夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 歩いて帰ってくると、体がぽかぽか温かくなっていた。家は着いた時には、庭の雪がほとんど溶けていた。すぐに家の中へ入ろうとしたが、黒崎が庭の方へ歩いて行った。

「黒崎さーん、寒いから早く入ろうよ」
「ナツツバキを見たい。せっかくの飾り付けだ」
「そっか。暗いところでしか見ていないもんね」
「片づけは手伝うぞ」

 クリスマスツリー仕様のナツツバキの前に立ち、黒崎が写真を撮り始めた。胸がキュンとした。昨日から、子供っぽくて可愛らしい。

「え?」

 自然とニヤけた顔になったのか、黒崎から攻撃が入った。両方の頬に冷たい感触が起きて身をすくませると、さらに冷たくなった。

「寒いよ、やめてよ~」
「顔が赤くなっている。雪で冷やしておけ」

 黒崎が雪を振りかけてきたから、慌てて後ずさりをした。さらに手を伸ばしてきたから逃げ出した。すると、さらに黒崎が一歩踏み出して、近くの雪を振りかけて来た。

「やめろってば……」
「病院で子ども扱いしてきたからだ」
「だって。嫌がっているんだもん。可愛くてさーー。わああーー、つめたいよ~」

 小さな塊が投げられて頬に当たった。仕返しに、木の根っこの雪を取った。まだ踏んづけていないから綺麗な雪だ。それを黒崎めがけて放り投げると、あっさりとかわされてしまった。しかも鼻で笑われてしまった。地面から立ち上がって地団駄を踏んだ。それも笑って見られている。

「当たらないぞ。まったく」
「くやしい~~!!」

 もっと雪を投げてやろうとすると、苦笑して近づいてきた。そして、マフラーを使って、髪の毛についている雪を払いのけてくれた。その指先は赤くなっていた。

「優しいね。指が冷えているからだよね?」
「これ以上冷たいのは嫌だろう」

 ピン!そう言いつつも、指先で頬を弾いてきた。

「お返しだよ~」
「おい」

 黒崎めがけてダイブしてやった。しっかりと受け止められた後、いつものようにクルクル回って着地した。そして、体を密着させたままで見つめ合っているうちに甘い空気へと変化した。まるで今朝の続きのように唇を近づけていく。はしゃいだから心臓の鼓動が速い。シンとした空気の中で、お互いの息遣いを感じている。顔に掛かるほどに近くにいても、唇を合わせずにいた。

 そして、自然に飾りつけをしたナツツバキの方へ体が向いた。こうやって祝えることが幸せだ。黒崎も同じことを考えているのだろう。同じ方法を見ている。

「黒崎さーん。メリークリスマス!」
「メリークリスマス。ベッドへ行かないか?」
「バカヤロウーー」
「好きなだけ言え……」

 愛おしむようなキスを受け取った。そろそろリビングへ入ろうねと言い、黒崎の背中を撫でた。そろそろ体が冷えてくる頃だ。

俺の方が熱を出した時には、ベッドの傍には黒崎がいてくれる。その反対の時は俺がそばにいる。今日も同じだ。もう一度抱き返して、家の中に戻って行った。そして、家の中の小さいなもみの木に飾り付けをして楽しんだ。
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