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3-1 ある一日(夏樹視点)
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11月30日、金曜日。午前5時半。
すっかり馴染んだキッチンにて、朝ごはんを作っているところだ。今朝は歌を歌いながらやっている。マイク代わりにしているうちわを持った。これじゃないと声が出ないぐらいに馴染んでいる。
「るるる~、来月のバースデー、プレゼントはー、俺だよーー、黒崎さーん、ラヴーー!」
最後はシャウトをした。ボーカルレッスンを受けている成果があり、喉を傷めずに歌声を出せるようになった。上達している手ごたえを感じている。
朝ごはんの支度が終わった。後は黒崎が家に戻ってくるのを待つだけだ。いつもなら電子新聞を読んでいる時間だけれど、今朝はスケジュールが違う。5月に引っ越してきて初めて、可燃ゴミを出しに行ってもらっているからだ。
「……遅いなあ。どこでウロついてるんだよ~」
まさか迷子になるわけがない。そう思いつつも心配になり、門の前へ出て行くことにした。すると、玄関の方から話し声が聞こえてきた。
「……すみません。女性に重いものを持たせてしまって」
「……いいえ、とんでもない。圭一君も、たくさん持っているじゃない」
それは、黒崎と佳代子さんの声だった。玄関のドアを開けると、二人が立っていた。黒崎の腕には4つの紙袋が下げられており、佳代子さんは段ボールを抱えていた。
「夏樹君、おはようーー」
「おはようございます」
「これは野菜のセットよ……」
「すみませんっ。よいしょっと……」
佳代子さんから段ボールを受け取った。結構重い。黒崎も俺も、持たせて悪かったと思った。でも、佳代子さんは気にしないでと言ってくれた。
「親戚から送られて来たものよ。毎年なんだけどね。沢山あるし美味しいから、食べてもおうと思って」
「わあ……、ありがとうございます。義父にも持って行きます」
「昨日お見かけしたわ。顔色が良くて……」
「はい。時間が出来たら外へ出ています」
お義父さんの話をしていると、アンが黒崎の足にすがりついていた。どうやら美味しいものが入っているらしい。
「黒崎さーん?それは?」
「ご近所さんから頂いた。散歩中に」
「あっちこっちから。ふふふ」
「黒崎さん……」
どうしてこんなにモテるのか?大した距離でもないし、収集場所を往復しただけなのに。ゴミを出した帰りに、次々に呼び止められたそうだ。佳代子さんが外に出てきた時には段ボールを抱えていたから、持ってくれたそうだ。
佳代子さんが笑いながら玄関を出た後、頂き物をキッチンへ運び込んだ。それを広げてみると、美味しそうな匂いが広がった。アンがパタパタと尻尾を振っている。彼女は食パンが大好きだ。
「田中屋の食パンだ~。予約販売なんだよ。かぼちゃ食パンもあるよ」
「頂き物で美味かったから、うちにも用意してくれたそうだ」
「これは『キクチ屋』のスコーンだ!羽田空港内のお店だよ」
「旦那さんが出張の帰りに寄ったそうだ」
「カンテールの新作マフィンだよ~」
「親父が通っているのを見かけたそうだ」
「こっちはタマネギ、ニンジン、たくさんあるねえ~。お返しをどうしようかな?この間は……」
「そうだな。ドレッシングの詰め合わせは、この間配った……。チョコレートの詰め合わせにしようか。さあ、そろそろ食べよう」
「うんっ。今朝のスープはミネストローネだよ。あとはねー」
朝ごはんを食べながら、お返しの品を決める事にした。アンが食パンを食べたそうにしている。さっき食事を済ませたところだから、俺が食べる分を少しだけ切って食べさせてあげた。すると、黒崎がアンにおやつも食べさせようとしている。それは食べ過ぎになる。でも、嬉しそうにするのが見たくて、つい、食べさせたくなるようだ。そういう黒崎のことを褒めて宥めて、ダイニングテーブルに連れて行った。
