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20時半。
厚手の冬用コートとマフラーを巻いて、旅館から出てきた。観光地だけあり、この時間でも多くの人が通っている。現時点での外の気温は7度だ。
仲見世が出ている通りの向こうには寺があり、この時間でも開放されている。写真を撮っているグループがいた。除夜の鐘が目的だろうか?黒崎にとって大事なことだ。その鐘のそばに連れて行きたいと思った。
「黒崎さん。お寺の鐘を突いてきたら?108つの煩悩を消してして来いよ」
「そう怒るな。お前は俺のことを叩きすぎだ」
「煩悩が消えないじゃん。やっぱりさ~」
「憎まれ口の叩きすぎだ」
「その原因は誰だっけ?」
「……さあな」
言い合いをしながら、手を繋いだ。しっかりと食べてきたから、体がポカポカ温かい。いつもは足先まで冷えているのに、靴の中も寒くない。
「いっぱい食べたから、ポカポカしてるよ」
「そうか。……たしかに温かいな。温泉が良かったのか、両方か。いつもあれぐらいの量を食べておけ。特に今の時期はインフルエンザが流行っている。マスクをしていてもだな。肉も必要だ。卵も、魚も……、あとは……」
「そこまでにしてよ。ん……」
「マスクがずれているぞ。苦しいのか?」
「ううん。平気だよ」
寒さ除けにマスクをしている。コンテストが近いため、喉を労わる目的もある。ボーカルレッスンの先生からは、とにかく喉を保湿するように教えられた。マメに水分を取り、外に出る時にはマスク着用だ。
仲見世通りへ向かっている間、何箇所かデコボコした場所があり、つまづきそうになった。足元が見えづらかった。
「……こっちを歩け」
「……ありがとう」
黒崎から肩を引かれて移動した。何気なく繋いだ手が、黒崎のコートのポケットに入れられた。自分も握り返していると、薬指の指輪に触れた。
「ご機嫌だな。欲しいものがあるのか?」
「黒崎さんの身柄が欲しい」
「すでに渡してある」
「ふふん……」
「……夏樹。こっちだ」
「ええ?」
「そこは溝がある」
「ああ、危なかったよ……」
「お前は夜目が利かないからな。こっちを通ろう」
「うん……」
仲見世の通りが見えてきた。商店街のシャッターに付けられたらライトに照らされて、1人分の影が出来た。嬉しいなと思ったら、2人分に分かれてしまった。
「黒崎さん。こっちに来てよ」
「そっちは危ない」
「じゃあこうするよ~」
黒崎の腕にすがりついた。何もないのにどうしたのか?と、不思議そうにした後、小さく吹き出した。視線の先の影のことに気づいたのだろうか。このまま見上げると、息が掛かるほどの距離で視線を合わせてきた。そして、彫りの深い二重の目を細めて、笑みの形を取った。
「もっと近づこう」
「これ以上は無理だよ~」
「こうしてみろ」
「あ……」
顎に手を掛けられてマスクを下げられた。そして、唇を開かされた後、黒崎の舌が入ってきた。しかし、これはキスではなくて、舐めている状態だ。
「口の中を舐めるなよ~」
「濃厚なキスと言え。いつもしているだろう」
「動かし方がイヤらしいんだよ~」
「爽やかなキスは存在しない。俺の中では」
「たまには恥じらえよっ」
「無理な注文だ。お前が恥ずかしそうにするのが見たい」
「バカヤロウ~」
言い返しても笑うばかりで効き目がない。俺も本気で怒る気にはなれず、腕にすがりついて歩き始めた。ここで仕返しと言わんばかりに、重し掛かってやった。
「どこかで見たことがある光景だ。動物園の中だった」
「俺は子ザルじゃないよ。……ズズ」
「寒いのか?」
「うん……、外に出た時よりも冷えてきたね」
「この時間だからな。向こうに店がある。温かいものを飲もう」
「うん……、くしゅんっ」
気を遣って、控えめなクシャミを出した。普段通りに出してしまうと、このムードが壊れてしまう。今夜こそはと、大人同士のデートを目指した。
