夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 キッチンへ入り、さっそく生姜湯を用意した。ジンジャーシロップをお湯に溶かすだけの簡単なものだ。暑くなると文句を言っても、今回は飲んでもらう。6月に風邪を引いた時は効いたからだ。するとその時だ。マグカップを置いた時に、スマホが鳴った。悠人からの電話だ。今日は早瀬さんも仕事の休みを取っているということだ。

「もしもし?」
「いきなりごめんね。お正月明けの約束だけど、予定通りで大丈夫?」
「もちろん行くよ」

 来月遊びに行く予定の話だった。遠藤さんから、IKUエンタテイメントのスタジオ見学に連れて行ってもらう。楽しみにしていると話していると、クリスマスの話題になった。

「今日は家でゆっくり過ごすんだろ?庭のクリスマスツリーの写真を送ってよ」
「もちろんだよ。見に来ればいいのに」
「クリスマスに邪魔は出来ないよ。今日しかゆっくり出来ないだろ?」
「でもね、黒崎さんが熱を出したんだよ。小さい木に飾りつけをするかも」
「大丈夫?……裕理さーん。黒崎さんが熱を出したって……」

 その後、早瀬さんと電話をかわった。心配をかけてしまった。マグカップを持って寝室へ行こうとすると、また電話が鳴った。今度は伊吹からだった。今日は23歳の誕生日なのを忘れていた。

「もしもし。お兄ちゃん……」
「今日は24日、クリスマス・イブキだ」
「よかったね。おめでとう。黒崎さんが熱を出したから、忙しいんだ」
「そうなのか。咳がひどいのか?」
「そこまでじゃないよ。疲れが出たみたいでさ……」
「そうか。ワタベ電機の提携と、役員人事のことがあるからだな」
「会食が多くってさ。睡眠時間が短すぎるよ」
「フランスの民間療法に、赤ワインへ、砂糖と溶き卵を入れて加熱したものがある。結構よかったぞ。ネギを首に巻く方法もある」
「……変なことを言うなよ」
「いや、嘘じゃない。ツンとした臭いがあるだろ?アリシンという成分だ。疲労回復や殺菌効果、血行促進作用、免疫力を高めるんだ。ねぎを首に巻くことで、口や鼻から伝わって、喉へ入るらしい。ためしてみろよ。九条ネギがあるだろう?」
「ちょうど収穫してきたところだよ。やってみるよ」
「そうか。どうだったか教えてくれ」
「うん。ありがとう」
「じゃあなーー」

 さっそく試してみよう。救急箱から包帯を取り出すと、十分な長さがあった。大きなネギと包帯、生姜湯入りのマグカップを持って、寝室へ向かった。
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