38 / 348
4-3
しおりを挟む
午前6時半。
朝ごはんを食べ終えて、朝の日課の時間へ入った。リビングで黒崎と並んで座り、テーブルの上に、パソコン、資料が入ったファイル、法学の教科書、ノート、シャーペン、万年筆を並べた。
「黒崎さん。ここはどうなのかな?」
「経済か。ここはだな……」
「ああ、そういうことなんだ……」
テレビが朝の情報番組に切り替わるタイミングで、星座占いのコーナーが始まった。12匹のトラが、スタートラインを切って走り始めた。
「あれ?ウサギじゃなくなっているね?」
「……番組の改編時期か」
「わああ……、おひつじ座が最下位かも~~。あ、やったー!」
「射手座が1位だ」
「よかったね。今日の仕事運、バッチリだってさ!」
毎朝の星座占いを見るのが習慣だ。黒崎は占いを信じるタイプではなかったのに、モチベーションが上がるし、いい流れが生まれると言っている。
占いの結果が分かったところで、7時を迎えた。そろそろ出勤の支度を始めるために、黒崎が寝室へ上がった。その間にテーブルの上を片づけて、黒崎が降りて来るのを待ち構えた。スーツの洋服ブラシを持って。
「……おまたせ」
「あ、カッコいいね~」
黒崎がスーツに着替えて降りてきた。その素敵な姿に声が出た。着ているのは、俺が昨日選んだ組み合わせだ。今日は大事な取引先との会合があるそうだ。
「今朝のスケベじじいと、同一人物に見えないよ」
「そうか?頭の中はエロいことで詰まっているぞ」
「こらっ、ケツを撫でるなよ~。ブラシを使うよ?」
「ああ、頼む」
ブラシを上着の背に当てた。とても使いやすくて、これで5代目だという。100%の馬毛から作られていて、静電気を除去する作用もある。携帯用を会社にも置いてあるぐらいだ。
今日のスーツの色味は、紺とグレーが混ざった深い色だ。最近の黒崎は淡い色味が入った生地も似合うようになっているから、新しく作る時に勧めている。
「チェダーチーズ・アマトリチャーナだね。かっこよさが際立つよ」
「……イタリア料理の名前だぞ?」
「シャツはカルボナーラだね。すっきりした襟元だよ」
「……サルバトーレだ」
「ネクタイは……、ドルチェ?」
「……ドレイクだ」
黒崎が笑い声を立てた。俺の言い間違いが楽しいらしい。洋服のことはよく分からないから、名前を覚えるのが大変だ。すると今度は、俺が着ているシャツの背に触った。
「これを選んで正解だった」
「うん、着やすいよ。早く着ろって言うから……」
「似合っている。今日は服のショップにも寄ろう」
着ている服のほとんどが、黒崎が選んだものだ。大学へ通学するときの格好は、自分が選んだものを着ている。浅草で買ったパーカーと、トラの顔がプリントされたTシャツだ。大阪&浅草ミックスカジュアルという、俺のオリジナルだ。
「クローゼットが満杯なんだ。もう服は要らないよ。コートは3着もあるし、シャツだってあるし……」
「これからもっと、外へ出る機会が増える。色んな物を着て慣れておけ。……今日は大学まで迎えに行く」
「うん、りょーかい」
今日は黒崎が早めに仕事を終える。有給休暇を取らないと、部下が取りづらいからだ。来週の誕生日も休暇を取ってある。仕事が落ち着いてきたようだ。これから年末に向けて多忙になるから、今のうちに休んでもらいたい。
今日は日用品の買い出しに付き合ってもらう。年末に向けてのものが必要だから、今のうちに見ておきたい。そうしているうちに、7時半になった。もうすぐでタクシーが到着する頃だ。
「さて……」
「はい、キスをしてよ」
「色気がなさすぎる」
「朝の4時に襲い掛かってきた人が言うセリフじゃないよ」
「すまなかった。キスをさせてくれ」
「いいよーー?」
いつも朝するキスは軽いものなのに、今しているキスは濃厚だ。腰まで撫でまわされたから、手をつねってやった。そして、黒崎の背中を押して玄関へ出た。
朝ごはんを食べ終えて、朝の日課の時間へ入った。リビングで黒崎と並んで座り、テーブルの上に、パソコン、資料が入ったファイル、法学の教科書、ノート、シャーペン、万年筆を並べた。
「黒崎さん。ここはどうなのかな?」
「経済か。ここはだな……」
「ああ、そういうことなんだ……」
