夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 12月25日、火曜日。午前5時。

 目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。コンタクトレンズをしていないから、室内がボヤけている。そばで寝ている黒崎のことは、ハッキリ見えている。すでに目を覚ましていて、俺のことを眺めていた。そして、前髪をすくようにして、頭を撫でられた。

「おはよう。よく寝ていたな」
「おはよう……。具合はどう……、ふぁー」

 大きな欠伸をして、黒崎の胸に頬をすり寄せた。昨日よりも熱くないし、呼吸の音も普段どおりだ。

「良くなった。関節も痛まない」
「よかったよ……」

 プレゼントには気づいただろうか?枕元を見ると、その箱が置かれていた。黒崎が笑っている。気づいてくれたのか。

「夏樹、サンタが来たぞ」
「ホントだね~。開けてみたら?」
「お前へのプレゼントだ」
「ううん?黒崎さんへだよ」
「さっき開封した。革のブックカバーだった」

 ガサ……。サイドテーブルから、こげ茶色のブックカバーをもって来た。俺がプレゼントしたものだ。ということは、ここにあるのは俺宛のものか。同じようにサンタがきたことで、照れくさくなった。

 さっそく起き上がって、ラッピングの包み紙を広げた。ドキドキしながら箱を開けると、黒崎に贈ったブックカバーと全く同じものが入っていた。色が違うだけだ。つまりはお互いに同じ物を贈り合ったということだ。

「同じお店で買ったの?」
「サンタからは話を聞いていない」
「うへへ、そうだったね。黒崎さん。お揃いだね」
「サンタからの計らいだ。俺がこげ茶色、お前が紺色だ。間違わずに済むじゃないか」
「うん……」

 こういうのを、以心伝心というのかな?カレーライスが食べたいと思ったら、黒崎も同じことを考えていたことがある。レストランのアマトリチャーナが恋しくなる時や、珈琲が飲みたくなるタイミングも同じだ。すると、黒崎が窓の方を見た。

「雪が積もっているぞ。昼には溶けるだろうから見ておけ」
「うん。どうかな?わあーー」

 すぐにベッドから降りて窓際へ立った。窓を開けると、庭の木や地面が白いもので覆われていた。

「ケーキみたいになっているよ~」
「ここでもスイーツが出たのか」
「今夜は久しぶりにホールケーキを食べるよ。お義父さんと半分こだよ」

 今夜はお義父さんも一緒だ。この年で親とクリスマスを過ごしたくないと黒崎は言っているが、分かるぐらいに嬉しそうにしている。素直じゃない人だ。

 じっと見つめていると、黒崎がそっぽを向いた。眉間に皺が寄っているから、ものすごく照れている証拠だ。こういうチャンスを逃してなるものか。黒崎の膝の上へ伸び上がり、向かい合わせで座った。そして、肩に両腕を回して顔を覗きこむと、まだ照れているようだ。

「こっちを向いてよ……」
「だめだ。降りろ……」
「いいじゃん。キスだけしようよ」
「風邪がうつるぞ」

 軽く触れるだけのキスをした。すぐに離れるつもりでいると、体がベッドに沈み込み、黒崎の肩越しに天井が見えた。しかし、襲い掛かられることは無くて、お互いの頬をつねり合って遊んだ。

 ふいに、黒崎が真面目な顔になった。これだけ元気になったから、今日は病院へ行かないと言い出した。それなら枕を抱いて一週間寝ろと言い返してやると、病院に行くと言ってくれた。
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