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一階のロビーに降りて、邪魔にならないように端の方へ移動した。お互いに連絡先を交換した後、佐伯が真面目な顔になった。どうして俺に声を掛けたのか話したいということだ。
「黒崎君の気持ちが分かるかもしれないから、声をかけたんだよ。初日にロビーで見かけたんだ。周りから注目されて、居心地が悪そうにしていたよね?親から言われて参加したのかなって。俺の家もそうだから。サエキ酒造っていう会社をやっているんだ」
「そうだったんだ……」
「俺、発明が趣味なんだ。今、『一人分の甘酒製造機』を作っているんだけど、試作品を営業企画部に持ち込もうと思って、設計図をメールで送ったんだ。黒崎常務から見てみたいって返事をもらったことを、今日来ていた子達が知っているんだ。コネがあるからだって言われたよ……。サエキ酒造が黒崎製菓とコラボ商品を出させてもらうんだ」
佐伯から家のことを教えてもらった。祖父の代から経営している会社があるため、コネがあるから余裕があるなどと、同級生から言われているそうだ。そして、これは仕方がないことだと割り切っていた時に、俺のことを見かけて気になったそうだ。我が家の事情を話そう。
「あのね。うちの家の事情を話すよ。最初から黒崎家の子じゃないんだよ……」
黒崎とはパートナー関係であること、黒崎隆の養子であること、自分が受けたくて参加したことを話した。佐伯が謝ってきたから、こっちも慌ててしまった。
「勘違いしていたよ、ごめんね」
「いいんだって。結婚指輪もしているけど、ファッションだと思う人もいるし」
「そう思ってたよ。付き合っている人がいるんだなあって……」
「あはは。……そうだ。俺達の友達に、久田悠人っていう子がいる。佐伯と気が合いそうだ。けっこうネガティブだぞー?めちゃくちゃ優しい奴だ。男らしいし。リアクションが凄くてさー、面白いぞ」
「ぜひ紹介してよ!」
佐伯が笑った。あんなことがあったのに、あのグループの悪口を言わなかった。裏表がなくて正直だ。
すると、ロビーを横切る参加者の中に、黒崎の姿を見つけた。数人との話を切り上げて、俺の方へ歩いて来た。
「……みんな、おつかれさま」
「3日間、ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
如月と佐伯が挨拶を返した。佐伯が屈託のない笑顔で話をしているのが印象的だった。黒崎を前にしても落ち着いている。誰もが迫力に押されるというのに。
「佐伯君もお疲れ様」
「お世話になりました!」
「元気がいいね。枝川と遊んであげて」
「え?」
「聞いたぞ。カフェで会うんだろう?甘酒製造機の話をするそうじゃないか。レポートノートを見せてもらった。来週中には感想をメールで送る。いいか?」
「はい!待っています!」
佐伯が枝川さんとカフェで会うそうだ。インターンシップの3日間が終了したから、付き合いは自由だ。
次に会う約束をした後、佐伯が一階のシャルロットキッチンの方へ歩いて行った。そして、如月が正面エントランスを出て行った。その後ろ姿を見送った後、黒崎と向かい合った。
「仕事が終わったところだ。一緒に帰ろう」
「ううん。一人で帰るよ。最後までやり遂げたい」
「はあ……」
「ため息をつくなよ~」
「仕事帰りのデートをしたい。付き合え」
「これは決めたことだよ。……家へ帰るまでが、インターンシップです」
「それは何だ?」
「運動会の最後に、校長先生が言っていただろ?家に帰るまでが運動会だって……」
「……聞き覚えがない」
「黒崎さんっ」
きっぱり叱りつけると、大人しくなった。これで形勢逆転した。実は仕事帰りのデートをしたい気持ちを押し留めて、黒崎へ頭を下げた。
「黒崎常務。3日間、ありがとうございました」
「……黒崎君。気をつけて帰れよ」
「はい。失礼します!」