テレビが朝の情報番組に切り替わるタイミングで、星座占いのコーナーが始まった。12匹のトラが、スタートラインを切って走り始めた。
「あれ?ウサギじゃなくなっているね?」
「……番組の改編時期か」
「わああ……、おひつじ座が最下位かも~~。あ、やったー!」
「射手座が1位だ」
「よかったね。今日の仕事運、バッチリだってさ!」
毎朝の星座占いを見るのが習慣だ。黒崎は占いを信じるタイプではなかったのに、モチベーションが上がるし、いい流れが生まれると言っている。
占いの結果が分かったところで、7時を迎えた。そろそろ出勤の支度を始めるために、黒崎が寝室へ上がった。その間にテーブルの上を片づけて、黒崎が降りて来るのを待ち構えた。スーツの洋服ブラシを持って。
「……おまたせ」
「あ、カッコいいね~」
黒崎がスーツに着替えて降りてきた。その素敵な姿に声が出た。着ているのは、俺が昨日選んだ組み合わせだ。今日は大事な取引先との会合があるそうだ。
「今朝のスケベじじいと、同一人物に見えないよ」
「そうか?頭の中はエロいことで詰まっているぞ」
「こらっ、ケツを撫でるなよ~。ブラシを使うよ?」
「ああ、頼む」
ブラシを上着の背に当てた。とても使いやすくて、これで5代目だという。100%の馬毛から作られていて、静電気を除去する作用もある。携帯用を会社にも置いてあるぐらいだ。
今日のスーツの色味は、紺とグレーが混ざった深い色だ。最近の黒崎は淡い色味が入った生地も似合うようになっているから、新しく作る時に勧めている。
「チェダーチーズ・アマトリチャーナだね。かっこよさが際立つよ」
「……イタリア料理の名前だぞ?」
「シャツはカルボナーラだね。すっきりした襟元だよ」
「……サルバトーレだ」
「ネクタイは……、ドルチェ?」
「……ドレイクだ」
黒崎が笑い声を立てた。俺の言い間違いが楽しいらしい。洋服のことはよく分からないから、名前を覚えるのが大変だ。すると今度は、俺が着ているシャツの背に触った。
「これを選んで正解だった」
「うん、着やすいよ。早く着ろって言うから……」
「似合っている。今日は服のショップにも寄ろう」
着ている服のほとんどが、黒崎が選んだものだ。大学へ通学するときの格好は、自分が選んだものを着ている。浅草で買ったパーカーと、トラの顔がプリントされたTシャツだ。大阪&浅草ミックスカジュアルという、俺のオリジナルだ。
「クローゼットが満杯なんだ。もう服は要らないよ。コートは3着もあるし、シャツだってあるし……」
「これからもっと、外へ出る機会が増える。色んな物を着て慣れておけ。……今日は大学まで迎えに行く」
「うん、りょーかい」
今日は黒崎が早めに仕事を終える。有給休暇を取らないと、部下が取りづらいからだ。来週の誕生日も休暇を取ってある。仕事が落ち着いてきたようだ。これから年末に向けて多忙になるから、今のうちに休んでもらいたい。
今日は日用品の買い出しに付き合ってもらう。年末に向けてのものが必要だから、今のうちに見ておきたい。そうしているうちに、7時半になった。もうすぐでタクシーが到着する頃だ。
「さて……」
「はい、キスをしてよ」
「色気がなさすぎる」
「朝の4時に襲い掛かってきた人が言うセリフじゃないよ」
「すまなかった。キスをさせてくれ」
「いいよーー?」
いつも朝するキスは軽いものなのに、今しているキスは濃厚だ。腰まで撫でまわされたから、手をつねってやった。そして、黒崎の背中を押して玄関へ出た。
0
あなたにおすすめの小説
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?
甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。
だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。
魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。
みたいな話し。
孤独な魔王×孤独な人間
サブCPに人間の王×吸血鬼の従者
11/18.完結しました。
今後、番外編等考えてみようと思います。
こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる