夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 買いたい野菜が揃ったから、次は鮮魚コーナーへ行く。豆腐コーナーは喧嘩の元だから、あえて避けた。お互いに子供っぽさが消えない。コートにすがりついたままで見上げると、素っ気ない声色とは正反対の眼差しを向けられた。

「黒崎さーん」
「どうした?」
「呼んでみただけ」
「俺が減るから呼ぶな」
「なんだよ~~っ」
「どこかの高校3年生に言われた仕返しだ」
「もっと呼んでやる。……黒崎さん。黒崎さん、黒崎さーん」
「バカヤロウ。ほら、周りの邪魔になっている」
「あ、いけない」
「もっとこっちに来い」

 強引に腰を引き寄せられた。すぐに鮮魚コーナーに入り、大きなガラスケースに反射した、自分たちの姿に気づいた。1年前は友達の距離があったのに、ずっと近くにいる。恋人とも友達とも違うものだ。密着しすぎず、離れてもいない距離だ。

(くっつきたかったら、いつでもOKな距離だね。ふふん……)

 黒崎の腕に絡めると、やっぱり歩きづらいから離れろと言って、スタスタと早足で向こうへ行ってしまった。それを、ブツブツ文句を言いながら追いかけてやった。
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