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午前10時半。
遅めの朝ごはんを食べた後、近所にある御園クリニックへ来た。黒崎の診察のためだ。黒崎が点滴を受けている間、待合のソファーで待った。風邪の症状だとお医者さんから説明を受けた。喘息は起こしていない。
俺は黒崎のことを待つ間、家から持ってきた本を読んでいる。さっそくブックカバーを掛けてある。まさか同じものを選ぶとは思わなかった。
黒崎は気に入ったものを何年も使う。古くなれば、同じ物か同じメーカーのものを買っている。だから、新しいお気に入りを見つけるのが難しい。そこでどんなプレゼントがいいのか考えた結果、ブックカバーならシンプルだし、使ってもらえそうだと思ったから選んだ。
「読み終わった~。どうしようかな?」
マガジンラックを覗くと、週刊誌が目に留まった。表紙には『千尋製菓グループ。お家騒動の結末は?』というタイトル文字が載っていた。
「ああー、こんなに大きく載ってる……」
この企業は早瀬さんの家のことだ。次のトップが誰になるかで、争いが起きているらしい。先月末には、朝の情報番組でも取り上げられていた。業績落ち込みの影響まで出ていると伝えられていた。気になってそのページを開いた。
するとそこには3人の写真が載っていた。親族の関係と組織内でのポストや派閥まで載っている。本当のことだろうか。社長、長男、婿養子が争っているそうだ。
(婿養子か……。この人が早瀬さんのお父さんかな?人が良さそうだなあ)
3人の中で、いかにも温厚そうな人だと思った。さらに読んでいくと、業績悪化が続けば別の企業に身売りをするそうだ。その場合には経営陣が去ることが条件だという。受け入れ先候補に上がっているのが、コンラッドグループだ。お菓子や製薬部門に参入する計画があるという。
さらにページを開くと、黒崎製菓の記事が載っていた。その見出しを目にして吹き出した。
「……壮絶な親子ケンカの和解・成功例。なにこれ?」
悪意のある書き方ではなくて、冗談めいているものだ。イラストも描かれていて、お父さんと黒崎のことだと思った。なんて上手なのだろう?黒崎の顔立ちが優しそうに描かれているのが嬉しかった。
「似ているなあ……」
「その記事は……。親子喧嘩だと?」
振り返ると、黒崎が背後から雑誌を覗き込んでいた。ここへ着いた時よりもスッキリした顔をしているし、両目の潤みが消えている。
「終わったんだね」
「ああ。見せてくれ。俺たちのことか……」
短く返事をした後、雑誌を取ってコラムを見始めた。笑っているから面白いことを書いているのだろう。一緒に読むと、5年前の独立のことが書かれていた。3月に合併して仲直り。それを実際の親子ケンカになぞられている。
「読んでいたら腹が立ったよ。イラストに騙されたーっ」
「そう怒るな。冗談めいた記事を書かれるのはいいことだ。ネタできるほど知名度がある証拠だ。そうでないと誰も読まない。アイビー書店に寄ろう」
「ええ?買うのー?」
「親父との娯楽にする。イラストがよく似ている」
黒崎が肩を揺らして笑った。大らかというか、物事に動じない人だと思った。こういうところも尊敬しているし、大好きな部分だ。
受付で会計を済ませて処方箋を受け取り、クリニックを出た。調剤薬局で薬を受け取り、片道10分間の散歩を楽しみながら、我が家へ帰って行った。
遅めの朝ごはんを食べた後、近所にある御園クリニックへ来た。黒崎の診察のためだ。黒崎が点滴を受けている間、待合のソファーで待った。風邪の症状だとお医者さんから説明を受けた。喘息は起こしていない。
俺は黒崎のことを待つ間、家から持ってきた本を読んでいる。さっそくブックカバーを掛けてある。まさか同じものを選ぶとは思わなかった。
黒崎は気に入ったものを何年も使う。古くなれば、同じ物か同じメーカーのものを買っている。だから、新しいお気に入りを見つけるのが難しい。そこでどんなプレゼントがいいのか考えた結果、ブックカバーならシンプルだし、使ってもらえそうだと思ったから選んだ。
「読み終わった~。どうしようかな?」
マガジンラックを覗くと、週刊誌が目に留まった。表紙には『千尋製菓グループ。お家騒動の結末は?』というタイトル文字が載っていた。
「ああー、こんなに大きく載ってる……」
この企業は早瀬さんの家のことだ。次のトップが誰になるかで、争いが起きているらしい。先月末には、朝の情報番組でも取り上げられていた。業績落ち込みの影響まで出ていると伝えられていた。気になってそのページを開いた。
するとそこには3人の写真が載っていた。親族の関係と組織内でのポストや派閥まで載っている。本当のことだろうか。社長、長男、婿養子が争っているそうだ。
(婿養子か……。この人が早瀬さんのお父さんかな?人が良さそうだなあ)
3人の中で、いかにも温厚そうな人だと思った。さらに読んでいくと、業績悪化が続けば別の企業に身売りをするそうだ。その場合には経営陣が去ることが条件だという。受け入れ先候補に上がっているのが、コンラッドグループだ。お菓子や製薬部門に参入する計画があるという。
さらにページを開くと、黒崎製菓の記事が載っていた。その見出しを目にして吹き出した。
「……壮絶な親子ケンカの和解・成功例。なにこれ?」
悪意のある書き方ではなくて、冗談めいているものだ。イラストも描かれていて、お父さんと黒崎のことだと思った。なんて上手なのだろう?黒崎の顔立ちが優しそうに描かれているのが嬉しかった。
「似ているなあ……」
「その記事は……。親子喧嘩だと?」
振り返ると、黒崎が背後から雑誌を覗き込んでいた。ここへ着いた時よりもスッキリした顔をしているし、両目の潤みが消えている。
「終わったんだね」
「ああ。見せてくれ。俺たちのことか……」
短く返事をした後、雑誌を取ってコラムを見始めた。笑っているから面白いことを書いているのだろう。一緒に読むと、5年前の独立のことが書かれていた。3月に合併して仲直り。それを実際の親子ケンカになぞられている。
「読んでいたら腹が立ったよ。イラストに騙されたーっ」
「そう怒るな。冗談めいた記事を書かれるのはいいことだ。ネタできるほど知名度がある証拠だ。そうでないと誰も読まない。アイビー書店に寄ろう」
「ええ?買うのー?」
「親父との娯楽にする。イラストがよく似ている」
黒崎が肩を揺らして笑った。大らかというか、物事に動じない人だと思った。こういうところも尊敬しているし、大好きな部分だ。
受付で会計を済ませて処方箋を受け取り、クリニックを出た。調剤薬局で薬を受け取り、片道10分間の散歩を楽しみながら、我が家へ帰って行った。
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