夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 観覧車乗り場へきた。大きな観覧車が頭の上にある。その下の乗り場で順番待ちをしながら、それを仰ぎ見た。64台のゴンドラが回っているから、とても迫力がある。

「大きいなあ。約15分の空の旅だよ」
「こら、離れろ」
「あんたは背が高いからね。こうしてくっついた方が、省スペースになるよ」

 黒崎の左側に立っている。引き離されそうになる度に腕に抱きついたから、根負けして諦めてくれた。

「空いているだろう……」
「でも、省スペースなんだ。協力しようよ」

 ガタガタ、ガチャン!ゴーーー。 

 待っているグループが、次々にゴンドラに乗り込んでいく。楽しそうな笑い声が聞こえているから、こっちもワクワクしている。観覧車に乗るのが好きだから、余計にそう思う。

「夏樹、また泣くなよ?」
「あれは黒崎さんの意地悪だったよ?」

 大学合格発表前の出来事だ。ナーバスになっていたから、気分転換にと誘われて、地元の観覧車に乗りに行った。そこで待っていたのは、シースルー仕様のゴンドラだった。ドキドキしながら乗り込んだ後、黒崎から恐ろしいエピソードを聞かされた。泣いて倒れて、救護室へ運んでもらった思い出がある。

「あれは反省した」
「俺の機嫌を取るのが、大変だったよね?」
「ああ……」

 するとその時だ。カメラを持ったスタッフが来た。乗り込む前の写真サービスだという。ぜひ撮ってもらいたい。

「黒崎さん。撮ろうよ~~」
「いい傾向だ。写真嫌いが直って良かった」
「うん、自分でもそう思うよ。思い出が残るし」

 今までは自分の女の子みたいな外見が好きではなかった。痴漢に遭ってきたからだ。でも、背が伸びて、骨格や顔立ちに変化が起きた。今では女の子に間違われないし、痴漢に遭うことも無い。隙を見せないやり方を身につけたことも大きい。その先生は黒崎だ。モデルの経験で写真を撮られることに慣れたし、バンド活動でも影響を受けた。思い出を形に残すことが、こんなに素敵なことだとは知らなかった。

「写真をお願いしまーす」
「かしこまりましたー。降りた後の受け取りになります。こちらへどうぞー」
「はーーい」

 カメラを向けられて、黒崎と並んで立った。ごく自然な動作で肩を抱かれて、寄り添うようにした。

「はい、いきますよー」
「はーーい。ん……、ふぁ……」

 するとその時だ。鼻がムズムズしてきた。
 パシャ!

「ふぁーー、ぶあっくしょん!ああーーー」
「……」
「あらら……」

 盛大なクシャミが出てしまい、その瞬間をカメラに収められてしまった。もう一度、撮り直してもらった。黒崎がその決定的瞬間の写真を欲しいと言い出して、オーダーしていた。必死に止めても聞いてもらえない。また言い合いをしながら、ゴンドラに乗り込んだ。
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