上に座らせた。本気で拗ねているようだ。口を尖らせて目を伏せている。少々、罪悪感に胸が痛んだ。
「すまなかった。照れ隠しだ」
「本当に?」
「本当だ。俺の方から贈っただろう?」
「ふうん……」
「機嫌を直してくれ。何か我儘を言ってくれ。6文字言葉以外にしろ」
両方の頬を包み込んで、鼻の頭にキスをした。何度も繰り返していくうちに笑顔が戻った。蕩けそうなぐらいに可愛いものだ。
「それなら、今から寝室へ戻ってよ。ゆっくり寝てほしい」
「ああ。そうする」
こうして俺のことを気遣っている。もう一度夏樹のことを抱きしめた後、書斎の電気を消した。そして、彼から強引に手を引かれて、寝室へと戻った。
明日の朝になれば、新しい一日が始まる。キッチンへ降りて行くと、我が家の門番が歌っているはずだ。そばにいる夏樹の寝顔を見つめた後、目を閉じた。
書斎で今週の会議の資料を読んでいるところだ。食器の後片付けの手伝いをしようとすると、ゆっくりしておけと言われて、2階へ上がってきた。そろそろ夏樹も上がって来るだろう。
「こっちは遅れているのか……」
プリントアウトした書類へチェックを入れていった。プロジェクトの進捗を管理し、スムーズに進んでいない不振の原因を追求し、軌道修正を指示する役目をつとめる。部下の性格の把握も重要だ。課長だけに依存はできない。
「このチームの動きが悪い。早瀬の指摘どおりだ。白澤へ変更させよう……」
ひと通りの確認作業を終えて、書類をデスクに置いた。そして、凝っている肩を右手で揉んでいると、階段を上がる足音が聞こえて来た。カタカタと、何かの物音もした。そして、静かにドアがノックされた後、夏樹が部屋に入って来た。温かい茶とカステラが乗せられたトレーを持っている。まだ体がだるいだろう。しかし、こうしていつも気遣われている。
「黒崎さーん、休憩してよ」
「ありがとう」
「はい、番茶にしたよ~」
「すまない。お前は寝ておけ」
「俺は門番だもん。黒崎さんが寝るまで見張っているよ」
ふふんと言って、夏樹が笑った。そして、彼が湯呑へ番茶を注ぎ入れて、いい香りが広がった。それを一口飲んで、溜息が漏れた。
「ああ、美味い。温度も好みだ」
「そう?適当に淹れたのに……」
夏樹が自分の分も淹れた後、すぐに飲まずにトレーに置いた。熱いものが苦手なためだ。茶の温度を俺の好みに合わせてくれたからだ。
「……可愛いな」
「……ええ?か、かわ?」
「……何でもない」
つい口が滑ってしまった。今朝の味噌汁と番茶のせいだと思いたい。すると、夏樹がそばへ立って、俺の顔を覗き込んできた。そして、何かを期待して、両目を輝かせている。つい吸い寄せられそうな心を抑えて、パソコン画面へ視線を向けた。
「黒崎さーん」
「……どうした?」
「黒崎さん?」
「……だからどうした?」
「呼んでみただけだよ」
「……ばかやろう」
「結婚してから変わったよねー?」
「……何のことだ?」
「ふうん?……そういえば。悠人から指輪のことを相談されたんだよ。早瀬さんから付けてほしいって頼まれたけど、恥ずかしいから断っているんだって。早瀬さんに近づく人が少なくなるよって教えたら、その気になったんだ」
「そうか。あいつが喜んでいるだろう」
今日、話したところだった。悠人には他の男が寄ってくるから大変だと。俺の場合は夏樹に付きまとっていたから、相手を蹴散らすことが可能だった。早瀬の場合は、そういうことをしないようにしているそうだ。悠人から後で聞かされて、頭を痛めているそうだ。
「そうだよね。指輪がなくても、気持ちは繋がっているけどね。お揃いがあると嬉しいものだよ。毎朝の日課でさ……、ふふん」
「俺は面倒くさい」
「何だよ~っ」
背後から抱きついている両腕に力が込められた。それをやり過ごしながら、強引に膝の上に座らせた。本気で拗ねているようだ。口を尖らせて目を伏せている。少々、罪悪感に胸が痛んだ。
「すまなかった。照れ隠しだ」
「本当に?」
「本当だ。俺の方から贈っただろう?」
「ふうん……」
「機嫌を直してくれ。何か我儘を言ってくれ。6文字言葉以外にしろ」
両方の頬を包み込んで、鼻の頭にキスをした。何度も繰り返していくうちに笑顔が戻った。蕩けそうなぐらいに可愛いものだ。
「それなら、今から寝室へ戻ってよ。ゆっくり寝てほしい」
「ああ。そうする」
こうして俺のことを気遣っている。もう一度夏樹のことを抱きしめた後、書斎の電気を消した。そして、彼から強引に手を引かれて、寝室へと戻った。
明日の朝になれば、新しい一日が始まる。キッチンへ降りて行くと、我が家の門番が歌っているはずだ。そばにいる夏樹の寝顔を見つめた後、目を閉じた。
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