もう一度、頭を下げた。そして、正面エントランスへ向かった。振り返らずに自動ドアを抜けて、最寄り駅へと歩いて行った。黒崎が帰って来たら思い切り甘えることにしよう。今日はそうしたかった。
「黒崎君の気持ちが分かるかもしれないから、声をかけたんだよ。初日にロビーで見かけたんだ。周りから注目されて、居心地が悪そうにしていたよね?親から言われて参加したのかなって。俺の家もそうだから。サエキ酒造っていう会社をやっているんだ」
「そうだったんだ……」
「俺、発明が趣味なんだ。今、『一人分の甘酒製造機』を作っているんだけど、試作品を営業企画部に持ち込もうと思って、設計図をメールで送ったんだ。黒崎常務から見てみたいって返事をもらったことを、今日来ていた子達が知っているんだ。コネがあるからだって言われたよ……。サエキ酒造が黒崎製菓とコラボ商品を出させてもらうんだ」
佐伯から家のことを教えてもらった。祖父の代から経営している会社があるため、コネがあるから余裕があるなどと、同級生から言われているそうだ。そして、これは仕方がないことだと割り切っていた時に、俺のことを見かけて気になったそうだ。我が家の事情を話そう。
「あのね。うちの家の事情を話すよ。最初から黒崎家の子じゃないんだよ……」
黒崎とはパートナー関係であること、黒崎隆の養子であること、自分が受けたくて参加したことを話した。佐伯が謝ってきたから、こっちも慌ててしまった。
「勘違いしていたよ、ごめんね」
「いいんだって。結婚指輪もしているけど、ファッションだと思う人もいるし」
「そう思ってたよ。付き合っている人がいるんだなあって……」
「あはは。……そうだ。俺達の友達に、久田悠人っていう子がいる。佐伯と気が合いそうだ。けっこうネガティブだぞー?めちゃくちゃ優しい奴だ。男らしいし。リアクションが凄くてさー、面白いぞ」
「ぜひ紹介してよ!」
佐伯が笑った。あんなことがあったのに、あのグループの悪口を言わなかった。裏表がなくて正直だ。
すると、ロビーを横切る参加者の中に、黒崎の姿を見つけた。数人との話を切り上げて、俺の方へ歩いて来た。
「……みんな、おつかれさま」
「3日間、ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
如月と佐伯が挨拶を返した。佐伯が屈託のない笑顔で話をしているのが印象的だった。黒崎を前にしても落ち着いている。誰もが迫力に押されるというのに。
「佐伯君もお疲れ様」
「お世話になりました!」
「元気がいいね。枝川と遊んであげて」
「え?」
「聞いたぞ。カフェで会うんだろう?甘酒製造機の話をするそうじゃないか。レポートノートを見せてもらった。来週中には感想をメールで送る。いいか?」
「はい!待っています!」
佐伯が枝川さんとカフェで会うそうだ。インターンシップの3日間が終了したから、付き合いは自由だ。
次に会う約束をした後、佐伯が一階のシャルロットキッチンの方へ歩いて行った。そして、如月が正面エントランスを出て行った。その後ろ姿を見送った後、黒崎と向かい合った。
「仕事が終わったところだ。一緒に帰ろう」
「ううん。一人で帰るよ。最後までやり遂げたい」
「はあ……」
「ため息をつくなよ~」
「仕事帰りのデートをしたい。付き合え」
「これは決めたことだよ。……家へ帰るまでが、インターンシップです」
「それは何だ?」
「運動会の最後に、校長先生が言っていただろ?家に帰るまでが運動会だって……」
「……聞き覚えがない」
「黒崎さんっ」
きっぱり叱りつけると、大人しくなった。これで形勢逆転した。実は仕事帰りのデートをしたい気持ちを押し留めて、黒崎へ頭を下げた。
「黒崎常務。3日間、ありがとうございました」
「……黒崎君。気をつけて帰れよ」
「はい。失礼します!」
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