厚手の冬用コートとマフラーを巻いて、旅館から出てきた。観光地だけあり、この時間でも多くの人が通っている。現時点での外の気温は7度だ。
仲見世が出ている通りの向こうには寺があり、この時間でも開放されている。写真を撮っているグループがいた。除夜の鐘が目的だろうか?黒崎にとって大事なことだ。その鐘のそばに連れて行きたいと思った。
「黒崎さん。お寺の鐘を突いてきたら?108つの煩悩を消してして来いよ」
「そう怒るな。お前は俺のことを叩きすぎだ」
「煩悩が消えないじゃん。やっぱりさ~」
「憎まれ口の叩きすぎだ」
「その原因は誰だっけ?」
「……さあな」
言い合いをしながら、手を繋いだ。しっかりと食べてきたから、体がポカポカ温かい。いつもは足先まで冷えているのに、靴の中も寒くない。
「いっぱい食べたから、ポカポカしてるよ」
「そうか。……たしかに温かいな。温泉が良かったのか、両方か。いつもあれぐらいの量を食べておけ。特に今の時期はインフルエンザが流行っている。マスクをしていてもだな。肉も必要だ。卵も、魚も……、あとは……」
「そこまでにしてよ。ん……」
「マスクがずれているぞ。苦しいのか?」
「ううん。平気だよ」
寒さ除けにマスクをしている。コンテストが近いため、喉を労わる目的もある。ボーカルレッスンの先生からは、とにかく喉を保湿するように教えられた。マメに水分を取り、外に出る時にはマスク着用だ。
仲見世通りへ向かっている間、何箇所かデコボコした場所があり、つまづきそうになった。足元が見えづらかった。
「……こっちを歩け」
「……ありがとう」
黒崎から肩を引かれて移動した。何気なく繋いだ手が、黒崎のコートのポケットに入れられた。自分も握り返していると、薬指の指輪に触れた。
「ご機嫌だな。欲しいものがあるのか?」
「黒崎さんの身柄が欲しい」
「すでに渡してある」
「ふふん……」
「……夏樹。こっちだ」
「ええ?」
「そこは溝がある」
「ああ、危なかったよ……」
「お前は夜目が利かないからな。こっちを通ろう」
「うん……」
仲見世の通りが見えてきた。商店街のシャッターに付けられたらライトに照らされて、1人分の影が出来た。嬉しいなと思ったら、2人分に分かれてしまった。
「黒崎さん。こっちに来てよ」
「そっちは危ない」
「じゃあこうするよ~」
黒崎の腕にすがりついた。何もないのにどうしたのか?と、不思議そうにした後、小さく吹き出した。視線の先の影のことに気づいたのだろうか。このまま見上げると、息が掛かるほどの距離で視線を合わせてきた。そして、彫りの深い二重の目を細めて、笑みの形を取った。
「もっと近づこう」
「これ以上は無理だよ~」
「こうしてみろ」
「あ……」
顎に手を掛けられてマスクを下げられた。そして、唇を開かされた後、黒崎の舌が入ってきた。しかし、これはキスではなくて、舐めている状態だ。
「口の中を舐めるなよ~」
「濃厚なキスと言え。いつもしているだろう」
「動かし方がイヤらしいんだよ~」
「爽やかなキスは存在しない。俺の中では」
「たまには恥じらえよっ」
「無理な注文だ。お前が恥ずかしそうにするのが見たい」
「バカヤロウ~」
言い返しても笑うばかりで効き目がない。俺も本気で怒る気にはなれず、腕にすがりついて歩き始めた。ここで仕返しと言わんばかりに、重し掛かってやった。
「どこかで見たことがある光景だ。動物園の中だった」
「俺は子ザルじゃないよ。……ズズ」
「寒いのか?」
「うん……、外に出た時よりも冷えてきたね」
「この時間だからな。向こうに店がある。温かいものを飲もう」
「うん……、くしゅんっ」
気を遣って、控えめなクシャミを出した。普段通りに出してしまうと、このムードが壊れてしまう。今夜こそはと、大人同士のデートを目指した。
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