すっかり馴染んだキッチンにて、朝ごはんを作っているところだ。今朝は歌を歌いながらやっている。マイク代わりにしているうちわを持った。これじゃないと声が出ないぐらいに馴染んでいる。
「るるる~、来月のバースデー、プレゼントはー、俺だよーー、黒崎さーん、ラヴーー!」
最後はシャウトをした。ボーカルレッスンを受けている成果があり、喉を傷めずに歌声を出せるようになった。上達している手ごたえを感じている。
朝ごはんの支度が終わった。後は黒崎が家に戻ってくるのを待つだけだ。いつもなら電子新聞を読んでいる時間だけれど、今朝はスケジュールが違う。5月に引っ越してきて初めて、可燃ゴミを出しに行ってもらっているからだ。
「……遅いなあ。どこでウロついてるんだよ~」
まさか迷子になるわけがない。そう思いつつも心配になり、門の前へ出て行くことにした。すると、玄関の方から話し声が聞こえてきた。
「……すみません。女性に重いものを持たせてしまって」
「……いいえ、とんでもない。圭一君も、たくさん持っているじゃない」
それは、黒崎と佳代子さんの声だった。玄関のドアを開けると、二人が立っていた。黒崎の腕には4つの紙袋が下げられており、佳代子さんは段ボールを抱えていた。
「夏樹君、おはようーー」
「おはようございます」
「これは野菜のセットよ……」
「すみませんっ。よいしょっと……」
佳代子さんから段ボールを受け取った。結構重い。黒崎も俺も、持たせて悪かったと思った。でも、佳代子さんは気にしないでと言ってくれた。
「親戚から送られて来たものよ。毎年なんだけどね。沢山あるし美味しいから、食べてもおうと思って」
「わあ……、ありがとうございます。義父にも持って行きます」
「昨日お見かけしたわ。顔色が良くて……」
「はい。時間が出来たら外へ出ています」
お義父さんの話をしていると、アンが黒崎の足にすがりついていた。どうやら美味しいものが入っているらしい。
「黒崎さーん?それは?」
「ご近所さんから頂いた。散歩中に」
「あっちこっちから。ふふふ」
「黒崎さん……」
どうしてこんなにモテるのか?大した距離でもないし、収集場所を往復しただけなのに。ゴミを出した帰りに、次々に呼び止められたそうだ。佳代子さんが外に出てきた時には段ボールを抱えていたから、持ってくれたそうだ。
佳代子さんが笑いながら玄関を出た後、頂き物をキッチンへ運び込んだ。それを広げてみると、美味しそうな匂いが広がった。アンがパタパタと尻尾を振っている。彼女は食パンが大好きだ。
「田中屋の食パンだ~。予約販売なんだよ。かぼちゃ食パンもあるよ」
「頂き物で美味かったから、うちにも用意してくれたそうだ」
「これは『キクチ屋』のスコーンだ!羽田空港内のお店だよ」
「旦那さんが出張の帰りに寄ったそうだ」
「カンテールの新作マフィンだよ~」
「親父が通っているのを見かけたそうだ」
「こっちはタマネギ、ニンジン、たくさんあるねえ~。お返しをどうしようかな?この間は……」
「そうだな。ドレッシングの詰め合わせは、この間配った……。チョコレートの詰め合わせにしようか。さあ、そろそろ食べよう」
「うんっ。今朝のスープはミネストローネだよ。あとはねー」
朝ごはんを食べながら、お返しの品を決める事にした。アンが食パンを食べたそうにしている。さっき食事を済ませたところだから、俺が食べる分を少しだけ切って食べさせてあげた。すると、黒崎がアンにおやつも食べさせようとしている。それは食べ過ぎになる。でも、嬉しそうにするのが見たくて、つい、食べさせたくなるようだ。そういう黒崎のことを褒めて宥めて、ダイニングテーブルに連れて行った。
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